教練
「やぁ、おはよう。はやいなぁー」
「おは……え? あれ?」
「ミズキ様?」
「え? なぜ?」
「ミズキ様、ご挨拶が……」
偵察隊全員で朝食をとっているところに来客が伝えられて、宿舎の玄関でミズキたちを出迎えた。
昨日は当番後に、彼らを徳島阿波おどり空港まで同道させた。海自、陸自の両司令とともに取り調べを行い、俺が「一つ貸しね」と不問に付すことにした。徳島市内に宿泊場所があるということで二台のレンジローバーは引きあげていった。
朝から須比智之会がそろって訪ねてきたのだが、ミズキがいきなり挙動不審になっている。
「どうかしました?」
「……霊力が……ない?」
「ああ、これか。じゃこれでどう?」
「えっ! 霊力がある……」
「魔力操作をしてるからな。ダダ漏れの魔力は敵に察知されやすい。気配を消すことが戦闘には必要だ。魔力操作は身につけたほうがいい」
ミズキは霊力と言っているが、俺は彼女の魔力が多いと感じられるから同じものなんだろう。
昨日は式神くんのお持ち帰りを考えたが、本物の陰陽師がどう反応するかわからない。式神くんが悟られて悪感情を持たれるのはまずいと考えた。また打ちかかられても面倒だ。式神くんはもうしばらく様子を見てからだな。
「……浅野ケント少尉、本宮の許可をもらいました。私に火炎神術、いえ、魔法を教えてください」
ミズキがきれいなお辞儀をして、柴坂さんたち黒スーツも揃って頭をさげる。
どんな説明がミズキからされたかわからないが、許可をもらうってことは霊力や霊能力、神術を知る人たちってことか。
鍛えれば湧き穴に対処できる人材が増える可能性が大きい。
「ルーサー少尉。ブラックホークはどれくらいで飛べるようになる?」
「明日には」
「了。では今日一日、魔術師教練をしよう。偵察隊も参加だな。ミズキさんたちは朝食は済んだかい?」
「はい」
「よし。じゃあこれから始めるか」
陸自、海自に滑走路の東側で教練を行うことを通達する。参加させたい自衛官が集められた。両司令もいるのはなぜだろう?
「まずはデモンストレーションだな。俺が戦闘に使える魔法を見せる」
自衛官の中には「なんのこっちゃい」って顔をしている者もいる。
「火弾機関砲!」
ビィーーンッ!
数千発の白熱火弾で海面を薙ぎ払う。
「貫通させるだけではない。炸裂弾のようなこともできる。火弾機関砲!」
ドッドッドッドッドッ!
「おおっ!」
海面に爆発の水柱が立っていく。
「こんなふうに魔力の調整で、爆発する火弾にすることもできる。榴弾のようにもできる。誘導火弾! 範囲障壁!」
炎の槍が浮かび、海上を飛んでいく。防護壁として薄水色の障壁をはった。
海面を突き破り炎槍が水中に突き刺さり三秒後。
巨大な水柱が立ちあがった
ドッゴォーンッ!
爆発音とともに水飛沫が飛んできた。
「いろいろ調整できる。火魔法はこの通り派手だが、相手にダメージを与えるのは意外と難しい。圧力の収束が必要だからな。湧き穴討伐に役立つのは氷での物理的攻撃だろう。障壁!」
海上に長さ100m、高さ50mはある濃い水色の壁がたった。
「氷槍!」
長さ1m、直径30cmで氷柱状の氷の槍が数十出現し、壁目がけて飛んでいく。
ドッガガガガガッ!
壁の端から端まで氷槍がブチ当たり、砕けていく。
「こいつのほうが使い勝手がいい。ここまで魔法を使いこなすにはかなりの訓練を要するが、何事も始めなければたどり着かない。俺自身も魔術師としての訓練をし、もっと高みをめざしている」
集まっている自衛官たちと須比智之会を見渡す。
「では魔石への魔力供給と吸収から始めよう」
機動偵察隊が魔石を配り、魔力について教えていく。
錫杖を持つミズキと衛士たちも偵察隊からの説明を受けている。
そういえば、芦田少将と諏訪少佐が作らせている教導隊が使用する教本たたき台、そろそろできる頃か。あまり硬い文章じゃないといいんだけれどな。
「きゃっ!」
ミズキが持つ魔石がパッと明るく輝き、彼女はあわてて魔石を投げだした。
「ほほう、さすが霊能力者。もう充填できたな」
自分の掌と落ちた魔石を交互に見ている。
「ミズキさん、こちらに」
「は、はい」
「霊力についてはいくつか知りたいこともあるんだが、今は置いておく。ああ、『霊力』を『魔力』といちいち言い換えるのは面倒なんだ。『魔力』に統一させてもらう。いいね」
コックリと頷く美巫女さん。後ろで一つに結わえている長い髪がさらりと揺れる。いいねぇー、ゲフンゲフン。
「君は魔力を全身にまとっている。それがわかるかい?」
「い、いいえ」
「ふむ。多分ただ単に放出しているだけなんだろうな。君の周りに魔力の膜がある。それを集めて思うように動かせれば魔法を使える。魔力を、持っている錫杖の遊環が付いている頭部に集中させよう」
「はい」
目を半眼にして集中している。
しばらくして錫杖に魔力が集まりだした。
「遊環が光り輝く姿を想像して」
「……はい」
頭の遊環が淡く光ったように見えた。もう少しだな。
「集中のために九字を切ってもいいよ」
「はい。……臨・兵・闘・者……」
左手に錫杖、右手で剣印を結ぶ。
パアッと頭が輝きだす。
「その光を海に向かって放つ。飛んでいけと願う」
光弾が錫杖をはなれ、ふよんふよんと飛ぶ。
海までは届かなかったが、それでも3mは飛んで地に落ちた。
「おお、できたねー。わかる?」
「はぁはぁ、わかります。こんな、こんな、霊力を飛ばすなんて……」
「その感覚を忘れなければすぐに魔法が使えるようになるよ」
「……こんな、こんなの。……祝詞もあげていないのに……」
よしよし。神職や修験者、僧侶は戦力になってくれそうだ。
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