関門海峡
新章「霊力ノ章」第一話です。
自衛隊、海兵隊PMCと共闘していきます。
「魔力」ではなく「霊力」とは? という章です。
トラブルなく熊本県から福岡県、陸上自衛隊小倉駐屯地にたどり着いた。
九州自動車道は通行止めで一般道路に降りる部分がいくつがあった。
大混乱前なら2時間で着くところなんだが。路面や橋の破損でスピードも上げられず、結局は6時間もかかってしまった。
休憩のたびに腰を伸ばしたが、結構キツイ。自動治癒能力が働いてくれたが、窮屈なものは窮屈なのだ。
アメリカで軽トラが人気と聞いたことがあったが、アメリカの大男には大変だろうにな。
途中巻き寿司のお弁当をいただき、おやつはじゃがバターで小腹を満たした。醤油をひとたらしするのが良いよね。あ、千葉の宮醤油で桶仕込み醤油も仕入れとかないとなぁ。潰れてないと良いけど。
小倉駐屯地に司令宛書類を届ける。隣が警察署なので先に手配書の撮影をしてきたけどね。
「小倉駐屯地司令の高橋だ」
「副官の佐田です」
「特殊防衛連隊、情報官の浅野ケントです」
「……そいつはまだ公式じゃないはずだが? ……君は日本人なのか?」
「こんな見た目ですが、日本人ですよ」
「君はどこで候補生課程を学んだんだね」
「ああ、それは受けてないですね。野戦任官なんで。志願兵扱いなのかな。あれ? 自衛官全員志願兵といえば志願兵か? 徴兵制じゃないしね」
入室の仕方や上官への礼儀、もっと言えば駐屯地への正しい入り方すら知らない。用語もね。
「常識」は身内だけの決め事で、外部の人間には理解不能。他人のことを「常識がないやつ」って言う方がおかしいんだ。
「司令、この者は口のきき方がなっていません」
「佐田くん、そこまでにしておきなさい」
「しかし、司令……」
そう言った佐田さん、一等陸尉か。わかるけど、いまさら教育を受ける時間はとれない。我慢しろよな。文句なら芦田陸将補までな。
「口の聞き方ねぇ」
「だから、上官に向かってその口のきき方」
「いいから佐田くん。さて、浅野くん、芦田陸将補の話しでは魔法が使えると聞いているが、どのようなものなのかね」
「司令、そんな眉唾な話しはおかしいです。陸将補の手品と聞いています。担がれているのでは」
「佐田くん、芦田陸将補はそんな人間ではないよ。浅野くん、魔法を見せてもらえと言われているのだが?」
「『了』って答えるんでしたっけ? ではこれが魔法です」
亜空間収納から魔法銃、剣、長柄の武器などを取り出して床にならべた。
長柄なら、服にしまっていて取りだす手品では無理だと分かってもらえる。床に置く時にドンッとかゴンッ、ガキンッって音がするしね。
「これは亜空間収納っていう魔法です」
「……」
部屋にいた他の副官たちも興味津々に寄ってきた。
「手にとってみていいですよ。折りたたんだりして服には隠せないことを確認してください」
「このモーゼルは銃か?」
「あ、それ自作の銃で、ガンパウダー使ってないんですよ。それは触らないほうがいいかな」
「自作? それにしては……」
みんな好き勝手に触っているが、高橋一佐だけはじっと俺を見つめている。
「浅野くん、戦闘用の魔法もあるのだろう?」
「ええ。ここって射撃訓練場があるんでしたっけ?」
「ここに訓練場はないが、試射用の施設はある。移動しよう」
司令室を出て地下三階に降りた。
同時に五名は撃てるショートとロングのレンジがある。
大混乱の時のかな。古いものだが血の匂いが残っているように思う。
「魔法銃とやらも見てみたいな」
「いいですが、ガンパウダー式とそう違いはないですよ。では始めます」
レンジの一番奥までワイヤーでターゲットを移動させる。
まずは魔法銃を使い、暴発せずに弾丸を打ち出せるところを見てもらう。
副官たちがざわつく。日本で唯一の銃器専門集団だからね。
「質問は後でまとめて受け付けます。そうそう、弾丸はちょっと特殊な金属でね。ゴブリン、オーガに当たっても弾き返されないよ」
「司令、これならゴブリンを倒せるのでは?」
「そうです。これを配備すれば」
「ああ、魔法銃は健軍主導で開発中です。なにせ数はないもんでね」
「しかし、一丁でもあれば」
「ガンパウダーの代わりに魔法で撃ち出すから、魔力供給出来ないとただの金属の塊」
「ま、魔法?」
「それも芦田少将が教育を開始するはず。TSMEが研究生産、自衛官が魔力供給かな」
高橋一佐が「少将」の言葉に片眉をあげ、納得していないようだ。他の戦闘魔法を使ってみせよう。
「じゃ魔法ね。氷槍!」
ターゲットを複数の槍がつらぬいた。
「火弾!」
威力は上げない。後ろの壁に損害が出るからね。
「火球!」
こぶし大の火の玉が飛んでいき、ターゲットが発火する。
「爆弾って爆発するのもあるけど、ここじゃ爆風でヒドイことになりそう」
「爆発?」
「野戦砲並みのね。榴弾だね」
室内に着信音が鳴り響き、副官が壁の電話にでた。
「榴弾並み? 威力もか? 撃てるのか?」
「火薬無しだから」
「なに!」
電話の副官が大声をあげた。いやーな予感がするね。
「司令! 第一小隊より救援要請! 関門橋の湧き穴で多数の死傷者!」
「数は?」
「数十のゴブリン、オーガ、正体不明の魔物! 未だ交戦中!」
「す、数十だと! いままでの最高は三匹でした!」
「佐田一尉、出動だ。待機中の第二、第三小隊で先行出動。第二中隊は出撃準備」
「了!」
数が出るのは初めてか? 二個小隊ってことは百名くらいかな。
「高橋一佐、武器を提供できる。マチェーテよりマシな武器だ」
「……いっしょに来てくれ!」
乗車前の点呼と装備確認に、俺も参加する。取り出したハズラック王国の兵士剣を整列した分隊ごとに配らせる。
高機動車一台に十名の隊員で一分隊。それが四つで一小隊。
偵察オート二名と警務隊白バイの二名に先に装備させ、出発していった。
残るふたつの小隊八十名、高橋一佐の指揮隊十名、先導する警務隊のパトカー隊員十名全員に兵士剣を配る。
彼らの武装はマチェーテだからな。荒井市のヤクザとたいして変わらない貧弱なものだよねぇ。
慌ただしく装備を交換させる。
「そのまま聞け! 熊本健軍駐屯地が剣を提供してくれた! 特殊防衛連隊、浅野ケント特務三尉より訓示!」
え? 俺? いきなりふるなよなぁ、いいんだけどさぁ。
「諸君に配られた剣は魔物用に作られたものである。ゴブリン剣より遥かに切れ味が鋭い! マチェーテで斬れない奴らの装備も体も斬り裂ける! 初見の武器だが諸君らの奮闘を期待する!」
駐屯地に司令を訪ねるので常装だったが、手早く迷彩服3型に着替えた。作業服としても着やすいんだよね。もうこれからは迷彩服3型だけでいいか。
いやいや、完全に自衛官になっちまうな。
赤色灯をつけてサイレンを鳴らす警務隊の白いパトカーを先頭に、高機動車を連ねて出発する。俺は高橋一佐に同乗する。
「浅野特務三尉。この剣は健軍で開発されたものか?」
「あー、ただケントと呼んでくれ。この剣は俺の私物」
「私物? 百振りもの剣が、私物だと?」
「いろいろ事情があるんだよねー。あ、情報官の機密事項って思ってくれ。いずれ明らかになると思うよ」
「口のきき方が」
「はぁー。佐田一尉。俺が任官したのは数日前。その前の軍籍は王国軍の騎士団長で階級は大将。王政貴族制の国で王配、侯爵でもある。上官や目上に対してうんぬんなら、一尉は大将、陸上幕僚長の俺と気安く口がきける身分じゃない。もっと鷹揚に構えたまえ」
「……」
「王配? 『そうろうこうしゃく』ではなく『きみこうしゃく』、公爵じゃないのか」
「うまい訳がないんでね。王の次ってことだな」
「ではやっぱり『きみこうしゃく』公爵だな」
「そうかぁ? ローザ・ライラの戴冠式は延びてるんだけどな。あ、年齢は見た目とは違うからな」
「は、はい」
「ケントはやはり外国人か」
「いやちゃんと日本に戸籍あるから。外国人とちょと違うから」
「その、身分とは?」
「ああ、ごめんね佐田一尉。ちょっと脅してしまって。身分は公爵か侯爵、子爵とかいろいろ爵位をもっているが、日本と国交がある国じゃないから気にしないでいてくれ」
「……。百振りの剣、その収納の魔法はどれくらいのものが入れられるんだ?」
「指揮官はそこ気になるよねぇー。いろんな物を入れてきたけど、量も大きさもそこそこ入るってとこかな」
詳細をどこまで明かすかは芦田少将とも議論が分かれているんだよね。
「それより隊員たちは剣で戦えるのか?」
「剣道の訓練はさせている。殆どが有段者だ」
「で、上手く戦えている?」
「自警団が中心になっているが、いざという時は出ていく」
「答えになってないな。一人一殺はできてるのか?」
「……十人ほどで足止め、ゴブリン剣か鉾で止めを刺している」
「玉杵名の自警団は一匹に十分かかっていた」
「ああ、そのくらいだな」
「……やっぱり剣道ではダメか」
「むっ。ダメとは?」
「訓練としてはメリットもあるが、実戦には使えないって意味だよ。やっぱりそこも練り直しか」
高機動車内の隊員たちの表情が抜ける。
でも、そうなんだよね。
剣道や柔道、空手道とかはスポーツだから。
実戦的じゃないんだ。
だって投げや金的、目つぶしが禁じ手なんだもの。
殺し合いを学んでいない。人殺しの訓練をしていない。
あ、軽トラ! 小倉駐屯地に駐車したままだった。持ってくればよかったな。
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