移動は楽じゃない
岩国航空基地の自衛官、MCIを集めて銃と飛行の実演をした。
討伐後に魔物から魔石を集めることが重要で、魔法訓練により銃で戦えるようになると説明した。
みんなが言うゴードン・ダックワース少佐の「クセ」。
武器コレクターだった。特に銃に対する愛情は、もう信者と言っていい。
転属になるたびにコレクションの一部を持ち歩き、日本へも持ち込んでいた。大混乱で銃が使えなくなった時には、大きなショックを受けて荒れたらしい。
彼は、任務中の武器消耗は勲章だと兵を褒める。だが銃器の手入れ不足や扱いが粗雑なら、その海兵隊員は地獄を見るという。
わかる。命を預けるのだからな。
お互い最初は警戒したが、最後には意気投合した。
武器は戦争の道具だが、その美しさは否定できない。
美術館にも武器が飾られているのだ。人類は狩猟と戦争で進化発展、生き抜いてきた。農耕も植物対象の狩猟だ。命を奪うことに変わりはない。
為政者の支配欲から起きる侵略戦争は断固否定するが、降りかかる火の粉を払う戦争は否定しない。自国民を守るとは「自分の群れ」「自分の家族」を守るということだ。
殺しも厭わない強盗がナイフを手に自分の家に入ってきたら、あなたはどうする?
家族が殺されるのを、指を咥えて見ているのか?
暴力はいけませんと、相手を説得できるのか?
殺し合い。
命のやり取りは人類、動物、植物を問わず、「生物が持つ宿命」なのだ。それに適応しない生き物は「淘汰」される。
魔法銃を使うのに必要なことは魔力が潤沢にあること。魔術師育成にゴードン・ダックワース少佐が大いに乗り気になった。
MCIが各湧き穴に放置されている魔石の回収に出発していく。自警団にも扱いを周知させる。
魔物素材を扱う企業には、自衛隊とTSME、MCIに協力するよう要請が出された。協力するなら素材買い取りを認める。そうでなければTSME傘下企業以外の取引を禁じるとういう強制だが。
ブラックホークでの出発準備が整うまでに、結局は一週間がかかった。その間、俺を含めた機動偵察隊はルーサーとカーラからブラックホーク操縦の基本を習っていた。
飛行免許取得まで教育できないが、数m浮かび着陸させ、基本的な整備を習う。飛行中にルーサー少尉とカーラ軍曹に何かあっても、着陸させられることを目標とした。
「ブラックホークで行くんじゃ、高機動車はどうする? 陸送の手配はできんぞ」
「ご心配なく池田海将補。亜空間収納に入れていくよ」
池田海将補は顔色が良くなった。トゲトゲしさもなくなった。
「亜空間収納? 入るのか? どれくらい入れられるんだ?」
「ここだけの話しにしてください。多大なトラブルが予想される話しですから。……軽トラに高機動車、ブラックホークも入れられる。空母一艦は……試してみないとわからない」
「……」
そうだよな、唖然とするよな。個人で軍備全てを持ち運べるんだからな。
艦隊は入るかな? いずれ来る海外派兵時に強烈なインパクトを与えそうだ。デメリットも大きいがな。
「ルーサー、目的地は海自の厚木航空基地だ。燃料はどうする?」
「厚木……増槽があるので一度のフライトで行ける距離ですね。燃料は大丈夫です。もし必要になったら陸海空の航空隊基地で補給を受けられるよう、ミドリが手配してくれるとのことです。整備も受けられます」
「ミドリ、諏訪三佐か。友人なのか?」
「ええ、彼女がステーツ留学した時に」
「女傑とは聞いた。俺よりスゴイと思った女性は多いが、彼女もそのひとりだな。いや、すべての男は、すべての女性に頭が上がらないものか」
「はははっ、ほんとにすごい人ですよ」
「だな。燃料はしばらくはOKか。……エンジン自体は魔素、魔力、魔法をエネルギーに変換するサリーの基礎研究待ちだな。ブレイクスルーを起こしてくれるよう頭脳の集積も必要か……で、他にトラブりそうなことはないか?」
「レーダーが信用できないので、パイロットの有視界飛行になるでしょう。全員での周辺監視が必要ですね。それとこいつは武装していません。……天候がどうなるのかも」
「武装は無理だな。天候か。念の為予備の燃料を亜空間収納に確保はしておくよ」
出発は池田海将補、丸尾三佐や司令部が見送ってくれた。ゴードンとMCIもだが、彼らが熱い視線を送ってくるのは俺の魔法銃にだな。
手を振って飛び立ち滑走路上空を旋回したあと、東へ向かって飛び立った。
クロウド曹長はリペリング降下訓練の経験があるが、ルルとアカリは空を飛ぶのも初めてだ。キャーキャー騒がないだけましだな。褒めてあげよう。
俺が帰ってきたのは四月の春、今は初夏を過ぎた。台風の恐れがある季節だ。地上の気象レーダーはダメだが、衛星は生き残っていてなんとか通信できている。大雑把な気象予報が可能だ。
大混乱以後、異常気象と言われていた天候不順はここ数年観測されていないという。おかげで食料生産に大きなダメージは起きず、なんとか食いつなげている。
梅雨の時期だが濃霧でなければ飛べるだろうとのこと。
「レーダーに感!」
カーラがヘッドセットで声をあげた。
「四時方向、距離20000、数は不明」
「後席、見えるか!」
ルーサーが尋ねてくる。
「魔力感知! 右上空にいるな」
帰ってきてから考案した新たな魔法だ。魔素が薄いここなら、ある程度レーダー代わりになる。
「あれなに? 鳥? ルル、あれ見て」
「どこ? どれ?」
「ほらあそこ。上の方。この機のちょっと後ろ」
「あの黒いの? 見えた。鳥?」
「不明瞭だな。飛んでても報告は地上走行時と同じだぞ」
ふたりは航空機に乗ったことがないといってたから、遊覧飛行気分はしかたないかな。
「は、はい。いえ了! クロウド曹長、あそこです」
「右上空四時方向に、何かいます!」
「右上空四時、確認してる。カーラ、レーダーは?」
「エコーが安定しません」
「編隊か? 安定しないが……ケント少尉、複数の飛行物体……数五!」
「俺の感知魔法でもわかる。魔力を感じる。ありゃ航空機じゃないな。総員戦闘態勢! 固定用ランヤードの確認を忘れるな!」
「速度はかなり速いです! 魔物ってこんなに速いんですか?」
「速さを数値化できなかったが、速いのか? ルーサー、攻撃をメイン・ローターに当てたくない。高度を上げてヤツラの上に出てくれ!」
「ラジャー! 高度を上げます。ですがこの機には武装が」
「俺の魔法で攻撃する!」
千里眼。
遠方もよく見える魔法。他にも色々機能がある魔法なんだが。
見えた。羽ばたいてるのが五体、ドラゴンじゃない。空飛ぶ獣だ。
だが、体毛の色が俺が知っているものとはビミョーに違う。
他は同じだから同一と見ていいんだろう。
「あいつらはオランバディ! 火を吐くぞ! 距離を取れ!」
「ラジャー!」
ルーサーが急上昇させてオランバディの上空につける。
えーと、ルーサーは米軍で、略式コードが違ってるんだっけ? すり合わせが必要か。
いい! 俺は素人なんだ! わかればいい!
「右側のスライドドアを開ける! ランヤードしてつかまってろよ!」
「了!」
「タリホー! 先頭のオランバディをロックオン! FOX3! 誘導火弾!」
ゴウゴウと吹き込む風の中、視認したオランバディに向かって豪炎の槍を発射した。
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