防衛省ヘリポート
朝食後に、厚木航空基地からブラックホークを飛び立たせる。
目的地は市ヶ谷防衛省。
飛行途中で各地の惨状が目についた。所々に大火の跡、崩れたビル群があるさまは、まるでディストピア映画のよう。
首都圏の都市として広がっていたビルや住宅地が、一面の耕作地にもなっている。
もうそろそろというところで、異変が目についた。
「なんだありゃ? ルーサー、右下の輪になった廃墟が見えるか? あの上を旋回してくれ」
「了!」
新宿あたりだろう。
……ここにいるのか?
大量の瓦礫で幾重にも塀が造られ、外側は更地になっている。内側にも傾き崩れたビル群を縫うように、塀というか障害物が積み上げられている。
中央部から湧き穴の魔力を感じる。
周りで何人もの人が群れている。車両も障害物の間を走っている。
「芦田少将の情報にはなかったな。湧き穴を隔離しているのか?」
「ケント少尉。大量の霊、いえ魔力を感じます」
青い顔をしてミズキが眼下を注視している。
「ああ、尋常じゃないな。ミズキ、気分は悪くないか?」
「だ、大丈夫です」
だが、こりゃ大問題だな。
新宿須久奈会、谷崎敏史組長に身を寄せているはずの佐藤順次。
探し出すのに苦労しそうだ。
「うん。ルーサー、市ヶ谷に行ってくれ」
「了」
新宿から数分とかからずに市ヶ谷防衛省、庁舎A棟の誘導員の指示で屋上ヘリポートに着陸した。
専任の誘導員とか整備員じゃないよな。ここに航空基地機能はあったかな。使用予定の発表はあったような気もする。各警備隊の兼務か。
待ち構えていた誘導員以外に、常装の女性用正帽を手で押えた自衛官が二名いる。海自と空自の制服だ。
スカート姿って、風強いのに。
女性自衛官正帽はどうしてあの形なのかな。女性も男性用を被ったほうが、絶対カッコイイと思うんだけどなぁ。スカートもそうだが、決定に「おじさんたち」の男尊女卑が透けて見えるな。
彼らに従ってブラックホークから離れる。
「お待ちしていました、ケント少尉。海上自衛隊二等海尉、黒崎キョウコです」
「航空自衛隊三等空尉、井堀ハルカです」
「特殊防衛連隊少尉、浅野ケントです」
答礼をする。WAF(※1)にWAVE(※2)か。あ、二等空尉って中尉か。上官?
「須比智之会の皆様と特殊防衛連隊には市ヶ谷会館にお部屋を用意しています。ブラックホークは立川での整備を手配済みです。少尉はすぐにブリーフィングに参加してください」
「あ、ああ、ちょっと待って。……ルーサー! 整備は必要か!」
「今朝終わってますからね! 燃料補給はしておきたいですが!」
「そいつは後で入れとこう! 全員が降りたら収納してしてしまおう!」
「了! エンジン停止します! カーラ冷却時間を測定してくれ」
「アイ・サー」
「井堀三尉、すぐの機体整備は行わなくていい」
「ですが、市ヶ谷には駐機と整備施設がありません」
「そいつも気にしなくてもいい、こっちでやる。柴坂、隣の市ヶ谷会館に部屋を用意してくれてるそうだ。グランドなんとかホテルだったな」
「ありがとうございます。ですが、私たちは本宮に向かいます。車をお願いします」
作務衣姿のミズキと衛士がそろって頭を下げる。
「了解した。玄関まで行こう。ルーサー! 下でミズキたちを送ってから収納だ!」
「アイ・サー!」
「少尉! 少尉! 統合幕僚監部でのブリーフィングが予定されています。先に報告してもらいます」
「待たせておいて。こっちが大事だ」
庁舎A棟玄関まで降りる。須比智之会のレンジローバーを亜空間収納から取りだして乗車してもらう。
「え?」
「ええっ? 車が!」
「後で説明するよ。えっと、井堀三尉、警備隊に連絡をたのむ。登録してない入場記録のない車両が出場すると」
「……了」
「ケント少尉、乗せていただいてありがとうございました。では後ほど」
「後ほど? また来るのか?」
「そうなると思います」
「まあ、そうか」
ミズキが綺麗に一礼し、ローバーに乗って出発する。
「……さて、もうエンジンの冷却は済んだろう。ヘリポートに戻る」
「……了」
屋上までのエレベーターに、井堀三尉と乗り込む。同乗しようとした自衛官とスーツ姿の民間人を手で制し、隣に乗るよう促す。
「振動結界。化身」
「?」
「盗聴防止の魔法を使った」
「え?」
「盗聴器は心配ない。カメラには全く別人が映っている。ここは防衛省という名の、軍事施設、だろう? 地下の大本営地下壕跡の更に下、核シェルターと司令施設が造られていると予想してるんだが。そこに射撃訓練場、射撃レンジはないかい?」
「……」
「機密だろうな。知りたい理由はな、統合幕僚監部への報告では『魔法』の実在証明が必要になる。それには魔法を使ってみせるのが手っ取り早い。で、射撃レンジでの実演が一番良い」
「……」
「それと統合幕僚監部には大臣だの事務次官、審議官だの文官がいるよな。自衛隊の軍事訓練を受けていない、軍人じゃない民間人。武官じゃないやつらは排したい。まずは軍人への報告だ」
「……」
「民間人が出席するブリーフィングなら口頭報告をしない。いやなら報告書を待ってもらう。そう伝えてくれ」
「……了」
ヘリポートにでて、所在なげにしている機動偵察隊に手をあげる。みんなは魔石訓練をしていたようだ。感心感心。その心がけが強い魔術師を生むんだ。
「おまたせ。ミズキたちは出発した。ブラックホークは冷えたか?」
「アイ・サー。収納できます」
「了」
黒崎二尉と井堀三尉が小声で相談している。
「ケント少尉、ブリーフィングルームに報告してきます。一階下の応接室でお待ち下さい」
「わかった。おっと、その前に見てもらいたいものがある」
「?」
黒崎二尉、井堀三尉の前でブラックホークを亜空間収納に入れる。
「え! 消えた!」
「ええっー!」
「こいつも魔法だ。駐機は必要ないし、立川まで飛んでいかなくていい。どこか整備施設のあるとこまでこうやって運ぶ」
本当はエンジンを冷やさなくてもいいんだが。亜空間収納で温度が変わらないようにできるからな。
最初に印象づけたほうがいいからな。ふたりへのちょっとした悪戯だ。ごめんね。
ヘリポート階下の応接室に黒崎二尉が戻ってきた。
「ケント少尉、了解が取れました。地下射撃レンジへご案内いします」
「了。全員移動する。魔法と魔法銃の実演だ」
「了!」
※1 WAF:Women in Air Force ワッフ、女性航空自衛官。
※2 WAVE:Women Accepted for Volunteer Emergency Service ウェーブ、女性海上自衛官。
お読みいただき、ありがとうございます。
以下は押しつけがましくて本当は嫌なのですが、評価はいらないと思われるんだとか。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。




