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英雄の帰還 ほどほどでいくけど、復讐はキッチリやらせてもらいます。  作者: ヘアズイヤー
愚連ノ章

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面倒臭いやつは勘弁


 防衛省庁舎A棟を地下二階まで降りる。降りたところに自衛官が立つ検問所があった。


「情報本部、黒崎二尉と井堀三尉。こちらは特殊防衛連隊第一機動偵察隊」

「了。お通りください」


 ふたりは情報本部員なのか。テキパキしているこういう副官が欲しいな。

 扉のない廊下を突き当たりまで歩き、更に検問所があるエレベーターの扉についた。扉横のパネルに黒崎二尉が手のひらを当てて顔を寄せる。

 へぇー、指紋と虹彩、顔認証のチェックパネルか。新半導体なんかは優先的にこういったものに使われてんだろうな。国民の携帯なんかよりよっぽど優先順位が高いか。


「黒崎キョウコ。航空自衛隊、情報本部所属」


 声紋もか。

 スルスルと扉が開き、エレベーターに乗る。

 階数表示器(インジケーター)には階数が表記されていない。色分けだけだ。上から三番目のボタンを押して下がっていく。このボタン、二十階分ある。相当深く造られてるな。


 映画などで地下「秘密」基地って設定がよくあるが、いつも疑問に思ってしまう。

 誰が工事したんだ?

 建築資材の調達、搬入、土木工事。それ以前に地質調査に設計作業もあるだろう。大量の作業員とその衣食住、「秘密」になんてできないんじゃないか?

 「秘密保持契約書」にサインするんだろうが、『オレ、こないだホワイトハウスの地下にでっかいトンネル掘ったんだぜぇ~』って飲み屋のおねーさんに自慢しそうだ。

 ピラミッドの映画では盗掘を防ぐのに作業員を殺そうとするのがあった。農閑期と災害時に雇用を確保する公共事業だったって研究もあったけど。

 そもそも政府主導なら、名目や予算、監査を誤魔化すのに相当苦労するんじゃないだろうか。



 案内された射撃レンジには七人の自衛官が待ち構えていた。一人の胸には白桜の大きなバッジがついている。他も桜の数が四と三。

 統合幕僚長と各幕僚長、陸将、海将、空将。

 大将、中将の揃い踏みなのね。

 機動偵察隊みんなの、ギクッと緊張した雰囲気が背中に伝わってくる。

 俺の敬礼に合わせて機動偵察隊全員が敬礼する。


「特殊防衛連隊第一機動偵察中隊、第一機動偵察隊の浅野ケント少尉です」

「統合幕僚長の米澤ユースケだ」


 答礼と共に各将が名乗ってくれる。


「ケント三尉、いやケント少尉。早速報告を聞きたいが」

「詳細報告の前に、大前提となる『魔法』の実在を証明したほうが良いでしょう。飛行(フライ)


 俺は宙に浮き、そのままレンジの射撃位置まで飛ぶ。


氷槍(アイス・スピア)!」


 十本の氷の槍が浮かんで、レンジの最奥、防護部材の壁に飛んでいく。


 ガッガッガッガッガッ!


氷弾(アイス・ブレット)!」


 パパパッ!


火弾機関砲(ファイヤー・バルカン)!」


 ダダダダッ! ダダダダッ! ダダダダッ!


 氷と炎の弾丸が撃ち出される。


「機動偵察隊! 各自レンジにて氷弾(アイス・ブレット)火弾(ファイヤー・ブレット)の射撃を始めろ! 魔力切れに注意!」

「了!」


 ドドドドドッ!


 並んだ五名の隊員が撃ち出した攻撃魔法弾が、低重音をレンジ内に響かせる。



「これが、魔法です」

「……う、うむ。芦田陸将補の報告は正しいのだな」

「ケント少尉はともかく、隊員全員が魔法を使えるのか」

「教練で使えるようになります。もちろん個人差があり、魔術師に向かない者もいます」

「送られてきた魔術師教練の報告書、戦闘に使えるんだな?」

「はい。ですがもっと重要なことがあります。それが文官を排してもらった理由です。こちらをご覧ください」


 レンジに付随したテーブルの上に、魔法銃を並べていく。レンジには標的紙をセットしてもらう。


「魔法銃と呼んでいます。機動偵察隊、射撃を披露する」

「了!」


 ダダダダダッン!



 米澤統合幕僚長に話しかける。


「この魔法銃が重要なのです」

「……誰でも撃てるのか?」

「はい、トリガーさえ引ければ。ガンパウダーの代わりに魔法、魔力、魔石を使用し、魔法が使えない自衛官でも発砲できます」

「撃たせてもらっても良いかね」

「はい」


 魔法銃を渡し、試射を行ってもらう。



「確かに文官の立ち会いには慎重になるな」

「熊本でも他の湧き穴でも、役人や警察官の姿はありませんでした。自警団と自衛隊だけです」

「彼らは、あの化け物たちは『犯罪者』ではないから立ち会わないと言っている」

「ええ、聞きました。国民の生命、財産が脅かされているのにです。『戦争』であることが理解できていない。『災害』とでも思っているのでしょう」

「……」


 大将と中将たちが見つめてくる。


「銃器を、武装を獲得する。この意味が重要だと言うのだな」

「はい」

「……続きを別室にて行うこととする。各将は副官一名を伴うこと。ケント少尉、休憩が必要かね?」

「できれば隊員たちに食事を取らせたい」

「用意させよう。では十三時(ひとさんまるまる)に始めるとしよう」



 地下司令部にある食堂にて昼食を提供され、会議室へと案内された。

 改めて機動偵察隊を紹介し、副官たちも紹介される。


「予定調和の必要な国会じゃない。ケント少尉に進めてもらうことしよう。報告会でもあるしな」


 米澤統合幕僚長の一言からスタートした。


「では。熊本健軍駐屯地にて芦田陸将補が特殊防衛連隊を創設しました。現在TSMEも傘下に加わり、魔法と魔力、魔法素材の基礎研究と魔法教導、魔法銃の量産を準備しています」


 資料配布すべきなんだろうけどそんなものは無いしな。構想を話しているだけに見えるだろうな。正しく理解する人たちと期待しておこう。


「基礎研究と合わせて諸兵器開発も進めています。魔法銃のサブマシンガン化、ロケット砲、各種ミサイル。魔法によるレーダー、魔力素材によるボディアーマー。装甲車、戦車への技術転用も検討しています」

「陸上自衛隊中心なのは仕方ないのか?」

「伊藤空将、確かに陸自が中心となっていますが、単独で動く必要はまったくないと思っています。旧日本軍の海軍と陸軍による主導権争い、あの失敗を繰り返す余裕はありません。三軍が一つになるべきです。続けます。兵器開発は航空機、艦船も検討していますが、急務と考えます。機動偵察隊は空を飛ぶ魔物、海中をゆく魔物に遭遇し、これを撃破しています。航空機、艦船の行方不明はこれらの魔物によるものでしょう。空、海、陸と流通の確保のために武装は不可欠です」

「……で、それは自衛隊全体の使命だ、となるか」

「はい」



 その後、会議は夜半まで続いた。各将とも疲労が見えてきたので「作戦案を計画する」ことで終了となった。

 アカリ伍長たちも実戦を経験した自衛官として、鋭い意見を出してくれた。かなり緊張させてしまったけど。

 ルル軍曹の黒狼(ガルム)討伐は全将の興味を引き、ルーサー少尉たちの自動小銃化と全歩兵への供給話には賛同の声があがった。



「ケント少尉。黒崎二尉と井堀三尉を副官とするように。『少尉』では役不足だな。三佐、いや『少佐』に任命する。統合幕僚監部作戦立案佐官を兼務してもらう」

「了!」


 思わず敬礼してしまった。なんか、雁字搦め(がんじがらめ)になっていってるのは気のせい?



 会議室を出たところで、甲高い神経質そうな声が廊下を引き裂いた。


「米澤統合幕僚長! これは一体どういうことですか! 統合幕僚監部の会議に防衛大臣が出席できないとは!」

「内部の意見調整会議でね。大臣の出席には及ばない」

「事務次官に参事官も出席できないとは!」

「意見調整と言ったのだがね」

「あなたたちは我々文官の(した)だ! 勝手に会議を開くんじゃない!」

「ほう。そう言ったのは総理かな? 防衛大臣かな? キチンと弁えて口を聞きたまえ。我々は疲れているうえに、まだ仕事を残している。邪魔をしないでくれないか」


 このキンキン声、耳が痛い。スーツ姿は官僚か。面倒臭いヤツ登場?

 黒崎二尉がこっそり「参事官です」と耳打ちしてくれた。


「米澤統合幕僚長、お話中失礼します。我々はここで失礼します」

「了解した。ケント少佐ご苦労だった」

「ま、まて! お前外国人か! 黒人まで! なんだ貴様らは!」

「あー。米澤統合幕僚長、みなさん、別な魔法を見たくはありませんか?」

「おお、見たいぞ!」

「ええ、ぜひ!」

「では。恐怖(フィアー)


 その声が届いた参事官は顔色が真っ青になり、ガタガタと震えだした。ストンと腰を落としてズボンの前が濡れていく。


「おやおや? お顔の色が悪いですが、大丈夫ですか?」

「ひ、ひぃーーー!」


 参事官は震えて四つん這いで廊下を逃げていく。

 途端に、将軍たちの大爆笑が廊下に響いた。


お読みいただき、ありがとうございます。

以下は押しつけがましくて本当は嫌なのですが、評価はいらないと思われるんだとか。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
秘密基地どうやって作るんでしょうねw 常々疑問に思ってました 文官立会のところ、昨今の熊被害でも言われてますねぇ 遂に現場に出されるようになったみたいですが
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