笑顔は笑顔なんだけど
翌朝、岩国警察署とアポイントをとり、高機動車と七三式大型トラックを連ねて訪問する。
正面ロビーに待ってもらっていた署長、副署長、刑事部長が並んでいる。
常装と戦闘服の陸上自衛官、海上自衛官が数十人、眼前に整列する。警察官たちは緊張しているようだ。
周りには何事と人が集まってくる。
丸尾三佐が敬礼する。自衛官全員が一斉に敬礼した。
「署長、お時間をいただき感謝します。こちらは特殊防衛連隊浅野ケント少尉です」
「初めまして署長、浅野ケントです。早速ですが、そこに掲示されている手配書の指名手配犯を引き渡します」
「ど、どの手配書じゃろう?」
「岩国基地のMCI、元の合衆国海兵隊員たちで手配されている者全員です。ご確認をお願いいたします」
「逮捕者を連れてこい!」
「了!」
クロウド曹長の指示で戦闘服の自衛官たちが回れ右をして、駆けだす。
トラックから降ろされたMCI隊員たちは、MCIから懲戒解雇されている。
「こりゃあ……」
担架に載せられ意識のないハイアット少佐を見て、慌てる署長。
「熊本県荒井市警察署長がどうなったかご存知ですか?」
「……ご、強姦殺人で逮捕と……」
冷や汗をかき始めた署長に、ニッコリと笑いかける。うん、我ながら嫌味なヤツだな。
「こちらは警察内部のことには関知しません。ですが陸上自衛隊と海上自衛隊から、警察庁と山口県警察本部への報告が済んでます。老婆心ながら穏やかに身辺整理をされることをお勧めします。刑事部責任者の方、引き渡しますので確認してください」
佐藤孝之介と同じく警察にも根回し済みだよな、ハイアット少佐。
「じゃ、じゃけどアメリカ軍人を逮捕やら、地位協定が、外務省が、外交問題が」
「合衆国政府はもう存在していないかもしれない。そことの取り決めになんの効力、なんの意味があるのかね? 大混乱以降、全てが変わっているのに」
うーん、特殊防衛連隊の口座を作ったほうがいいか。不確かな記憶だが自衛隊の燃料なんかは課税免除されてなかったかな。
個人の賞金稼ぎなら報奨金は税引きの支払いだが、特殊防衛連隊が受け取る場合はどうなるんだ? 課税免除?
確認しておこう。諏訪三佐かな。
あ、俺って給料出るんだよな? そこも要確認だな。売り上げに応じた歩合給はないのか? どうなるんだ? いやいや、そもそも報奨金って売り上げか?
ハズラック王国では「良きに計らえ」で済んだけど。
……丸投げ先を探しておこう。
ブラックホークの受け取りに岩国基地に戻る。
コイツがあれば東京に早くいける。
「試験飛行がまだです。済むまでは飛行許可を出せません」
電子機器換装後の試験飛行が残っていると整備員から告げられた。
メインス軍曹の件からなし崩し的に同道させているふたり。小倉の三人と同様正式隊員として加える。これでいい丸投げ先ができた。
将校クラブでコーヒーを飲みながら丸投げ……ではなく任務を伝える。
「ルーサー少尉、ブラックホークは君が担当だ」
「イエッサー」
「うーん、君のほうが先任少尉で『イエッサー』じゃないんじゃないか」
「いえ、MCIは民間企業ですから。民間人で便宜上階級を使っているだけです。ケント少尉の方が先任となります」
「ふたりの少尉、部隊としてどうなんだ?」
「指揮官はケント少尉です。なんの問題もありません」
「そうなのか?」
「ケント少尉、自分たちの指揮官はあなたです」
クロウドの意見に全員が頷く。
士官教育受けてないんだが。王国軍の指揮経験はあるけどな。
「ではルーサー、試験飛行を頼む」
「了。陸上自衛隊の返事はこうですね。まずは高度を取らずに飛行場内を低空で飛びます。その後徐々に高度を上げていき機体を確認します。墜落は勘弁してほしいですからね」
「うん。俺も飛行魔法はあまり得意じゃないんだよな。墜落は痛いから勘弁だな。そうか、コパイが必要か。カーラ軍曹はコ・パイロットが出来るのか?」
「……?」
「……今……なんて言いました?」
ルルとカーラが顔を見合わせて、笑顔で聞いてくる。
「カーラ軍曹はブラックホークを操縦できるのか聞いたんだが」
「いえ! そこじゃありません! 飛行魔法ってなんです!」
「え? 飛行魔法は飛行魔法だが? 空飛ぶやつな」
「飛べるんですか!」
そうか、そうだった。こっちには飛べるやつがいないんだった。人間が空を飛ぶのはスー◯―マンとかだけだったな。あれ? 魔法を信じてもらうのに飛んで見せればいいのか。
「ほれ、こんなふうだな。飛行」
腰掛けた格好でマグカップを持ったまま、天井近くまでゆっくり浮あがる。
五人はアングリと口を開けて見上げている。軽く手を振って配膳カウンターまで行きコーヒーのお替わりをもらう。
「キャー!」
女性たちが大きな悲鳴を上げた。
「ほんとに飛んでいる」
クロウドもルーサーも驚いている。
「あー! 戦闘で!」
「そう! 飛んで上から攻撃したら!」
「ああ、みんな、飛行魔法は難しいぞ。出来る魔術師は少なかった。それもこんな風に浮くくらいだな。みんなはイメージは十分だろうが使う魔力の量が半端ない」
「でも、でも! 飛べれば!」
「飛んでみたい!」
魔法の存在を知ってから、試行錯誤を重ねて飛べるようになった。だが、重力や空気抵抗、姿勢制御、加速方法など問題が山積みだった。
スーパ―◯ンの様に飛べるようになるには何年もかかった。それでも時々墜落する。難しいんだ。
「そんなに飛びたいなら教えるのはやぶさかじゃないが、まずは基本となる魔力量を増やさないことには始まらない。真面目に訓練して増やせよ」
ブラックホーク、エンジンに火を入れ飛行場内を低空で回る。パイロットはルーサー、コパイはカーラ。
彼女は単独飛行も出来るが、正式なパイロットになるには少尉になることが必須で、今はその方法がない。
ここには民間の空港もあるが閉鎖されている。海上自衛隊の艦艇はやはり電子部品の換装が必要で湾の対岸、呉で改修作業中らしい。
数回飛行しては点検整備を繰り返す。夜間も試験を行うようだ。
まだ数日かかるか?
アカリがブラックホークに興味津々で、整備作業の見学を申し出てきたので許可した。ハンガーに行ってみたら整備員に混じってカーラといっしょに作業を手伝っていた。
好きなのかな、機械いじり。
池田海将補にはMCIの逮捕を報告してある。
卒倒したのは脳貧血のようで、報告を受けてからは症状の改善がみられると医官が教えてくれた。ハイアット少佐と愚連隊が破滅したことで、精神的苦痛が和らいでいくだろうと。
基地に帰還したMCIゴードン・ダックワース少佐。愚連隊の顛末を報告されて、面談の要請が来た。
MCI将校クラブで会った。
俺より背が高く2mを超える黒人の巨漢。挨拶もせずに質問してくる。
「ケフィンとショーンを負かしたのか?」
「ああ、やりあったよ」
「……銃を撃ったというのは本当か?」
「銃はあるがね。使いたいのか?」
「もちろんだ。銃無しじゃ裸でいるようなもんだ」
「そうか。だが魔法が使えないと俺の銃は使えない」
「魔法だと?」
「こんなんだ。飛行」
浮あがって、魔法のデモンストレーションを試させてもらう。
一瞬目を見開いたが、すぐにランランと目を輝かせて俺をにらむ。
「それが出来れば銃が使えるんだな」
「訓練次第だ」
「教えろ」
獰猛な笑顔で迫ってきた。
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