予定外だけど
「ケント、予定を変更したい」
「どうした?」
「今の急激な機動は想定外だ。長距離の巡航試験飛行と考えてたから、今のは激しすぎた」
「そうか、結構荒っぽかったからな。整備したほうが安心か」
「イエッサー。カーラが整備可能な航空基地の地図を受け取ってる」
「一番近いのは何処になる?」
「……海上自衛隊徳島航空基地ですね」
「徳島か。うどんがいいなぁ」
「それ徳島じゃなく香川県じゃないんですか?」
「いやクロウドの言う通りなんだが……旅行の思い出がな。鳴門のうず潮でうどん、徳島市でうどん、金毘羅参りでうどん、その日最後はひろめ市場の締めでうどん。一日で回らされた。次の日も桂浜龍馬像近くでうどん、四万十でうどん、道後温泉でうどん。俺ん中じゃ四国全部がうどんになってんだ」
「……ケントって食いしん坊ですね」
「食べるのは大好きだ。湧き穴の魔物を始末して、一緒に美味しいもの巡りをしような」
みんなは大混乱で旅行どころじゃなかっただろうからな。
「よし! 機動偵察隊の福利厚生に、美味しいもの旅行するぞ。日本を平和にする目的が増えた!」
「おー!」
「アメリカの湧き穴討伐も手伝いに行くぞ! なんたってガンボ料理は美味い!」
「ウーラー!」
「ウーラー! 私は断然ステーキです! ヒューストンのトマホークステーキ!」
「あれもな! よーし、みんなで行くぞ!」
『カーラ、オレらのボスは変な日本人だな』
『ええ、まったく』
徳島阿波おどり空港。
海上自衛隊徳島航空基地であり陸上自衛隊北徳島分屯地でもある。
航空機の発着はないはずで、管制塔が機能しているかわからなかった。海上自衛隊徳島教育航空群に連絡をとった。
海上自衛隊の指示に従い、ブラックホークを整備ハンガー近くに着陸させる。基地司令が足を運んでくれた。
「特殊防衛連隊、浅野ケント少尉です」
「徳島教育航空群司令、久保マイ海将補です」
「第十四飛行隊司令、中山ヒトミ二等陸佐です」
「突然の整備依頼、快諾に感謝します」
「芦田少将と池田海将補から連絡を受けてましたからね。……それよりも、空中で魔物と戦闘したという報告が来てますが」
「イエスマム。瀬戸大橋の西側で、五体の飛行する魔物と一体の海の魔物と戦闘になりました」
ふたりの司令が顔を見合わせ、ブラックホークを観察する。
「武装はないようだが、戦闘が可能なのか?」
「特殊防衛連隊は、魔法で戦うことを主眼とした連隊です。魔法で討伐しましたよ」
「話には聞いていたが……」
「魔法を信じられないのでしょう? 実在を証明します。飛行」
2m浮あがって、あたりを回ってみせた。
「……この目で見ても信じがたい」
「ええ。でも本当に空飛ぶヤツを討伐したなら、仇を討ってくれたことになる」
「仇?」
「……TH―135を飛ばせるように換装整備した。試験飛行中に行方不明になった。火を吹く黒い鳥に襲われているという通信を最後にな」
「オランバディかな。幸い俺たちは火を吹かれる前に討伐できましたが。見てもらいましょう。そこのハンガー前にだします」
場所を広く開けて汚れ防止にブルーシートを数枚広げてもらう。
ドサッ!
「おおっー!」
腹に穴が空いたオランバディを取りだす。
「こいつがオランバディ。空飛ぶ獣。羽の生えたでかい熊って感じでしょ?」
「熊って大きさじゃない! 象よりデカイだろうが! ……この穴……銃創か? 対物ライフル? 炸裂弾?」
「さすが陸自。中山二佐、それをイメージした魔法です。ま、ミサイルのイメージも入ってますが」
「魔法か。これなら戦える」
「魔法での戦闘は芦田少将が教導隊を作り、進めています。魔法を基にした兵器も研究開発中です。いずれは配備されるでしょう」
「……それは朗報だ」
「海洋性魔物も討伐したのだろう?」
「イエスマム。ですが」
まあ飛行場だから出す広さはあるんだが。重さで滑走路に損傷を与えそうなのは問題だよな。
「大型の航空母艦一艦ほどの大きさがあります。もちろん重さも。ここに出すには支障があるので、止めておいたほうがいいでしょう」
「……その魔物が船を襲っているのか」
「どこか海底にも湧き穴が出来ているのだと思います。ただ海水がどうなってるのかとか疑問は多々ありますが」
「久保司令、ブラックホークの整備はこちらも人員を出します。ケント少尉たちは、戦闘をしてきたから休んでもらったほうがいいでしょう」
「そうだな。宿舎と食事を提供しよう」
「お気遣いありがとうございます」
ふたりの女性司令に全員で敬礼した。
ブラックホークの点検整備中、俺たちは近くの湧き穴を偵察することになった。この機会に魔法銃を実戦配備しよう。
滑走路東端の堤防に高機動車を停めて、機動偵察隊五名に魔法銃を渡す。
「何度か俺の試射をみて理解しているとおもう。魔石を組み込んだ銃だ。射撃方法は他の拳銃と変わらない。今日この場で試射し、明日の湧き穴偵察から実戦投入する。何がでてくるかわからんがコイツで殲滅する」
全員が笑み崩れるのをこらえているようにみえる。
「まあ、全員が射撃訓練を受けてるプロだからな。余計な説明はいらないだろう」
手近にあった流木を海に投げ入れて標的にする。
五人全員で射撃を開始した。
ここの湧き穴も三交代。一班の交代要員についていく。
徳島阿波おどり空港北部の湧き穴は旧建材工場の山肌に開いている。
湧き穴出現の条件はなんだろう? これまで見てきたのは山に開いた洞窟って感じだが、都市部では住宅地や地下鉄などにもあるらしい。
発生の規則性や魔物についての研究を、芦田少将から問い合わせをしてもらっている。防衛庁情報本部からは色よい返事がもらえていない。内調、内閣情報調査室は問い合わせに回答がないらしい。
日本のお家芸ともいえる情報共有への反発が問題か。その道筋をどこが担当するのがいいかな? 日本版NSA(※1)が必要か。
鳴り物入りで作った日本のNSC(※2)とNSS(※3)はどうなの? 政治屋と官僚で湧き穴と魔物に対応できてんの?
情報機関設立を秘匿するんじゃなく大々的に発表するとか、ポーズにしか見えないんですが。
湧き穴の自警団と合流する。
「自衛隊に外人が混じっとるぞ。通報するか?」
「敬礼しとるけん、通報したら怒られるんやないか」
「そうやな。ほなけんどあの外人の女、すごい美人や」
「あの美人さん、嫁さんに来てくれんかな」
「わしゃあっちの女自衛隊がええ。ごっつい可愛い」
「どっちの? 背の高いほうか?」
「わしゃ背の低いすばしっこそうなのがええ。あれは働き者に違いない」
自警団がざわめいている。彼らのうしろ、救護班と給食班だろう女性たちの恐ろしい目つきに気がついていない。ご愁傷さま。
機動偵察隊が整列し、湧き穴とその周辺を観察する。
そこに二台の黒塗りの車が走り込んできた。
機動偵察隊の高機動車近くに車を停める。黒スーツにサングラスの男女が降りてきて、物々しい雰囲気であたりを警戒する。
恭しく後部ドアが開けられ、棒を手にした黒く長い髪の少女が降りてきた。
巫女装束姿の少女は降りた途端に俺を、俺だけを見てきた。あたりに注意を払っていない。
美少女の巫女さん? 棒は錫杖? レンジローバーにボディーガード?
しかし透きとおるような色白で、折れてしまいそうな華奢な子だなぁ。
ちゃんと食べてんのか?
※1 NSA:National Security Agency アメリカ国家安全保障局
※2 NSC:National Security Council 国家安全保障会議(日本)
※3 NSS:National Security Secretariat 国家安全保障局(日本)
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