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英雄の帰還 ほどほどでいくけど、復讐はキッチリやらせてもらいます。  作者: ヘアズイヤー
霊力ノ章

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37/60

面倒は素早く片付けよう

大雨特別警報、どうぞ被害が出ませんように。


「ケント少尉、お客様です。司令室へどうぞ」

「おう、ありがとう陸士長。すぐ行く」


 昼食をとっていると陸士長が声をかけてきた。



 結局七十二時間が半日ともたなかった。ほぼ全員が俺についてグラウンドを駆け回って叩きのめされ、夕暮れには動けなくなった。半数は気絶していた。

 湧き穴対策もあるし、兵力を削るわけにもいかないので中止にした。いや、正式に終了を宣言していないから、ずっと続いていることになる。

 勝負は預けたぞってことにしておこう。


 伝令の陸士長も包帯と絆創膏だらけで、顔を腫らしている。


 昼食の食堂にはまともな姿勢で座れない、しかめっ面が並んでいた。

 咥内を切ったのだろう、ウーとかググーとか、声をあげながら食事する隊員がアチコチにいる。

 さすが質実剛健、それでも大量の食事を掻き込んでいる。口の中切ったら醤油も味噌汁も滲みるよね。けど食べることが仕事だからな。

 キレイな顔をした隊員たちは昨日湧き穴当番だったのだろう。何があったか他の隊から聞いてチラチラ俺をみてくる。もちろんしかめっ面たちは忌々しげに見てくるよね。

 第二、第三小隊も顔をそろえ、俺を見ている。特にWAC三人はチラチラじゃなくジィーと睨んだままで、ご飯を口に詰め込んでいる。

 嫌われたなぁ。いくら必要だったとはいえ、女性に嫌われるのは心に響く。



「失礼します、高橋司令」

「来たか。ケント少尉、お客様だ」

「はい。やあサリー、董事(とうじ)自らとはね」

「どこ? 新しい魔物はどこ? 早く見せて!」

董事(とうじ)。ご挨拶が先です」


 俺を見るなり立ち上がって詰め寄ってくるサリーを抑えるヴァレン・スー。

ヂャン・フォン・チーとTSME三人組が揃っている。

 ねえ、三人とも目の下のそれ、隈じゃない?


「ハーイ、ケント。お話しを聞いて、サリーが飛び出してしまいまして」


 目が泳いでいるヂャンが、苦笑いを浮かべている。


「ハイ、ケント。どこ? どこ?」

董事(とうじ)

「はは、すぐ見せますよ、サリー。高橋准尉は護衛ですか?」

「はい、ケント少尉。お伝えしたいこともありまして。後でお時間ください」

「了。……高橋准尉、高橋一佐と少し似てますね」

「従兄弟でね」


 左目に青タンを貼り付けた高橋一佐。従兄弟か、よく似ている。


「先にハイオークを見てもらいましょう。それまで落ち着かないでしょうから。ここでは出せないからなぁ。ヂャンさん、輸送車両で来てる?」

「はい。先に受け渡しを済ませましょう」



 表に停めてあった冷凍車両にハイオークとオークを出す。すぐにサリーが飛びついてアチコチ確かめ始めた。


「ほう、ほう、ほー。魔石はどうなってる? ヂャン、メスだ、メス!」

董事(とうじ)、ここでの解剖はやめてください。凍えてしまいます。冷凍庫の扉は開けっ放しにしないよういつも言ってるでしょう!」


 こわっ。美人が怒ると怖いよね。


「いや、ここだけ、ここ切って、魔石を見るだけだから。お願いヴァレン」


 なんか数日で拍車がかかったのは気のせいかな。


「駄目です。解剖は研究室に戻ってからです。器材もないでしょう?」

「お、そうだな。戻ろう。さあ、行こう」

「駄目です。ケント少尉に試作品を見ていただくんじゃなかったのですか?」

「あ、そうだった。どこにやった?」



 すったもんだしていながら司令室に向かうと、ドアの前で陸士長が待っていた。司令室から怒号がしている。


「ケント少尉、北九州共同テクノ制作所が怒鳴り込んできました」

「エラい剣幕だな。陸上自衛隊司令に向かってずいぶんと度胸のあるヤツなんだな」

「所長です。一番偉い方とか」

「ふーん」


 どうするかなぁ。早く東京に出発したいのになぁ。

 まだ騒いでいるサリーを見ながら考え込んだ。

 あ、なーんだ。簡単じゃないか、サリーがいるんだし、高橋准尉もいる。


「入るよ。ケントが戻って来たとだけ伝えて入室の許可をもらってくれ。こちらのTSMEのお客が一緒ってことは話さなくていい。俺が戻ったとだけな」

「了」

「サリー、ヴァレン、ヂャン。例の北九州共同テクノ制作所、所長らしい。話しは俺がする。で、買収は検討したか?」

「ええ、ただ財務情報に黒い疑問が残り、金額は要検討です。……あちらに出向している技術者を引き上げることを、交渉に使ってもいいですよ」

「……ヂャンはそっちも得意か」

「サリーの研究費を引き出したり、かき集めたりしてますからね」


 中華系の商売人なの? 敵に回さないでおこう。


「ケント少尉、どうぞ」

「ありがとう。ケント少尉、入ります」


 入室すると、高橋一佐の机前のソファに顔を真っ赤にした小太り初老おやじ。スーツ姿だが少しヨレている。後ろには同じようなくたびれたスーツ姿の中年サラリーマンがふたり。

 だが、もっと気になるのは、おやじの横に座る痩せた男。

 一分の隙もなく濃紺のスーツをピシッと着こなしている。ソファの後ろに同じような濃紺のスーツ姿で大柄な暴力商売って感じの男たちを三人従え、足を組んでこちらに顔だけ向けている。

 敵味方識別能力が、痩せた男には無反応。中立か? 他は敵だな。

 初老オヤジはこちらに向いて敵意丸出しでふんぞり返った。


「なんやおまえは。大事な話ん最中や。邪魔ばしなんな」

「高橋一佐、こちらは終了しました」


 中年オヤジを無視して司令に敬礼する。高橋一佐、なんか悪い顔になってません?


「ごくろう、ケント少尉。あー、こちらは北九州共同テクノ制作所所長の村岡さんだ。村岡さん、彼は特殊防衛連隊ケント少尉、今回の湧き穴討伐者。基本的に魔物素材の権利は討伐者にあります。彼ひとりで討伐したので、彼が全ての所有者です」


 おい丸投げかい! 昨日のこと恨んでるな。


「こいつがひとりでやと!」


 そう言ってこちらを睨んだ後で、ニターと厭らしく笑った。


「大量ん小鬼たい。ひとりで倒すなどしょーもなかすらごとで誤魔化そうなんて、司令なんて御大層な役名でもなんと肝が小しゃかことで」


 佐田一尉はじめ副官たちが、音を立ててたった。


「ふん。高橋一佐、湧き穴から持っていった小鬼ば返すか、相応ん金額ば支払うてもらう。英豪会ん錦戸組長にご足労いただいとー。こん場ではっきり約束してもらおう!」


 ダンッ! とテーブルを叩く村岡所長。

 へー、じゃこいつが順次の兄貴か。


「はぁー」


 錦戸順也は大きくため息をついて、組んでいた足をといてスッと立ちあがった。

 部屋にいた全員の視線が錦戸順也に集まる。


「やってられませんね。私は失礼しますよ」

「え、錦戸組長、な、なんば」

「村岡所長、あなた方とのお付き合いはここまでとさせていただきます。私に無駄な時間を取らせた請求書は、本日中に制作所の方にお届けいたします」

「な、なんば」

「お気づきではありませんか?」

「え、え、うー、こ、こん、ヤ、ヤクザ風情が、うちばばかにするとか!」

「馬鹿なのはあなたです。はぁー。お初にお目にかかります。私は佐藤順次の兄、錦戸順也です。特殊防衛連隊、浅野ケント少尉殿。いえ、エリオット・キャメロン・コルボーン侯爵閣下」

「初めして、浅野ケントです。江島組長からかな?」

「はい。神津組二代目襲名の連絡をもらいまして。それよりもここにいる馬鹿は本物です。あなたのうしろにいらっしゃる方を知らないなんて」


 順也は俺の背後に視線を移して少し頭を下げた。


「お初にお目にかかります、ホァン様。英豪会錦戸組錦戸順也です」

「はい、初めまして」

「お目にかかれて光栄です。我が国を救ってくださり、ありがとうございます。いま私たちが暮らしていけるのはホァン様のおかげです。お礼申し上げます」

「うんうん、わかってるネー。ワタシのおかげあるよー、感謝するヨロ、イタっ!」

董事(とうじ)

「ごめんなさい、ごめんなさい。調子に乗りましたっ」


 尻でもつねられたか?

 ああ、村岡所長は、口開けてキョロキョロして。事態を理解出来ないんだな。てか、ほんとにサリーを知らないの?

 高橋一佐、なんで笑いをこらえてこっちを見るの?


「いつまでも混乱したままじゃね。こっちも忙しい。さて怒鳴り込んできた北九州共同テクノ制作所さん、これは魔物討伐専任の自衛隊特殊防衛連隊の決定事項です。今後、魔物素材の取引は、全てTSME関係企業のみとします」

「はぁ?」

「理由は防衛上の機密事項で、あなたには知る権利がありません。お引き取りください」

「な、なん、なんやと! 高橋司令、どげなことばい!」

「私の管轄外です」

「北九州共同テクノ制作所さん、こちらの方をご存知ですか?」


 サリーに手のひらを向けてにっこり笑いかける。


「い、いや、そげんヤツは知らん!」


 印籠だす? こちらのお方をどなたと心得るって。


「先の……ゴホン、こちらはサリー・ホァン氏です」

「それがどげんした!」

「……ほんとにダメな奴か。TSME董事(とうじ)、日本の企業なら取締役だ。新半導体の発明者なのを知らないのか? お前たちの飯の種だろうに」

「え? と、取締役? 新半導体ん発明者? 何ば言いよー。東京ん丸菱テクノが発明したっちゃろうが!」

「陸士長、手すきの自衛官を呼んでこの男を叩き出しなさい」

「了!」

「副官にやらせる。ケント少尉の命に従いなさい」


 高橋司令の声に、陸士長と副官が村岡所長たちを拘束する。


「な、なんばする! しゃわりなんな! 錦戸組長!」


 呼ばれた錦戸組長、子分たちに目で「手を出すな」と命じている。子分は無表情でピクリとも動かない。教育が行き届いてるねぇー。

 無駄になるかもしれないけど、一応式神くんを背負っていってもらいますか。逆恨みしそうなヤツだしな。

 熊本で散布した式神くんたちとは、距離があって意思疎通できなくなっている。寿命で紙ゴミになっていくだろう。

 距離もそうだが、魔力が抜ければただの和紙なのが欠点か。恒久的なものを考えないとダメかな。


 ギャーギャー大騒ぎする村岡所長たちの背と副官たちに声を掛ける。


「今後、北九州共同テクノ制作所は出入禁止にするように」

「了!」


 後始末はTSMEに丸投げしとこうっと。


お読みいただき、ありがとうございます。

以下は押しつけがましくて本当は嫌なのですが、評価はいらないと思われるんだとか。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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