オランバディと……
細長い炎の槍が、光跡を残して足元先頭のオランバディに向かう。気がついた群れが散開、軌道を変えてブラックホークに向かってくる。
先頭をロックオンした誘導火弾も方向を変え追尾していく。
ドォォーン!
体に命中! 肉片を撒き散らして爆散した。
「威力ありすぎたか。貫いて小爆発で十分だな。あ、下は海か。回収が難しい、失敗した」
「他のが向かってきます!」
カーラが叫んだ。
「ルーサー、オランバディの動きを見たい! 左右に動いて追わせるようにしてくれ!」
「了!」
機体を大きく振り、追ってくる四体の動きを観察する。
「思ったより速くはないか」
「まだ速度に余裕があります。振り切れます」
「いや、あいつらにこの機を追わせてくれ」
瀬戸内海の島はおおよそが山になっていて開けた平地が少ない。迂闊に落とすと送電塔や橋、人家に被害が及びそうだ。
仕方がない海上で始末しよう。死体が浮かんで回収できたらラッキー! ってとこだな。
「残り四体! 全部始末するぞ! 一体目を撃墜したあたりに戻ってくれ!」
「了!」
「四体の動きを監視! 変化があったら報告!」
「了!」
対面のスライドドアも開けて、後部四名で監視する。
オランバディ。
東南アジアのUMAの名を取って呼んでいるが、元は確か空飛ぶ猿だったはず。こいつらは猿というよりデカイ熊。その背中からドラゴンのような羽が生えている。
「散開したのが、また編隊を組み始めました!」
「了! 上下にも追わせてくれ!」
ブラックホークを素直に追ってくる。
「回り込んだりしないな。意外と単純か」
「う、うぐっ!」
「ひゃぁー!」
アカリとルルが天井と椅子に掴まりながら青い顔になる。ジェットコースター並みの機動だからな。
「ルーサー。木の葉落としは出来るか?」
「……ゼロファイターの?」
「ああ」
「試したことありません」
「宙返りは? アイツらの後ろにつきたい」
「スピードが出せれば出来るかも。でも急降下と急上昇でいくか……」
「こっちの動きにどこまでついてこれるかが見れて、側面から攻撃できればいい」
「それなら上昇下降でいけます」
「追わせたまま海面スレスレまで急降下。次いで急上昇。機体を90度回転、側面を敵に向けて俺が魔法ミサイルを打ち込む。いいか?」
「了! ……ヒィーウィーゴー!」
「ヒィーーー!」
急降下にルルが悲鳴をあげる。今後はこういう戦闘も訓練しないとな。なにせ我らは「機動」偵察隊だ。
迫る海面。後ろをオランバディたちがついて来てる。
「ナウ!」
ルーサーが機首を引きあげる。
側面をオランバディたちに向ける。
「タリホー! ロックオン! FOX3! 誘導火弾!」
最初より小さな四本の炎槍が並び、目標に向かって飛んでいく。それぞれオランバディの体を貫いて止まり、小さく弾けた。
「スプラッシュスリー! 一匹墜ちない!」
三体は腹のあたりに穴があき、海面に落ちていく。残る一体は片足を飛ばされ、墜ちずに追いすがってきた。
「Guns Guns Guns! 火弾機関砲!」
ヒュィーンッバババーーーッ!
拳ほどの圧縮火弾が複数白く輝き、オランバディに向かっていく。体中を貫いてバラバラの肉片になって海面に撒き散らされた。
「……す、すご」
思わずカーラが呟いた。
「ルーサー、ヤツラが落ちた海面を回ってくれ。回収できそうな死体を亜空間収納に収納する。総員、周囲の警戒を厳となせ!」
「了!」
低速で血で赤くなった海面を探すため、ブラックホークの高度を少し下げる。
「発見! 三時の方向に二体。オラ、オラ、お?」
「オランバディな」
「はい、オランバディ、オランバディ。浮かんでいる二体がオランバディと思われる」
ルルが発見の報をあげる。
「続いて十一時、一体!」
アカリも発見する。
「よし先に近い方の二体を回収する。三時方向500、いや、訂正する。三時方向2000フィート進んでホバリング」
「了」
そうか物の単位もすり合わせとかないとな。どっちがどっちに慣れるのがいいんだろう?
さて、亜空間収納収納が出来る最長距離はおおよそ20メートルってとこだ。いけるか?
「ルーサー、死体に75フィートまで近づいてくれ」
「了。カーラ、ナビを頼む」
「了」
収納可能距離を伸ばす訓練も必要だな。……飛んでるF―35Bを収納できたらいいかも。あ、パイロットが死ぬな。
「収納する……だめか。あと5フィート近づいてくれ」
「了」
「……よし収納できた。二体目にかかる。高度そのまま。……二体目収納完了。次いくぞ」
「了。同じように死体に近づきます」
赤く染まった海面に浮かぶ最後の死体。カーラのナビで慎重にルーサーが機体を寄せていく。
「真上です。70フィートまで降下」
「了」
う! これって、この魔力って! 赤く染まった水面を見渡す。
デカイ!
「上昇! 上昇! 高度を上げろ! 急げ!」
ブラックホークを急上昇させる。
浮かんでいるオランバディの下が急速に黒くなっていく。
ゴッバァッ!
巨大な口が水面を割って現れた。人の背丈を超える長く太い牙が、びっしり生えている。
「うっひぃー!」
「ひう!」
「うわぁー!」
バグン!
オランバディの死体を呑み込んで口が閉じ、棘だらけの巨大な頭が海に沈む。
「レヴィアタンかっ!」
「!」
「で、でかい!」
「ルーサー、さらに高度を上げろ! この機も呑まれる!」
「了!」
「高度を上げつつ旋回。海面から300フィート距離を取って旋回!」
「了」
「300フィート……100mも?」
「大きいものは全長数百メートルにもなる大海蛇だ、こいつは……来るぞ! 直下からだ! 右に回り込め!」
「了!」
海面が盛り上がり、農茶色に爛れたような皮膚の柱が、口を開けて立ち上がった。あと少しというところで届かずに口が閉じられる。海面から立ち上がったままで視線をブラックホークに向けている。
瞳がない汚い白色に濁った目がブラックホークの動きについてくる。
「ほう、でかいなぁ。小型のは喰ったことがあるが、このサイズの味はどうなのかなぁ」
「……食べるんですか?」
「ちっさいのはな。漁師が獲って干物にする。献上するのを手伝ったヤツは美味だったな。さて、サリーのお土産にオランバディは確保した。リヴィアタンも追加しよう。泣いて喜ぶぞ」
「……あんな大きいのどうやって」
「そうだなぁ。どうするかなぁ」
「さっきのミサイルでは?」
「……あれだと身がバラバラになるしな。風刃で頭を落とすか? ん? そうかその手が使えれば」
「?」
「検証にもなるか。ヤツに近づくぞ。あいつは遠距離攻撃も出来るはずだ。水を発射してくる」
「き、危険では?」
「どのくらいの速度で打ち出すのかだな。破壊力にも興味はあるけど。発射前に予兆があるから、それで予測がつく。魔力の高まりだな」
「ま、魔力の高まり?」
「まあ似たようなことを俺も今からする。あいつのために魔力を練る。ルーサー、このままの距離を取って旋回を続けろ」
「了」
ブラックホークはレヴィアタンの周りを旋回する。亜空間収納から充填済みの魔石が詰まった袋を取り出す。
「魔石からの魔力吸収をする。みんながやる訓練と同じだ。魔力電池として貯めておいたやつを体に取り込む」
袋の上から吸収。三袋目で魔力が満タンになる。
「よし魔力吸収完了」
「……速くないですか?」
「アカリ、私たちもあれくらい出来るようになるのが目標なんだね」
「いや、速すぎだろう」
レヴィアタンの様子を確認する。魔力をどう使ってる?
レヴィアタンの水中部分から魔力が上昇してきた。
「予兆! 来るぞ、掴まってろ。ルーサー、合図する。三で急降下しつつ反転して接近しろ!」
「了!」
レヴィアタンの口が開いていく。魔力が喉に溜まる。
「……一、二、三!」
ブラックホークを急降下させると同時に、太い水流がレヴィアタンから吐き出される。
上手くかわした上空を水流が通り過ぎていく。
「ルーサー! 70フィートまで近づけ!」
「了!」
次の予兆はまだない。尻尾での攻撃も感じられない。
「70です!」
「ひぃー! 手が届きそう!」
「よし! 収納!」
レヴィアタンがパッと消えた。
海面からドンッと音がする。波か? あっ空いた空間に!
「急上昇! 右旋回! 波をかぶるぞ!」
「ぐっ!」
ルーサーの呻きとともにブラックホークは盛り上がってきた水柱から離脱する。
「ふぅー」
全員が一斉に息を吐き出した。
「ケント、アイテムボックスに入れたんですか?」
「おおよ。あの巨体でも入れられた。これで検証できた」
「……なんの検証ですか?」
クロウドが恐る恐るという風に聞いてくる。
「ん? 池田海将補と話してたんだ。空母一艦を収納出来るかってな。レヴィアタンはそのくらいの大きさがありそうだからな。可能ってことだな」
「……」
みんなが顔を見合わせて首を振っているが、どうしたんだろう?
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