駐屯地ではやめとこう
戦闘終了後は第二中隊が中心となり救護活動を行っている。
一佐の指揮隊、第二、第三小隊、偵察オートは警務隊白バイの先導で小倉駐屯地に帰還する。
高機動車に乗り込む自衛官は肩を叩きあい、笑いあい、血のついた装備、剣、槍を見せあっていた。
討伐処理の監督を第二中隊指揮官と副官たちに任せ一緒に駐屯地に戻る高橋一佐に、質問した。
「高橋一佐、駐屯地で酒をだしてる?」
「ああ、隊員クラブでだしている」
「そこはWACも入れるの?」
「もちろん入れる」
「そっか。うーん、困ったなぁ」
「どうしたんだ?」
「隊員たちのあの騒ぎようがね。俺たちは『血に酔った兵士』って呼んでた。興奮が冷めないんだな、もめ事を起こしやすい」
「……そうだな。通常の湧き穴勤務とはだいぶ違っているな」
「だろう? こういう時は酒を飲ませて女を抱かせるのがいいんだが。WACもいるからなぁ。あ、指揮隊にもか。セクハラ発言だった?」
「いいえ、ケント少尉、私たちのことはお気になさらずに」
「ごめんね。……で、血に酔った兵士たちを落ち着かせるには、発散させることが絶対に必要。俺の軍には必ず娼婦と酒場の馬車を同道させていた。兵士たちを略奪に走らせないためでもあったけど。なんか方法を考えてやったほうがよくないか?」
「そうだな……」
高橋一佐は腕組みをして考え込んでしまった。
「小倉のソープ街ってまだやってんの?」
「数軒はあるようだが……」
「数軒か、百の男たち相手じゃ、たんないなぁ」
「……ヤクザに話しをつけてみるか」
「小倉のヤクザか。それって英豪会錦戸組とか?」
「知ってるのか」
「組長は錦戸順也?」
「そうだ。知り合いか?」
知り合いねぇ。うーん、どうしよう? 佐藤順次の兄貴とか、面倒事になりそうなんだよな。向こうは良く思ってないんじゃないか。顔を合わせないほうが良いか?
錦戸順也。
順次の兄は佐藤の姓を捨て、母方の錦戸を名乗っていると聞いた。
意外にも手配書の内容が父親ほどヒドくはない。
江島の話しでも頭脳派の経済ヤクザだといっていた。順次を毛嫌いらしいけどな。
親の仇じゃなぁ。
ま、考えてもしかたないか。
「どんな伝手でもいいが、男性隊員向けの乱痴気騒ぎを企画すればいいだろう。今夜すぐがいいな。WAC向けには……ゆっくりお風呂につかって美味しい食事、美味しいスィーツ、たっぷりのおしゃべりってとこかな?」
同乗しているWACたちが、ニコニコしながら激しく首をタテに振った。
「両方とも手配しよう。だが駐屯地内で乱痴気騒ぎはな」
「高橋一佐、隣の学生寮が借りられるのでは? 大きなお風呂もありますし」
「……そうだな、それもいいな。ま、なんとかしよう。……ケント少尉には少し相談にのってもらいたい」
「……了」
まあ、想像はつくけどね。
「魔物の買い取りなんだが。第二、第三小隊の倒した分、半分はウチの連隊にもらえると助かる。自警団の遺族にもなにがしか渡したい」
あれ、そっちか。
「俺は半分もいらんよ。そっちで取ってかまわない。ただし、アイテムボックスに入れてるヤツラ、最後に出てきたハイオークとオークは俺の取り分にさせてもらう。TSMEに卸しているのか?」
「いや北九州共同テクノ制作所だな。政府主導となってる会社なんだが……」
「なんだが?」
「尊大でな。母体の某大手企業にもう力はないんだが、しがみついてる連中だ。ゴブリンを引き取るのは当然の権利だといわんばかりだ」
「……既得権益だとの勘違いか」
「芦田陸将補、いや芦田少将から、こっちは買い取り金額を叩かれてると聞いている」
「ほー、そうかいそうかい。じゃTSMEに引き取ってもらおうか。どっちにしてもハイオークはサリーに渡したいし」
「いい顔はせんだろうな」
「いや、こっちは新半導体発明企業との直接取引だ。文句があるなら、TSMEからの次期技術提供は無しって話だな」
「そんなことができるのか?」
「TSME董事のサリー・ホァン氏は、特殊防衛連隊の技術顧問だ。今回の討伐分はゴブリンも含めて全部引き取ってもらおう。サリーに連絡しておく」
「……」
「そうか、もう一手うっとこうか。その北九州共同テクノ制作所、関連企業を含めてTSMEに吸収させよう。文句があるなら、炭鉱の権利関係で動いてもらってる神津組に出張ってもらう」
トラブル解決を反社に頼むのはいけないっていわれてもな。裏はそのために存在してるんだ。説得力のある解決法だな。(※)
江島と錦戸順也。共闘できるといいなぁ。
小倉駐屯所の応接室で高橋一佐の相談を聞く。
佐田一尉は湧き穴の後処理に残っている。ほぼ壊滅した自警団を応援して、建て直さないといけないからな。
「ケント少尉、しばらくここに滞在してくれないか?」
ほら来た。
「目的は?」
「戦闘訓練をお願いしたい」
予想通り。
ハイオーク相手じゃな。あれ見たら彼我の戦闘力の違いがわかってしまう。
強化しないと自警団も自衛官も消耗するだけだ。兵力が減るのはまずいから、仕方ないよなぁ。
「いいだろう。そうだなぁ……」
「宿泊なら宿舎が空いてる。そちらを用意させる」
まあ、小倉か下関で一泊って予定だったから、寝るとこあるなら丁度いい。好都合だ。食事にふく料理を出してらえないかな? 刺しとてっちり……じゅるる。
で、訓練か。普通科連隊、肉体的な課業はしてるだろうから体力的には大丈夫だろう。一対多の訓練、早く東京に行きたいから短期集中だな。
銃剣道をやってる隊員なのか、短槍の構えがサマになってるのもいた。ハズラック王国兵とやってた模擬戦が良いだろうな。
「第二、第三小隊。明日は彼らを休ませるつもりか?」
「そうだな。これからハメをはずさせるなら、そうしたほうが良さそうだが……」
「よし! 明日の午後から訓練開始。三日間、七十二時間の訓練にしよう」
「ぶっ続けでか?」
「俺さえ起きてればいいんだ。そちらは入れかえでかまわない。第二中隊も交替で戻して訓練しよう。中隊はいくつある?」
「第三までだ。だが、第三中隊は他の湧き穴に出動させてる」
「あれ? もっと無かったか?」
「大混乱で数を減らした。いま第四十普通科連隊は編成し直して三個中隊だ。第三中隊は湧き穴と大陸からの流民防衛に太宰府へだしている」
「太宰府か。大陸はどうなってることやら」
「七十二時間の訓練、ケント少尉は大丈夫なのか」
「ああ、長時間戦闘は慣れている。レンジャーか幹部候補生訓練と思えば良いんじゃない?」
「レンジャーか幹部候補生……キツイやつか。では夜もだな?」
「当然。夜間訓練だってするのだろう? 湧き穴も二十四時間営業だしな」
「了解した」
「あ、おんぶにだっこで悪いんだが……宿舎に泊めてくれるなら、当番兵を付けてくれないか?」
「当番兵?」
「俺は新隊員教育を受けてないからな。部屋の使い方なんか知らないんだ。教えてくれる隊員を決めてくれると助かる」
「了、伝令を用意しよう。……あれか? ケント少尉はお貴族さま、メイドに囲まれた生活だったのだろう?」
「いや……小さい頃は乳母日傘とはいかない生活だった。だが、従者はいたな」
「……気の利くやつをつけよう」
「感謝する」
メイン会場は隣接する廃校になった大学の体育館。男子学生寮の空き室を娼館にする。
後方支援連隊が野外入浴セット二型を複数設置してくれて、時間をかけて風呂に入ることができ汗も流せた。
高橋一佐が英豪会の伝手をたどり、大量の酒と食事、甘味、女たちを手配してくれた。
暴力団対策法? 反社会的勢力とのお付き合いはダメだって? 今の御時世にキレイ事は言ってられない。反社も湧き穴対策に参加しているんだからな。(※)
高橋一佐小倉駐屯地司令の献杯で、自警団犠牲者、自衛隊殉職者を悼む。
生きていることに感謝し、大どんちゃん騒ぎの夜となった。
男性隊員たちは次つぎと個室に消えていった。
WACのおじょーさまたちは……セクハラになるし、プライバシー尊重ってことで。
※ 反社会勢力との付き合いにはなんのメリットもありません。関係者として法的処分を受けることがあります。本作はフィクションであり、法律・法令・条例に反する行為を容認・推奨するものではありません。
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