新宿番外地
新章「愚連ノ章」の第一話を投稿します。
ここから東京編です。
東京では思いもかけない人々と邂逅ます。
「殴り込むぞ!」
「ひとりも逃がすんじゃねぇぞ!」
「殺っちまってもいいからな!」
「オオッ!」
スキンヘッドにマオリの「タ・モコ」に似ている特徴的なタトゥーの男たちが、押し殺した声で会話する。手にはゴブリン剣、鉄鎖、鉄パイプの槍、釘バット。
仄かに明かりが漏れる雑居ビル。
玄関前に焚き火が焚かれ周りを取り囲む者たちは三人。先端をナナメに切り落とした鉄パイプをだらしなく持っている。酒を呑んでいるようだ。声高な笑い声がする。
ボゴンッ!
焚き火に照らされた男が後ろから鉄パイプで殴られ、派手に血を吹きあげた。
「うっわ!」
他の者たちも数名で取り囲まれて殴り倒され、くぐもった悲鳴をあげた。
「ぐ、カチコミだぁー!」
「ちっ! だまれこのっ!」
「新宿だぁー! 新宿の人狩りだぁー!」
ひとりが叫びよろけながら雑居ビルの中に走る。その後を追って、スキンヘアの男たちが雪崩込む。
「殺せ! 殺せ!」
「上階に追いあげろっ!」
「ヒィー!」
バタンと戸の開く音。ガチャーンとガラスの割れる音。
ズンッと物の落ちる音。鈍い殴打音と響く悲鳴。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
「終わったぞ。トラック呼んでこい!」
「上の階から運んでこい。隠れてるヤツには気をつけろよ!」
「わかってる!」
「怪我したやつは?」
「ウチのか?」
「サブがウデ斬られやした!」
「ちっ! ドジが! 仕方ない別便で連れて帰れ!」
「ウデ取れそうだけど……」
「あーもうっ! ドクんとこ連れてけ」
しばらくして雑居ビルに草臥れた2トン車と軽トラが横付けされる。スキンヘッドの男たちが次々と血を流す人を階下に降ろして、荷台に詰め込んでいく。
「あーあ。女までやっちまったか。もったいねえなぁ」
「馬鹿、よく見てみろ。シャブ中のボロ雑巾だぞ。エサにしかなんねぇって」
「それもそうか」
息のないものも四肢のないもの、うめき声をあげているものも区別なく荷台に積まれる。
「アニィ、『シブヤレッズ』はあらかた片付けたッス。ボスも幹部たちも逃がしてないッス」
「よし、よくやった。運んでいけ!」
渋谷を根城にするストリート・ギャング「シブヤレッズ」は構成員の殆どが殺されるか、捕らえられた。
トラックの車列は北上する。
新宿駅を含んで歌舞伎町から大久保までを囲む高い塀がつくられている。
大混乱前に林立していた雑居ビルは、塀の材料として解体され更地になった。瓦礫を積み上げた塀は五階建てのビルより高く、検問ゲートには扉がつくられている。
警官に誘導された車列が扉の中に入っていった。荷台からは手足が見え、血が滴っていたが、警官は気にする様子もなく無言で車列を通した。
警官たちによって閉められたツギハギと錆だらけの巨大な鉄扉には、大きく乱雑な文字が書かれていた。
『新宿番外地』。
徳島阿波おどり空港から厚木航空基地までは、直線距離なら約465km。
ブラックホークが三時間ほどで行ける計算だ。何事もなく無事に到着。
無事に?
オランバディ三十余頭が無事と言えれば。
かなり遠くに飛行するものも視認したが、竜か飛竜、大鷲か。相当な巨体だろう。
空をいく魔物を避けて高度変更しながら、なるべく地形に沿って直進した。
窓から見える地上は、憶えている衛星写真とは違っている。都市や市街地は荒れているように見える。瓦礫が散乱し大火の跡らしきものも多かった。
元は住宅地であったろう場所が、耕作地になっているようだ。
遠くにSLらしき物も見えた。
相模湾から相模川を左にみて海上自衛隊厚木航空基地を視認する。すぐ横にゴルフコースがあったはずだが、何かの農地になっている。
米軍基地でもあるためゴルフ場でのプレーにはパスポートが必要だったな。管理は日本だがカリフォルニア州の特別区という扱いになっていたはず。農作業にもパスポートが必要ってか。
海自ハンガー前に着陸した。基地司令田中海将補に到着を報告した後で、宿舎で一時解散する。
「諏訪少佐、厚木に着いた」
『無事ですか?』
「問題なく着いた。芦田少将にも報告はしたが、魔術師教練は諏訪少佐が仕切っていると聞いてな。連絡した」
『はい。名称についてはご相談したいと思っていました。仮に『魔術師隊』と呼んでいます』
「魔術師隊か。こっちでも考えよう。連絡したのは前に話していた魔物誘引仮説についてなんだ」
『……ケント少尉の魔力が湧き穴に作用しているって仮説ですね』
「ああ、今一緒に行動している須比智之会の巫女ミズキが、俺の魔力は高野山からでも感知できたようなんだ」
『高野山? 和歌山県ですか?』
「ああ。それでな、そっちでも魔力放出の制御訓練をしてもらいたい。個人の魔力が多すぎると強い魔物が湧く可能性が高い。危険だ」
『了。方法は?』
「基本は魔力の体内循環をゆっくりと行って、背骨、脊椎に魔力を溜め込むイメージなんだ。造血と血液の循環を想像するといいかもしれない。詳細な考察はテキストを送る」
『了』
「湧き穴の見張りは魔力を探知できるんだと思う。玉杵名市自警団で見張りをしている萩さんのような人に、確認してもらいながらの訓練がいいだろう」
『了』
「それと別件なんだが、副官が欲しいんだ」
『今の隊員では駄目ですか?』
「駄目じゃないんだが、彼らは戦闘に特化させたい。関係各省との交渉が必要になりそうなんだ。政治家や官僚たちとの交渉に長けた知り合いはいないか?」
『……わかりました。二、三心当たりがあります。詳細をお送りします』
「助かる。連絡は以上だ」
『了』
さて、やれやれだ。
もう日が暮れる。みんなを休ませよう。
一夜明けて朝食ミーティングをして今日一日は休日とする。
俺もここからは私用だ。
軽トラをだし、近くの神奈川県警大和警察署で手配書を確認する。安い窃盗が主で、高額懸賞金、重罪犯の手配書はない。
「ちぇっ、しけてんなぁ」
「おい、お前。今なんと言った?」
ちょうど後ろを通った巡査に声を拾われた。
「……いや治安が良いなぁって言ったんだ」
今朝の俺の格好は冒険者風。自衛官の制服は着ていない。
こっちを胡乱な目つきで見ているので、言葉を継ぐ。
「軽微な犯罪ばかりだからさ。検挙率が高いんだろうなぁと思ってな」
「ふん。当たり前だ。警察を舐めるんじゃないぞ」
鼻で笑って巡査は奥に行ってしまう。
俺って外人顔で、ちょっと見ない麻の上下だ。見るからに怪しいだろうが気にしていない。検挙率じゃなくて、なんか理由がありそうだ。
国道467号線を走る。
すこし東に入ったところに、義妹の家があったはず。
道路沿いは人があんまり歩いていない。廃屋が連なって続いている。
東に曲がり、坂の上から見下ろすとあたりは農地になり、ポツンポツンと住宅と団地の廃居がある。
このあたりなんだが……。この境川に沿ったあたり……。
竹槍と鉄パイプで武装した農作業中の人に尋ねると「知らん!」の一点張り。遠くから幾人もがこちらを警戒していた。軽トラを物欲しそうに見ているやつもいる。
さらに南下して義母の家を探す。
義妹の家と同様に、あたりが廃墟と農地になっていた。
義母の行方を知る人はいなかった。
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