未知?
ミズキの光弾は五発撃ったところで、疲れて屈みこんでしまった。
「はぁはぁ」
「大丈夫かい?」
「はぁはぁ、……霊力がなくなるなんて……初めてです!」
「そ、そうか。なくなってはいないようだけど。光弾は撃てるようになったが、まだうまく魔力が使えていないね」
「……式神を降ろす時よりもツライです」
「うーん、まだ魔力に余裕がありそうなんだが。魔力操作に無駄があるか。魔石を渡すからみんなと同じ様に充填吸収の訓練をしよう」
「……はい」
「それと合わせて全身を巡る魔力を、自分の思ったところに集める訓練もだな」
「思ったところに?」
「ああ。ミズキさんは全身から放出し続けてる。たぶん無意識なんだろうが……。その放出を自分の意志で止めたり放ったりできるようになれば、それほど疲労しなくなるだろうな」
「あなたのようにですか?」
「昨日まではミズキさんみたいに打ち掛かる人がいなかったから、制御をしていなかった。いまは体から漏れないようにしている」
あれ? 魔力制御をしてないからオークやハイオークが出てきた? イヤな予感はこれか? 俺の魔力が魔物を誘引するってか。間違っていない気がするのが困ったもんだな。要検証をどうする?
担当、誰がいいかな。アカリとクロウドでやってもらうか。
「錫杖は魔力伝導率が高いみたいだからな、まず頭の遊環を中心にしてみよう。遊環に魔力を集め右手を通して体に戻す。それを右足の小指までおろして、体の中央を通り左足の小指から左手を通して遊環に戻す、って感じだな。魔力を血液のように循環させればいい」
「血液のように……」
偵察隊のみんなは魔石の扱いが熟れてきた。アカリは火が出せるようになった。
「火を出しているが、それを水や氷、石をイメージすればまたちがった魔法になる。火、水、氷、石とね。火はイメージしやすいが物理攻撃力は氷がわかりやすい」
「氷ですね」
「ルルの射撃は良かったし、クロウドは狙撃手教育を受けている。銃での攻撃を氷ですると思えばいい」
「了」
「ケント、オレとカーラもマークスマンメダルをもらっているよ」
「おお、スゴイね。それじゃあ、面制圧のフルオート射撃を氷でするイメージでやってみろ。今まではのは、ばら撒くフルオート。氷魔法では、全弾命中するフルオートだ」
「全弾命中……イエッサー!」
昼食を挟んで午後も魔法教練をおこなった。軍事教練と修行に慣れているためか集中力が高い。
柴坂さんたち須比智之会の黒スーツは「衛士」という役職で、ミズキのボディガードを努めている。少ない説明だったが、普段は修験道のような修行しているらしい。彼らも火を出せるようになった。
「魔力」を「霊力」と捉えれば理解するのが早いからだろう。
司令の了解をもらい、彼らも陸自宿舎に泊まることになった。夜も魔法制御の教えを受けたいというミズキの希望があったからだ。
「ケント少尉。彼らはどうも宮内庁と繋がっているようだ」
「へ? 宮内庁?」
池田海将補に許可を貰いにいったところで明かされた情報、つい間の抜けた返答をしてしまった。いやだって宮内庁って……陰陽師は明治時代になくなったんじゃなかったか。平安には朝廷の陰陽寮ってとこの役人だったようだけど。
「いまも関係してるってこと?」
「それがよくわからないが、防衛省への定時報告をしたんだ。ミズキさんと『須比智之会』の件もな。さきほどそれについて防衛省事務次官の秘書から通達された内容が、粗相のないようにだったんだ」
「……うーん、現皇関係か」
「粗相のないように頼みます」
「……イエスマム」
全員で夕食を取り休憩の後、自習室で魔石を利用した魔力制御の訓練を続ける。充填吸収の速度が速くなってきている。いい傾向だ。続ければ確実に魔力が増えていく。
俺も参加しているがハイオークの魔石は数が少ないし、そう大容量でもない。
大きな魔石で思い出した。以前討伐したヤツを亜空間収納に入れっぱなしにしていた。巨獣、巨人のものを取りだした。
「うわっ! でっかい魔石! 魔石?」
「ケント……その大きいの……魔石ですか?」
ルルとクロウドが声を出したが、他の者たちもみんな驚いている。人の頭ほどもあればな。もっと大きいのもあるんだが、今は出すのをやめておこう。
「ああそうだ。こっちの茶色っぽいのが巨獣ので、こっちの青みがかったのが巨人のだな」
「……魔石がその大きさなら……本体はどのくらい大きいの!」
なぜがワクワクした顔でカーラが聞いてくる。
「あ、うん。そうだなあ、巨人がガン◯ム、巨獣が一番大きいのでムリーヤくらいだが、こいつの本体は空自のC1輸送機くらいだったと思う」
「……」
わかってない人もいるが、聞いたことのある自衛官たちが俺に変わって滔々と説明を始めてくれた。ガ◯ダムはお台場で、C1は航空祭で見学したことがあった。
自習室での訓練中に陸自司令の副官が飛び込んできた。
「ケント少尉! 緊急事態です!」
「どうした?」
「湧き穴討伐二班から救援要請です。未知の魔物が出現し、犠牲が出ています!」
「未知? 了解した。特殊防衛連隊、出動準備!」
「了!」
夕食後とあってミズキは巫女装束ではなく浅葱色の作務衣を着ている。衛士たちはみな紺色の作務衣姿で、そのまま着替えずに警棒や独鈷を手にしている。
ミズキはなんの躊躇いもなく高機動車に乗ってきた。柴坂さんも衛士たちも止めない。時間をかけられないのでそのまま同乗する。
すでに陽の落ちた道を高機動車で移動する。レンジローバーもついてくる。電力発電に不安があるため、街灯はほとんどついていない。
湧き穴に向かう四車線の道路、事故かなにかだろうか車の残骸をよけて通る。
「ひッ! 横から!」
「クロウド! 速度を落とせ! なにか向かってくる!」
ミズキが悲鳴をあげた。
突然ヘッドライトの光に大きな黒い影が飛び込んできた。急ブレーキで衝突は免れたが大きく車体が振られる。後続車も甲高いブレーキ音をあげて停車する。
「あれは!」
ヘッドライトに浮かび上がったのは、巨大な真っ黒の塊。真ん中にある嫌な赤い光がこちらを見ているかのよう。
「あいつ、……ガルムか!」
「ケント少尉!」
「あいつは魔帝の猟犬! 黒狼だ!」
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