美少女と美少年、そして……
第一章「帰還ノ章」エピローグの二話目です。
次回投稿より第二章「霊力ノ章」を始めます。
自衛隊が魔法使いを育てるそうです。
いいえ、「魔法使い」ではなく「魔術師」だとなおされました。なにがちがうのでしょう? と聞いてもわからないようです。
ケントさんが自分のことを「魔術師」といったからだと、あとで聞きました。
あの女がいます。
自警団一班の当番中にくることがふえました。ケントさんが帰ってくる前には、一度しか見たことがありません。
女の私から見てもすごい美人さんです。
ときどき見せる怖い目つきや、男の人に命令するときの声も美人さんです。きれいな顔と、なんというのでしょうか、頭がよくてキビキビとしていて「ああ、きれいな人なんだな」とほんとうに思います。
その上スラッと背がたかく、足がながいです。でるとこも引っこむとこもドンキュドンです。
髪型は「前下がりショートボブ」というそうです。くやしいですがステキです。
あれ? なんでくやしいんでしょう?
いつもケントさんと親しげにはなしています。
ユミさんの旦那さんなのに。
自警団の男性はあの女がいると落ちつきません。ジローちゃんも鼻の下を伸ばしてニコニコします。
評判の良くない乱暴な男の人が声をかけたことがありました。みんなは気の毒そうにあの女を見ています。
いつもいっしょにくる芦田さんという方が私のそばにいたので、思いきってお話しました。
「あ、あの、あの、と、止めてください。危ないです。女性にヒドイことするって噂の人です」
「あいつがか? ほう、体格はよいがなぁ。まぁ無理だな」
「あの女性がアブないです」
「おーい諏訪、そいつ評判良くないらしい。好きにしていいが、殺すなよ」
「え?」
自衛官のみんなはニヤニヤと笑いをこらえています。
「了」
聞こえていた乱暴者は女性の腕をつかみ肩を引きよせようとしました。
あっという間に乱暴者が宙をまって、地面に叩きつけられて身悶えしています。
あの女が腕をとると、「ゴキッ」っと音がしました。
「折ってはいない。肩をはずしただけだ。金玉は潰してもらいたいか?」
自警団のみんなが股間を手でおさえて、「ヒェッ」と声をもらしました。
自衛隊の階級、知らなかったので教えてもらいました。芦田さんは「将軍」なのだそうです。あの女は「三等陸佐」です。
自分でも調べてみました。エラい人たちなんですね。
班交代の時には、いつも湧き穴前で訓練があります。ケントさんも剣の使い方をみんなに教えていました。
あの女はいつもケントさんを見ています。ちょっとイライラします。
あの女も自分の剣で真似をしています。誰よりも素早く動いています。
私には、できません。
給食班。私は戦わずにみんなの食事のお世話をするだけでした。
ケントさんが出発してから、魔法の教練がはじまりました。湧き穴にいる自警団はみんな参加です。私にも魔石がわたされました。
「湧き穴のそばにいれば、魔素を取り込み魔力が蓄えられています。魔法が使えるようになっているはずです。あなたたち給食班、救護班も全員参加です」
あの女が教えるようです。てのひらに魔法で炎の玉を出して見せてくれます。
「一班は浅野ケント三尉が魔法を使うのを見ていたはず。あれが目標です。オークを粉砕したあの火弾の連射を思いだしなさい。そのイメージが教練をするのに大切です。では魔石に魔力を供給することから始めましょう」
ケントさんが出かけてから、もう二日がたちました。
「おいジロー、魔石が扱ゆるごつなったっちゃ?」
「うん。ケントさんに教わってたからね」
「じゃ火も出せっとか?」
「まだできない。なんとなく、あとちょっとって気がするんだけど……」
湧き穴で見張りをする萩のおじさんが聞いてきました。みんなは真剣な顔で魔石を握ったり力んだりしています。
ですがケントさんがやっていたように赤黒く光らせることができたのは、モナミさんと僕だけです。
ケントさんが言っていました。
「魔法は巡らせている魔力で『自分のイメージ』を実現させること。炎の大きさや温度などを、はっきりイメージすることで決めるんだ」
ケントさんの火弾は強烈でした。
僕にだってできるはずです。
すごいスピードで回転させて、赤炎から白炎に。
あの真っ白な炎。
それを僕の掌に!
グンッ! と、なにかが体から吸われていきます。
眼の前に白炎が浮かびました。ケントさんのようにドォーンといけ!
白炎は訓練スペースを一直線に飛んで、停めてあった軽トラに当たりました。
バチィーンッ!
金属音を上げて軽トラのドアを貫通しました。
「オオッ!」
「うわっ!」
軽トラが揺れて向きが変わります。
ケントさんのは一発じゃなかった。もっとだ!
白炎がいくつか浮かび、軽トラに当たります。「ドンッ!」と爆発しました。
憶えているのはここまでです。
目を覚ますと救護所で横になっていました。すぐそばから話し声がします。
「これがケントが言っていた『魔力切れ』か」
「ああ、死ぬこともあるそうだ」
「……芦田陸将補、『学校』が必要だ。あいつが言ってたようにキチンと誰かが教えないと危ないな」
「江島、協力してくれ。荒井市と玉杵名市から人を集めて『学校』をつくる。教える人間が必要だ」
「自分がか? 自分はヤクザの組長だぞ」
「ヤクザは関係ない。むしろ戦い方を教えるのには適任だ。それと『任侠』も教えられるだろ?」
「……ケントも軍事思想の教育は必須だといってたな」
「芦田陸将補。このコ、ジローくんが気がついたようです」
「看護人を呼ぶ。諏訪、ついていてやってくれ」
諏訪三佐がまぶしい笑顔を向けて、僕に呼びかけました。
「大丈夫? 美少年魔術師くん」
某所。
「ミズキ、遠見の巫女はなんといっている?」
「やはり九州、熊本のあたりで間違いないと」
「うーむ。ここ一月のことだというのだな?」
「はい、シラメ様。急に現れたそうです」
「ツキメも感じていると?」
「はい」
「遠見の巫女が、ここから九州の霊力を感じるのはわからんでもないが。霊覚の巫女も感じ取れるほどなら……。一体どれほどの霊力なのだ?」
「……」
「当代様までご報告を上げねばなるまい。全く難儀なことだな」
私は黙って頭を下げました。
底が知れない賀茂シラメ様。
みんなは心を探られるのではと恐れています。
親しいものの間では「おばば様」と呼んでいるけど、本人にそう呼びかける勇気は誰も持っていません。
一月前。
現れたときから、私にも霊力が感じとれました。
ですが、言うわけにはいきません。感じたことがバレたら、あの子のようにされてしまいます。
私はただでさえ「須比智之会」から疎まれる「鬼子」なのですから。
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