ミズキの神術
「範囲障壁! 夜のガルムはたちが悪い! 凶暴になって高機動車も潰されかねない」
「あ、柴坂たちが」
「大丈夫だ……魔法で障壁を作って守っている。だが夜はガルムの動きも疾くなる。俺もでる」
「でも闇の中にもいます! 三、いえ四!」
ミズキが教えてくれる。探査能力が高いな。
「うん、いるな。湧き穴外に、三十ぐらいは湧き穴から出てるって考えたほうがいいか」
「えッ、三十も……」
黒狼は群れる魔物だ。
一頭でも行動するが、三から七、八頭ほどが一群れになっていた。三十を超えた群れを見たことがない。だがリスクヘッジするなら最大の群れと考えたほうがいい。
ガルムは眩しいのが嫌なのか光を避けるように闇に溶けていく。
「いなくなった?」
「いる。だが大丈夫だ。暗視装置を装着」
「了!」
小倉駐屯地でサリーから受け取った試作品は、魔法銃のほかにもいろいろとある。
電子部品を換装した暗視装置もそのひとつだ。
俺は魔法で周りの状況がある程度はわかるが、暗視装置ほど明解ではない。隊員たちも裸眼では夜暗の戦闘はきつい。その上ガルムの数が多いのも荷が重い。
俺もテッパチに四眼の暗視装置をつける。
「ミズキ、柴坂さんに言ってレンジローバーのライトを消させてくれ。暗闇だが、こちらで防御しているから二時間は安全ともな。アカリ、指揮車に連絡。『機動偵察隊は暗視装置を使った夜戦に入る。ライトは最低限とすること』以上だ」
「了」
「いいかみんな相手はとにかく素速い。ツーマンセル、スリーマンセルであたれ」
「了」
ライトを消して準備し、降車したところでさっきのガルムが近づいてきた。
「氷弾三連射!」
ギャンッ!
氷の弾丸がガルムの頭部を貫いて悲鳴をあげさせた。
ダダンッ! ダダンッ!
ルルたちも攻撃を開始した。
「傷ついても襲ってくる! 頭を潰して完全に息の根を止めろ! 当たったからと気を抜くなよ!」
「了!」
俺の後ろに隠れるように、高機動車を降りてきた魔力を感じた。
「ミズキ、どうしてここにいる?」
「修行です!」
「危険だから車にいてほしいんだが」
「悪鬼調伏、悪霊調伏は私の務めです」
「そ、そうか。だが暗闇ではよく目が見えんだろう」
「夜目がききます。霊視もできます。道もガルムも、よくわかります」
「……霊視ねぇ。……俺から離れるなよ」
「はい!」
嬉しそうな声が答えた。
「皆さんに荒魂の加護を与えます! 臨兵闘者皆陣列前行。青龍白虎朱雀玄武勾陳南斗北斗三台玉女。天一神! 守護せよ!」
ミズキの錫杖から魔力が立ちあがって人の形になる。そこから枝が生じて機動偵察隊、衛士たち全員を包み、さらにあたり一面に薄く広がった。
何んだこれ? ミズキの魔力か?
「アカリさん、右手のガルムがまだ動いています! 止めを刺してください!」
「ミズキ? 了!」
ダダンッ!
五頭のガルムは討伐された。
銃での攻撃は対戦の距離を変える。
槍と剣ではどうしても相手の間合いに入ってしまう。息がかかるほどの距離、近接戦闘になる。
剣の届くところは、相手の剣や爪、牙が届く距離だ。完全に無傷とはいかないことも多い。槍は初撃を外されれば危うくなる。弓矢は対面で戦うには度胸と技術が求められるから、長い訓練が必要となる。
銃ならば、近づかせずに倒せる。
ここから湧き穴までは暗視装置を頼りに徒歩で進む。
湧き穴前では、ガルムとの戦いが行われていた。
給食班と救護班を真ん中に集めて、自衛官と自警団員たちが護るための円陣をつくっている。
「陸自の救援が出撃した! すぐに助けが来る!」
「それまでなんとか踏ん張れ!」
「おお!」
だが、周りを取り囲んだ巨大なガルムに一人また一人と引きずりだされていく。
「天一神! 彼らを守護せよ!」
彼らが見えた瞬間にミズキが神術を使う。一人を引きずっていた二頭のガルムが弾き飛ばされた。
「範囲障壁!」
ミズキの神術に続いてシールドをはる。
機動偵察隊は駆け出しながら射撃を始めた。
自警団員を取り囲むガルム十頭を射殺。湧き穴近くで人を喰らっている二頭を射殺。
近くの林に逃げ込もうとした一頭を射殺。
「ケント少尉! 湧き穴から、いっぱいでてきます!」
「……了。追加で二十だな。偵察隊湧き穴前で横列! 合図を待て!」
「了!」
やはり山に散ったやつがいるが、それよりも湧き穴だ。三十どころじゃないな。
「出きったら障壁で穴を塞ぐつもりだが、ミズキの魔法、いや神術で穴を塞ぐものはあるかい?」
「結界が試されましたが、一時的なものです。すぐに破られました」
「結界か。恒久的に穴を塞げればいいんだがな」
「……常に霊力を使わねばなりません。……人身供犠の祭壇が必要と言うものもいますが……」
「人身供犠? 人身御供ってやつか? そりゃ本末転倒だ」
「……はい」
「くるぞ! 射撃用意!」
湧き穴からガルムが歩いて出てくる。五頭出てきたところで、ガルムが駆けだす。
「撃て!」
ダダダンッ! ダダダンッ! ダダダンッ!
続々出てくるガルムを射殺していく。
「二十っと。お、そうか。ミズキ、湧き穴から後続が出てきそうか?」
「……いえ、見えません!」
「障壁!」
ミズキは俺と同じぐらい魔物を感じられるな。いや霊視だから見えるのか?
後続防止に、湧き穴を塞ぐ。
「林に逃げたのは見えるか?」
「……はい。四頭? います」
「同じだな。俺にもわかる。神術ですぐに攻撃できるか?」
「……すぐには無理です。式神を降ろさねばなりません」
「そうか。じゃ俺がやるしかないな。誘導氷弾!」
細長い氷槍を多数打ちだす。ホーミング機能付き。
移動している四頭を追尾し、息の根を止めた。
「範囲障壁解除。ミズキ、柴坂さんたちを呼んでくれ。救護の人手が欲しい。アカリ、指揮車に連絡。『未知の魔物は殲滅を完了。要救護者多数』と」
「了」
黒狼がこの数で出てくるとはな。オークよりはマシだが、いまの自衛官と自警団員には強敵になる。全ての湧き穴で一斉にでたら被害甚大だ。
俺に誘われたと思いたい。強敵が出るのは俺の近くだけだと。
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