特殊防衛連隊
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「では、私もこれで失礼いたします。ケント少尉、いずれまた」
「錦戸組長、昨日のお手配ありがとうございました」
「いえいえ、こちらも商売です。ケント少尉からは大きくなる方の匂いがしますので、お近づきになれてお礼を言うのはこちらです」
退室する錦戸組長が振り返った。
「佐藤順次のことはお好きにどうぞ。佐藤孝之介、順次とは縁を切っておりますのでご自由にしてください。ではごきげんよう」
高橋一佐の司令室から会議室に場をうつす。
「ではまず、私からご報告させていただきます」
席につくと高橋准尉が口火を切った。
「芦田少将からです。正式に『特殊防衛連隊』を創立しました。方面隊には所属せず、芦田少将をトップとした独立組織となります。部隊を急ぎ編成中です。浅野ケント少尉には第一機動偵察中隊を率いていただきます」
「ちょっと待て、『上申中』じゃなかったのか? 決定が早くないか?」
「現在の日本をご理解ください。陸上自衛隊だけではなく、海上、航空と合わせてガタガタです。防衛省を始め政府もガタガタなのです。総選挙すら困難です。『湧き穴特例法』を拡大解釈しました。我々自衛隊に、あらゆる権限を認める特例法だと」
「で、政府承認は省略した。陸海空自衛隊の上級幹部が承認した。同期会とも言うがね」
高橋一佐がニヤリとした。動き速すぎじゃないか。新連隊の創設なんて大きな行事にしてたはず。連隊旗の授与とか。
「編成中なので現在の連隊隊員は浅野ケント少尉だけですが、少尉にはいずれ統合幕僚長としての権限をもっていただくつもりで動く予定です」
「おい! 待て!」
「王国軍大将の権限はもうお持ちでしょう?」
「いや、そうだが」
「一応『予定』ではあります。動きやすさのために深川陸将を統合幕僚長にするための連隊創立、という建前になっています。次に連隊内の編成ですが、東京に向かわれることも考慮し、分隊規模で機動偵察隊をつくっていただきます。高橋一佐?」
「すでに数名の自衛官から転属願いがでている。強くなるためにケント少尉に付いて行きたいとさ」
「……」
「ついで機動装備ですが、岩国のPMCからハンヴィーを購入済みです。あちらで受け取れるようになっています。オスプレイ、ブラックホーク、F―35Bも配備される予定です。ですが、どの機体も空自が新半導体の換装を進めている最中です。少尉の到着に間に合うかは微妙です」
おい、こっちは「復讐」のために東京行くんだぞ。
賞金稼ぎで手配犯を追うのは建前で、あくまで「私闘」なんだぞ。それを大事にしやがって……。
百歩譲って輸送航空機はまだわかるが、F―35B戦闘機なんて何に使うんだ!
いや、焚き付けたのは俺か。
「頭を抱えるのはまだ早いアル。私たちTSMEも所属を検討中アル。サリー董事は特殊防衛連隊、技術開発部長を兼任する予定アルヨ」
「そう、ケントとはもうお仲間アルね。ケントの子分になるヨー。よろしくアルねー」
「……ヴァレン、影響されてるって……からかって楽しいだろうよっ」
「それからこれは諏訪少佐からですが、岩国のPMCにいる知り合いの元米国海兵隊員、部下候補に検分してほしいとのことです」
「はぁー。芦田少将を見くびってたな、謝んなきゃ。もうなんでもいい、好きにしてってヘソまげていい?」
地下のロングレンジでサリーが持ってきた試作品を検品する。
試作品といってもワンオフではなく量産できるかの試作なので、モーゼル型魔法銃がホルスターに修められて十丁並べられた。予備のマガジンと箱入りの弾丸も用意されている。
いや、試作品出来上がるの早くね? サリーは何日寝てないのか。絶対無理してるだろ!
結果、再現は上手くいっている。耐久性は健軍でテスト中とのこと。ただし魔力が足りず満足なテストにはまだ時間がかかるとのこと。
一応安全に射撃できるから、偵察隊に配備して俺にもテストしてほしいと、サリーがギラギラした狂気じみた笑みで頼んでくる。
了承しないと暴れそうだな。
司令室に戻ると、転属希望の自衛官の書類を渡された。
「第二小隊、鈴出ルル二等陸曹。同じく鳥栖アカリ三等陸曹。第三小隊、古江クロウド一等陸曹。他の隊員も行きたがったが、今日明日で転属できる身軽なのがこの三名だ」
「……身軽って……」
「ただ申し訳ないが高機動車に余裕がない。軽トラを混ぜて出動するくらいだ」
「かまわない。俺の軽トラで岩国まで行く。幸い今は荷台に人が乗ってても捕まらんしな(※)」
「すまんな、必要な物資については、便宜を図るよう補給中隊に通達を出しておく」
「感謝します」
敬礼をし、書類を受け取って退室する。
付いてきている陸士長に希望者三名と面談をする手配をお願いした。
小さめの会議室に長机、希望者三名を座らせる。
大昔にした採用面接を思い出した。何聞いたっけ。いや違う、会社に採用するわけじゃない。
このWACのふたり。昨日何度も叩きのめした、いい根性した自衛官三人のうちの二人か。こっちの一曹も円陣で攻撃してきた時に中心となって声出してたやつだな。
しかしWACって女性陸上自衛官のことだけど、「女性」ってわざわざつけるのはジェンダーレスじゃないな。確かに俺の軍も割合でいえば男性が多かったけどなぁ。
「俺のことはケントと呼んでくれ。家名呼びの習慣は随分と前なんだ。名前呼びのほうがいい。俺もそうする」
「……了」
「俺に付いてきたいって希望しているらしいが、なにか話したいことはあるか?」
古江クロウド一等陸曹に視線が集まる。階級順なのかね。
「では。ケント少尉、なぜ『三等陸尉』ではなく『少尉』なのでしょうか」
「ああ、それか。『特殊防衛連隊』では旧軍の階級を使うことにした。訳せば同じだからね。『少尉』、『少佐』、『少将』なんだ」
「すると我々も……」
「『曹長』、『軍曹』、『伍長』になるかな」
「……軍隊みたいだと批判が来ませんか?」
「いまさらだな。自衛隊は軍隊じゃないのかい? 武器を手に集団で魔物を討伐する。国民を守る武装組織、そういうのは全て軍だろ?」
「伍長かぁ。三等陸曹よりいいかも!」
「……私は軍曹……ケロ?」
「……あったなそんなの」
「……おおむかし」
「クロウド曹長、ルル軍曹、アカリ伍長だな。他には?」
「湧き穴の先がどうなっているのか、ご存知ですか?」
「……わかっていない。各地で自衛官が消耗して以降は、追加調査が行われていないと聞いている」
「なぜ魔物が出てくるのでしょうか?」
「……それが機動偵察隊の任務になる」
※ 軽トラ、軽自動車のトラックは乗車定員二人です。運転手以外は大人でも子どもでも一名しか乗れません。荷台に人は乗れません。やむを得ない場合のみ警察署長に申請し許可が必要です。本作はフィクションであり、法律・法令・条例に反する行為を容認・推奨するものではありません。
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