将軍たちと隊員たち
米澤統合幕僚長の執務室。
応接スペースのソファには六人の将が腰を下ろしている。
「あれをどう見た?」
「ケント少尉、いえケント少佐ですね。なんとも言い難いですねぇ」
米澤統合幕僚長の問いに深谷海上幕僚長が答える。
「あの白人の見た目で純粋な黄色人種って。そう言われても日本人には見えませんよね」
「魔法などとふざけたことを、と言いたいが。化け物、魔物が現実にいるからな」
米澤統合幕僚長、深谷海上幕僚長、伊藤航空幕僚長、杉山陸上幕僚長、佐伯空将、高橋海将、明石陸将。いずれも疲れた顔をした将軍たち。
「実際に見せつけられましたし。人物も……芦田陸将補が肩を持つわけだな、と」
「明石陸将、ケント少佐を部下にして作戦指揮できるかね」
「……難しいでしょう。上官を部下にして指揮しなくてはいけないようなもんです」
「私もそう思った。実際に会ってみて芦田陸将補の報告に納得がいった」
「芦田陸将補から、まだなにか?」
「まあ、皆には伝えてなかったが、さっきも話に出た異世界、ケント少佐はそこでは貴族で王配、王族なんだそうだ」
「貴族? 王配?」
「王族ですか?」
「日本人浅野ケントであり、ハズラック王国エリオット・キャメロン・コルボーン公爵なんだそうだ」
「こ、公爵ですか」
「こっちの世界なら『王配』とは単なる王の婚姻相手だが、いずれ彼自身が『王』となるはずだったと。国を夫婦で統治するのが普通で、一国に『王』はふたりいるのだそうだ。『閣下』『殿下』『陛下』が正式な呼びかけ方だな」
「……まったく」
「ああ、まったくだ」
米澤統合幕僚長は立ちあがって、自分でお茶の用意をしだした。高橋海将が配膳を手伝う。
「お茶っ葉も最近はいいのが手に入らない」
「……」
「環太平洋合同演習から帰ってこない自衛官たち。行方不明のままだが、七年たっている。元に戻ることは、もうない」
「……」
「新しい日本をつくる。立ち止まってはいられない」
「はい」
「明日、もう今日だが、面会を申し込む手配をする」
「確認する必要がありますね」
「……他の方々はよろしいので?」
佐伯空将がにっこり笑って問いかける。
「本気で言ってるのか?」
「一応は言っておかないと」
「ふん。彼らよりも経済界、産業界のコントロールが問題だな」
「情報本部を当たらせたいという、ケント少佐の考えに従う他はないでしょう」
「厄介な奴らはどうします?」
「力押しだな。……準備に一度ケント少佐を帰す必要があるな」
「では、三軍で地固めをしておきましょう」
「……呼称の変更はタイミングを見てやろう」
さらにケント少佐について話すうちに、疲れた将軍たちの顔に徐々に明るさが戻ってくる。
「さて、国民のために働くには我々にも睡眠も必要だ。解散としよう」
「了」
お茶を手に、ひとり壁に掲げられた国旗を見つめる米澤統合幕僚長。
「……日本か。……初対面の人間をここまで信用する気になるとはな。アイツ、なにか変な魔法を掛けたんじゃないだろうな?」
お茶をすすりつつ物思いに沈む。
「もう代理と思って帰りを待つことはない、か。ククク、芦田陸将補に押し付けよう。……陸将にするか。中将、大将か……国家機密の件も持っていってもらおう」
「都内観光?」
市ヶ谷会館に案内してくれた黒崎二尉と井堀三尉を交えて夜食を取っている機動偵察隊。ルル軍曹の絶叫版「お腹すいたー!」の無理に答えてもらっている。
隊長は何やら資料をつくると先に引き上げている。あてがわれた部屋に荷物を運んだ後でルル軍曹が騒ぎ出して、みんなが同調したのだ。
「初めての東京! どっか行きたい! 行きたい! 行きたい!」
「落ち着け、アカリ」
「わわしわもっほおうおうういあい!」
「ルル! 食べながら喋るな!」
ルルが飛ばすサンドイッチの欠片を、対面で浴びたルーサーが怒る。ゴクンと飲み込むルル軍曹。
「わ、私はもっと撃ちたい!」
「いい感じの射撃レンジだったね」
「ああ、ペンタゴンにもあんなのあるのかい?」
「行ったこと無いからわからんよ。ありそうだが」
機動偵察隊の様子を伺っていた黒崎二尉が質問する。
「ケント少佐ってどんな人?」
「うーん、良い人では、ある」
「強い!」
「ときどき怖い笑顔をする」
「敵に回したくはないね」
「優しいけど、敵対するものには情け無用。でもたぶん……」
「たぶん?」
「たぶん……そう、ヲターク!」
「そう! そう! そんな感じ!」
目が点になる黒崎二尉と井堀三尉。
「そ、そうなの」
「でも暗くないし、良い人!」
「強いしな」
「まああの体格ならわかるけど」
「ああ、小倉駐屯地の普通科連隊二個中隊全員が、司令もろとも叩きのめされた。ケント少佐ひとりとの近接戦闘で」
「アメリカ海兵隊員もだな」
「さっきのあたしたちの魔法なんて序の口、子供の遊び! もっとすんごい魔法を使った!」
「おまけにあれが底とも思えない」
「ええ、まだまだすごい武器とか魔法とか隠してそう」
「だよな。あの自信と余裕はそう思うよな」
「空も飛べるし!」
「……」
「黒ちゃん、私たち苦労するのかも?」
「いっちゃんもそう思う?」
「うん。お気楽自衛官、お気楽公務員が遠のいた気がする」
「そのとおり!」
機動偵察隊全員がサンドイッチ片手に強く答えた。
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