事情はわからなくもない
十二人か。
手配書と敵味方識別能力でMCIを選別する。
三人が明らかな殺意と敵意を向けてくる。加えて二人が嫌悪の感情を持っているか。
その五人が手配書持ち。あとの七人からは躊躇いの感情が見える。
「英語か。忘れちまったなぁ。ルーサー少尉、通訳してくれないか?」
「……いいでしょう」
ルーサー少尉と男たちに近づいていく。
「お前たちも面接に参加したいのか?」
「面接だぁ?」
「俺の部下になりたいってふたりを面接中なんだがね。使えない腰抜けはいらないからな」
話しかけた先頭の男が目を細める。コイツが一番金額が高いけど200か。あとのは100と50。
強盗殺人、強姦、放火、監禁暴行、脅迫……。ろくでもない兵隊だな。
「……オマエ英語がわからんのか? どこの国だ?」
「その質問は俺の見た目でか? 俺は日本人だぜ」
「黄色のエテ公どもと同じ。……そのふたりより俺たちの方が使えるぜ。まあエテ公相手の生ぬるい訓練なら、グリーンの俺が相手してやる。こいつでな」
「よせ、ショーン!」
「うるせー、このクロンボのファッキンアス!」
悪態の返事はマシェットナイフを抜いた男を咎めたルーサー少尉へだ。軍曹が少尉に向かって吐く言葉じゃないな。人種差別もいただけない。
コイツラは全員が同様のナイフを装備している。これみよがしに柄に手をかけている。
「ふん。ルーサー『少尉』、こいつは面接なんでしょ? 使えない士官ならオレたち兵士が困るだろうが?」
「へー、良いマチェットだな。アウトドア用品店を襲った時のかい? 類焼で近所が大変だったらしいね」
「……」
「図星か。来いよ、MCMAPのグリーンがどれほどのものか見せてみろよ」
俺も相手と同じような短剣を取り出して構える。
「おい、あれどこから出したんだ?」
「持ってなかったはずだ」
ま、そう思うよな。答えは教えないけど。
マットに上がってきたショーン。右手のマシェットナイフを突きだして構え、腰をかがめ重心を前にする。
「シッ!」
短い気合とともに踏み込みナイフで突いてくる。
キンッ!
弾き飛ばされたショーンのマシェットナイフは床を滑っていった。
「おっと、すまんね。お子様には強すぎたかな。取ってきていいぞ」
ルーサー少尉が通訳してくれる。
呆気にとられていたショーンの顔が、怒気に歪む。こちらに背中を見せずにマシェットナイフを取りに行くのは良い点ではあるが。
戻ってきたショーンに声を掛ける。
「もう少し速くないと俺には届かんよ。ほれ、突いてこい」
「ガッデム!」
キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!
連続して突いてくるショーンのナイフをすべて短剣で弾きかえす。俺を中心にショーンは円を描くが、全部防いだ。
パンッ!
息継ぎに一歩下がったショーンに踏み込み、横面を左掌で叩く。取り囲んでいる男たちのところまで飛んでいった。
「ヘイ、腰抜け。全然ダメだな」
倒れ込んだショーンの右頬が赤くなり、口を切ったのか口の端と鼻から血を流している。
やれやれ、目を回したみたいだ。脆くないか? もっと優しくしないと頭が飛んじゃうか。
「ファック! オレがいく!」
「交替か? いいぞ。ショーンより強いんだろうな?」
「ファックユー!」
「汚い言葉を使うのはやめてくれない? このアスホール!」
まあ罵倒合戦になってもしょうがないからな、やめとこう。日本語には汚い言葉が少ないからな。
「マシェットナイフ同士じゃ俺に勝てないみたいだな。無手になってやろう。そっちは使っていいぞ」
丸尾三佐のところに歩いていき、短剣を渡す。
「ケント少尉! メインス軍曹は危険です!」
「地域貢献活動なんでね、なんてことないさ」
連続して突いてくるメインス軍曹のマシェットナイフを躱していく。後ろに下がらずに前に出るように躱すと、どんどんメインス軍曹が後ろに下がっていった。
「なんだい、下がるなよ。もっと前に出て相手を威圧しろよ」
そういう俺の言葉を聞いて更に速度を上げて突いてくる。
マシェットナイフの刃を、親指と人差指で挟んで押さえる。
「ぐっ! この!」
「動かせないだろ? 所詮オマエはその程度だ」
ドコンッ!
メインス軍曹は俺の前蹴りを腹に喰らってしゃがみ込んだ。
「ゲボッ! ゴホゴホ!」
「もう終わりかな? アスホール野郎」
呼吸が整わず起き上がれないようだ。
仕方ないここまでか。
ケフィン・メインス軍曹を後ろ手に結束バンドで拘束する。血を流したままのショーン、ショーン・ケイヒル軍曹も同じように拘束。
「えーとそこのルイス・オーモンド伍長、ヒュー・スウィートマン伍長、ジョール・ケイヒル伍長。こっちこい」
俺に嫌悪の感情を持っていた三人を呼ぶ。こちらを睨んだままで動かない。
「しかたない。麻痺!」
痺れた三人にも結束バンドを使う。
「お前ら五人は指名手配になってるからな。岩国警察署に突き出してやる」
「ファック! 基地内はステーツだ。日本のファッキンポリスじゃ逮捕できない!」
メインス軍曹が叫んだ。
「ステーツだぁ? かろうじて繋がった衛星通信では合衆国政府は内戦で大変なことになってるらしいぞ。なら日本とアメリカの地位協定も無効だな。文句は外務省を通して聞こう」
「……ファック!」
「そればっかりだな。まあまだ用事があるし、お前らはここに入ってろ」
五人を亜空間収納に突っ込む。
「消えた! どこに行った!」
「ああ、営倉にぶち込むのも警察呼ぶのも面倒だからな。俺の亜空間収納に入れた。魔法だな」
「……魔法?」
ルーサー少尉とカーラ軍曹がポカンとする。丸尾三佐もだな。開いた口に飴でも入れてあげようか。
「説明はおいおいな。ルーサー少尉、やるかい?」
「……私では敵わないでしょう。ですが私の力も見てもらったほうが良いのでしょう?」
「ルーサー少尉は何色だい?」
「ブラウンです」
「カーラ軍曹は?」
「グリーンです」
「それなら十分だろう。ルーサー少尉はパイロットでもあるしな。あとは君たちがこっちをどう思うかだな」
「ケント少尉、質問があります」
「なんだい、ルーサー少尉」
「先程の話し、ステーツが内戦だと。本当ですか?」
「知らないのか? 俺も伝聞だけど」
丸尾三佐に視線を向ける。
「そう聞いてます。MCIにも伝えてありますが……ウィンターソン大佐に。ハイアット少佐も同席していましたが、聞いていませんか?」
「私たちは連絡が取れないとしか聞いていません。……ハイアット少佐か」
「……どうやら色々ありそうだな。……休憩にしようか。ルーサー少尉、将校クラブにコーヒーはないかい?」
「ありますが」
「いいね、いいね。ごちそうになりたい! コーヒーブレイクにしよう!」
将校クラブでコーヒーを出してもらう。大勢で押しかけたけれど、コーヒーを出してもらえた。19年ぶりだ。この香り、沁みる。
丸尾三佐から、岩国基地の海兵隊がどうなったかを聞いた。
大混乱が起きた時、ちょうど環太平洋合同演習が行われていた。
参加した艦船も航空機も音信不通、行方不明のままだ。航行不能と飛行不能になったのだろう。
海上自衛隊、航空自衛隊、陸上自衛隊の他、参加各国でどれほどの将兵が死んだことか。
その後、海兵隊は新半導体に換装できた揚陸艦やら輸送機やらで沖縄、グアムを目指した。が、すべて行方不明。
日本国内で隊員たちの生活が立ち行かなくなり、MCIを創立。
日本を主導する立場から下請け業者になったことも重なって、海兵隊司令官ピーター・ウィンターソン大佐は酒浸りで健康を害した。
多くがアメリカに家族を残しており、大なり小なりストレスとプレッシャーで変調をきたしたようだ。
副司令のヘイデン・ハイアット少佐はMCI内に大っぴらに愚連隊を作ったらしい。
「……ハイアット少佐は狩るよ」
「はい?」
「アカリ伍長」
「は、はい」
「特殊防衛連隊の主要任務を知ってるか?」
「湧き穴の偵察と討伐です」
「表向きはな」
「う、裏があるのですか?」
「あるよ、ルル。地域貢献活動だ」
「?」
「別名を賞金稼ぎという」
「し、し、賞金稼ぎ?」
「そうです、丸尾三佐。うちの連隊は独立採算制でね、活動資金は報奨金を当てることにされている。芦田少将の策略に引掛ってしまってなぁ」
「……」
「そういうわけでラスボス狩りの時間だ。ルーサー少尉、カーラ軍曹。君たちにも協力してもらう」
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