ハイオーク
白猫姫が暗い隅で丸まらず、また膝の上に乗ってくれるようになりました。
うれし、うれし。
ゴブリン、オーガはほぼ倒され、小隊は強く麻痺しているオークを警戒しながら取り囲む。
「こいつが、こいつらが!」
「三尉! コイツラもやっつけていいんですね!」
「好き勝手しやがって!」
冷静な言動じゃないな。
もっとも自衛官といっても「兵」なんだ。どの国、どの世界でも暴力的なのは変わらない。そうでなければ役立たずだから。
アドレナリンがでまくって戦闘能力があがる。反面、冷静さを失ってしまうこともある。制御して戦闘を維持するのが日常訓練の目的だ。
そうはいっても実戦となると冷静さが吹き飛ぶことも事実で、一概に悪いことではないからな。
「三尉、こいつら負傷していますが、向かってこないのはなぜなんでしょう?」
「そいつらは魔法で麻痺させている。そろそろ動き出すのもでてくる。油断せず、突き殺せ」
オークたちを分隊で攻撃する。短槍を渡したWACのうち、ふたりの自衛官が積極的に貫いていく。
痺れながらも剣を振り回すオーク。剣をかわして革鎧と厚い脂肪をものともせずに、彼女たちは低い体勢で上手く狙っている。ほー、なかなかだね。
最後のオークが倒された頃、斥候式神が連なる高機動車をとらえた。援軍が到着したみたいだ。
「ケント、第二中隊だ」
俺のPCを持った高橋一佐と指揮隊がそばに集まってくる。
第二、第三小隊は興奮したままあたりを索敵している。そこに第二中隊が加わり救護活動を始めた。
「こっちの小隊は興奮が解けないね。交替させたほうが良さそうだ」
「……そうだな。交替させよう」
「待て! 次が来た!」
「次?」
「……オークが三? あと一つは……こいつは……こいつはハイオークか!」
「ハイオーク?」
「オークの上位種だ。俺が相手する」
「了。次の魔物がくる! ケント少尉が戦う。第二、第三小隊、第二中隊、湧き穴の前を開けろ!」
お、「ケント少尉」っていったぞ。高橋一佐を見るとニヤリと意味深な笑みを返してきた。既成事実、同じことを考えてるのか?
「第二中隊のWACに女性たちのケアをさせろ。負傷者の救護をいそげ」
指揮隊に指示をだす高橋一佐と俺は一緒に湧き穴に近づいていく。
「湧き穴前から出さないように障壁をはる。そうだな、短槍を使うか。障壁!」
湧き穴を取り囲むようにコの字形に障壁をつくる。見学できるよう透明度は落とさないが、少し色をつけて障壁の位置を明らかにした。
「出てきたら湧き穴も塞ぐ。手の空いた者は見学推奨だ」
「了。総員傾注! これから歴戦の戦士である特殊防衛連隊ケント少尉が、戦い方の手本を見せてくれる! 相手は新種のオークが三! その上位種ハイオークが一! 見学を許可する!」
「了!」
高橋一佐、煽ててくれるなぁ。カッコイイとこ見せないと、今夜は膝を抱えてへこんじゃうな。
暗闇の中から、オークたちが姿をあらわす。
金属鎧とヘルム、厚みのある両手剣。いい装備だな。
『ゴウァー!』
槍を手に歩み寄る俺を見た三体が、叫んで突っ込んでくる。初撃の打ち下ろしに振りかぶったところを、間合いをつめて胸と腹に素早く三連突き。
体を低くして左に飛んで、後ろのオークに四連突き。
くるりと体を回して右に駈け、最後の一体に二連突きして、ヘルムの隙間から穂先で顎下を斬り裂いた。
返り血を避けて、湧き穴に向かって構え直す。
オークたちより一回り大きく、装備も良いフルプレートアーマーのハイオークがでてきた。
あの重装備で大剣などを振り回し、駈けたり跳んだりする。軽戦車が突っ込んでくるようなものだ。
臆したわけじゃないだろうが、ハイオークは身が厚く大鉈のような剣を脇に垂らしたまま俺を観察している。
短槍から、金色に輝く長剣に武装をチェンジ。右手で持ち、左手には魔法銃を出す。
魔法銃を高く掲げて、自衛官たちに呼びかける。
「コイツは魔法銃! 特殊防衛連隊で開発中だ! 今湧き穴から出てきたのは強力な魔物、ハイオーク! 見ろ! 立派なプレートアーマーだな! 魔法銃が通用するか見てみよう!」
狙いを定めて撃つ。
タンッ! タンッ! タンッ!
ハイオークの胸から血煙があがる。
「貫通重視の仕様だと、こんな風にアーマーも貫ける! ところがだ! ゴブリン、オーガなら倒せても、ハイオークだと拳銃ではストッピングパワーが足りない! 多少傷をおってもコイツらはものともせずに攻撃してくる!」
魔法銃をしまって、金色の長剣を構える。
「だから、俺はこんな風に戦ってきた!」
低い体勢で棒立ちのハイオークの足元を払う。
ギインッ!
大鉈が長剣を受けとめる。跳ねる力も利用して剣を引き、角度を変えて打ち込む。
ハイオークも大鉈を振り回してくる。何度も切り結ぶ。
ぶつかりあう長剣と大鉈が、長く輝く軌跡としか見えなくなるまで速度をあげる。
素早く体を変え、障壁内を縦横無尽に動き、斬りあげ、斬りおろし、防ぎあい、斬りあう。
そこそこついて来るな。マシな方か。もう一段、速度をあげるか。
斬合の速度があがり、ハイオークがついてこれなくなる。できた隙に拳を叩き込む。
ハイオークが吹き飛ばされ、障壁に激突した。
ゆっくりと近づいて再び斬り結ぶ。
またついてこれず、今度は俺の蹴りを受けて障壁まで吹き飛ぶ。
数度繰り返したところで、ハイオークのフルプレートアーマーがボロボロになった。
「素材として利用価値があるかな? もったいないか。刺突攻撃はこの長剣でも有効な方法だ!」
長剣を水平に構えて、フルプレートアーマーの継ぎ目を狙って突きをだす。
三連撃、五連撃、七連撃と数を増やしていく。
ハイオークは全身から血を吹き出して、膝をついた。
「ではトドメだ! 正確にヘルムの隙間を狙う!」
顔面に開いている隙間を長剣が穿つ。
剣先はヘルムを突き抜け、頭の後ろまで通った。そのまま剣を左右に動かし、さらに力任せにエグる。
ハイオークはピクピクと痙攣し、長剣を抜くと同時に音を立てて崩れ落ちた。
「おおおっ!」
自衛官たちの声に、長剣を掲げて応えた。
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