そうくるなら
機動偵察隊は戦闘服に着替えてもらう。兵士剣と短槍を装備。
「その剣はよく斬れそうですね」
「斬れるよ。例えばこんな具合にね」
丸尾三佐の質問に、メインス軍曹から取りあげたマシェットナイフを出して兵士剣で細切れにして見せる。
「ゴブリン剣より斬れるだろ?」
「え、ええ。……先ほど『魔法』と言ってましたが?」
「健軍駐屯地が中心となって、魔法で戦う魔術師を育て始めてる」
「魔法で戦う?」
「湧き穴から出てくる魔物たちとの戦いは自衛隊が劣勢。長期戦を見据えて戦力増強しないといけない。現在の兵器では役に立たないが、魔法でなら戦える。それが特殊防衛連隊ですよ」
「……魔法とは何なんです?」
魔法について丸尾三佐以外の司令部副官たちに、ルーサー少尉、カーラ軍曹も交えて説明する。TSMEでの武器開発と生産、すでに魔法が使えるようになった自警団員についても説明した。
諏訪三佐からの連絡では、ジローちゃんとモナミさんは順調に魔術師として育っているようだ。
さきほど体育館に来ていたMCIの残党に、式神くんをつけておいた。基地内でも散歩してもらってる。
魔法と特殊防衛連隊の説明をしている間、ハイアット少佐を探し出し、動向を注視している。
ふーん。
俺に確保された隊員たちを取り返すつもりらしい。すぐに池田海将補に苦情を申し立てないのは、岩国基地全体を掌握して責任問題にする算段なのか。
夜襲? 池田海将補の身柄確保?
ほうほう、そう来るのか。少し時間をおこう。
「くっくっくっ」
「……ルル、ケント少尉が悪い顔で笑ってるんだけど」
「不気味。あれなんだと思う? クロウド?」
「に、似ている。高橋一佐を叩きのめした時の雰囲気に似ている」
「うえっ!」
「なんですか? ケント少尉が上の空ですが、いつもあんなですか?」
「嵐がきそうな気がします、丸尾三佐」
『そいつらはどこだ?』
『海上自衛隊の司令棟に』
『ファッキンダックワースは?』
『戻ってきていません。あと二日は留守の予定です』
『……サルは医務室だな』
『はい。こちらの準備は完了してます』
『いいだろ。基地に閉じ込められてるのは飽きた』
MCIが使用しているハンガーから、式神くんが実況中継してくる。
「ルーサー、MCIのファッキンダックワースって誰かわかるか? ハイアット少佐が名前を出したが、あと二日留守だそうだ」
「……ゴードン・ダックワース少佐のことですね。湧き穴支援戦闘隊を指揮しています」
「手配書にはないな。いいやつか?」
「はい。……正直クセはありますが、優秀な指揮官です。皆が尊敬しています」
「そうか、その少佐だなキーマンは。向こうは準備完了したみたいだ、始めるか。範囲障壁!」
『少佐、ハンガーから出られません!』
『ああん? 何を言ってる』
『な、なにか透明な壁のようなものがあって、ここから外にいけません!』
『なにを言ってんだ! 寝ぼけてるのか!』
MCIハンガーを包みこんでシールドを張ったからな。
海上自衛隊警務隊と陸警隊がハンガーを中心に取り囲み、俺たち機動偵察隊と司令部が突入要員となる。
まあ突入と言っても大きく開いた入口に向かって、歩いていくだけなんだがね。
警務隊と陸警隊、司令部員を参加させたのは万が一のためと、今後は自分たち自衛隊がすべてを掌握するってことを実感してもらうためだ。
もうMCIに舐められるなよな。
「灯り!」
光の玉をいくつも浮かび上がらせ、サーチライトのような灯りを幾筋もハンガーに浴びせる。数十人のMCIが光に浮かびあがる。
「皆さんお揃いで。夜間演習ですか?」
「なんだ、キサマは!」
「初めまして。陸上自衛隊特殊防衛連隊浅野ケントです。お見知りおきを。ってこれっきりって人もいるがね」
「……ここはMCIの施設、アメリカ合衆国海兵隊の施設だ。誰に断って入ってきてるんだ。出ていけ!」
「認識が甘いな。さて今夜の目的は指名手配犯の逮捕だ」
「日本の警察が我々を逮捕はできないぞ!」
「だから認識が甘いんだよ。もうメインス軍曹たちは逮捕済みだ。後ろのオマエがハイアット少佐だな」
「……」
「MCIの諸君! 諸君らの中には指名手配されていない者もいる。ハイアット少佐の愚連隊で手配されている者だけを逮捕する。諸君らは関係ないから離れていてくれないかな」
「キサマ!」
「そうそう、こういうのを聞いたら諸君はどう思うかな。丸尾三佐」
俺のPCを持った丸尾三佐が、動画を再生する。
『池田海将補を人質にして岩国基地全体を支配下におく。ジャマをするジャップは皆殺しだ』
『イエッサー』
『あのWAVEは殺すなよ。俺がカワイがってやるからな。あとのはお前らの好きにしろ』
『ダックワース少佐はどうします?』
『帰ってきたら殺せ! 逆らうならMCIでも皆殺しだ! 国に帰れないなら、ここに自分たちの国を造るぞ。私が王様の国をな!』
『イエッサー! いたぶって殺してやるぜ!』
「いつのまに! スパイか!」
「こんな会話がされてたんだ、諸君らは祖国を裏切るようだな。愚連隊じゃない者は離れていたほうがいい」
ハイアット少佐以下愚連隊が剣を抜く。ハイアット少佐を取り巻く兵の剣はゴブリン剣だ。
「ほう、自分たちにはゴブリン剣を手に入れてるのか。弱いやつが持っていても無駄だな。アカリ、ルル、クロウド。懲らしめてやりなさい」
ああ、一回言ってみたかったヤツ、ぐふふ。
「殺っておしまいなさい」でもいいんだけどね。「DEAD or ALIVE」だから。
「了!」
「ルーサー少尉、カーラ軍曹! 三人の戦い、短槍の使い方をよく見ておくように。君たちにも覚えてもらう。他の者は手を出すな! 重力操作!」
俺の前に出た三人、相手のほうが多数だからGをかけて動けなくする。
「ひとりずついこうか。ゴブリンやオーガもこうやって始末するようになる」
手配書がある者にはさらに高Gをかけ、それ以外のMCIを下がらせる。
最初は一対三で戦うようGを調整する。
「魔物はゴブリン、オーガに加えて新しいヤツラが小倉で発生した。オークとその上位種ハイオークだ。そいつらが今後はでてくるようになる。強いからな、一対多での戦闘方法を確立しないと俺たちは喰われる」
真っ先に飛び出したルルの短槍が、愚連隊の初太刀を跳ね返す。アカリが背後からチクチクと刺す。振りまわされるゴブリン剣をクロウドが受け止めた。
「ゴブリン剣、マシェットナイフよりすんげー斬れてつえー! って思ってたろ? だがその短槍の柄も斬れないぞ。こっちとは性能に差があるから、打ち合えばゴブリン剣は折れる」
数秒で血の海に沈む愚連隊。次のひとりのGを緩めて相手をさせる。
「ルーサー、カーラ、参戦しろ! 他はふたりの援護だ。機動偵察隊の訓練だ!」
三人目で二人が参戦。クロウドたちが短槍の戦い方を指導する。
ふたりが七人目を倒したところで、愚連隊は武器を投げ捨てて降参した。
「ハイアット少佐。あなたは武器を捨てないが降参する気がない?」
「……ファック! 俺は負けん!」
「そう。じゃサービスで、もひとつお披露目しようか」
魔法銃を取りだして、ハイアット少佐とMCI、自衛官たちにも見えるよう掲げる。
「近い将来、自衛隊は銃器を装備する。銃装備の軍と剣だけの軍、どっちが強いと思う? 虐殺シーンしか想像できないな」
「ぐぬっ。そんな役にも立たん銃など」
ダンッ!
ハイアット少佐の構えるゴブリン剣が吹き飛ばされる。
ダダダダッ!
ハイアット少佐の四肢を撃ち抜いた。
「役に立つのさ。重力操作!」
ハイアット少佐と何人かのMCIが床に押し付けられた。
「倒れているのは愚連隊だ。全員拘束! 息のある者は止血をしておけ」
「ウッグッ……な、なんの権限があって」
「権限? おやおや、ハイアット少佐も使ったんじゃないのか? 強者の権限さ」
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