東へ
第一章「帰還ノ章」最終話です。
エピローグ二話が残っています。その後、新章開始の予定です。
明日は東京に向けて立つ。
今日は最後の自警団参加だ。
湧き穴前、自警団の中にモナミさんとジローちゃんの姿もある。芦田陸将補と諏訪三佐、高橋准尉の陸自トリオもいる。
江島にも研修に来ないかとの連絡をし、参加してもらっている。
あれだけの大混乱だ、事態の収拾に大変な思いをしているのだろう。すまんね。
新しい式神くんを湧き穴に向かって放つが、やっぱり穴の奥20mぐらいで意思疎通ができなくなる。
自分で入っていくには情報が足りない。入っても戻れなければ、こちら側で準備していることが中途半端になってしまう。
直接先を確かめたい。その決断をどこでするか検討しなくてはな。もどかしい。
おっ! 来るか! ちょうどよい。
「ゴブリンがくるぞ! 数は三匹!」
そう見張りの萩さんに告げる。
陸自隊員たちが自警団員たちに迎撃準備をさせる。
こうしてみると江島の指揮は的確だったな。こっちは戦闘配置がギクシャクしている。
「三匹だが俺がやる! 自警団員、全員よく聞け!」
魔法銃を取り出して掲げる。
「これは使える銃、魔法銃だ。火薬式の武器とちがって、相手にキツイのをおみまいできる。自衛隊の協力で開発と配備を急いでいる。こいつならゴブリン、オーガ、オークなんか一撃だ! みてろよ!」
魔法銃を湧き穴に向けて構える。
派手な発射音と威力で、みんなに希望を与えたい。武器が用意され、魔物を寄せつけなくなるんだという希望を。
ゴブリンが出てきた。革の胸当てと兜を装備して抜き身の剣を引きずっている。
先頭の顔に狙いをつける。
ガァーン! ボヒュンッ!
兜も一緒に頭が爆発し、体が他の二匹を巻き込んで後ろに吹きとぶ。
起き上がろうとするところを狙う。
ガァーン! ガァーン!
ふたつの兜が破裂する。
素材がもったいない? 貫通弾には派手さがないからな。
銃弾はホローポイント弾を使って、血肉が吹き飛ぶデモンストレーションを優先した。
「この通りだ!」
「ウォォォッー!」
呆気にとられていた自警団員たちから、大きな歓喜の叫びがあがる。
ほう、次はオークがくるか。
「萩さん! 判るか! 次が来る!」
「あ? え? いや……い? 大きか! ゴブリンじゃなか! オーガか?」
「オークだ! 十頭くる!」
TSMEと湧き穴対応部隊に、長期にわたる依頼を出している。
湧き穴の分布状況と出現魔物のデータ収集および分析をたのんだけど……。言葉にするとフラグになるからなぁ。……でも、やっぱりかもしれない。
「次は魔法で倒すぞ!」
「え?」
「ま、魔法?」
「なんていった?」
「この世界にも魔法が存在する! 自衛隊が使い方の訓練を始める! 今よりずっと戦いやすくなるぞ!」
指揮と指導をする近くの自衛官に尋ねている人もいる。
「あたも魔法で戦えっとか? 俺たちも魔法がでくるごつなっとか?」
「自分はまだ無理だが、みんなに教える教導隊を準備中だ」
湧き穴からオークたちが姿をあらわす。
金属のヘルムと革鎧に身をつけた十頭があたりを睥睨しながら進んできた。最後尾の二頭が真っ黒な帆のような旗を掲げている。
あれは確か……西方魔王の軍旗?
「障壁!」
逃亡と跳弾予防に、オークの集団を囲うように障壁を張る。
彼らに尋問できればいいのだが。
あちらでもごく特殊な言語理解と隷属、諜報の魔法がなければできなかった。魔術師諜報部隊の力を借りたいと切実に思う。
無い物ねだりしてもしょうがない。
いまは、殲滅するしかない。
「火弾!」
手のひらほどの火の玉が眼の前に数百現れ、回転し始める。
フュウィーン!
火の玉は圧縮されて色が赤色から白色に、7.62mmNATO弾ほどの大きさになる。
ドドドドドドッ!
数百の火弾を放つ。高温の弾丸は尾を引いてオークたちを貫く。
オークの全身を鎧もろとも打ち抜いていく。
十頭は死の舞を踊り、体がちぎれ飛んでいった。
悲鳴にまじり、最後尾の一頭の叫び声がとどいた。
『コ゚、コ゚ォルボォーン!』
やっぱりか。
不鮮明だが、確かに俺の名を叫んだ。
火弾は、俺の代名詞でもあるんだ。ミニガンを参考にした魔法で、誰にも真似できない。
術者の俺の名「コルボーン」は、畏怖を持って広まっていると聞いた。
彼らにとっては悪夢の戦いだった「西部大平原会戦」、魔王軍団が壊滅させられた魔法なのだから。
一瞬で皆殺しにされたオークたちをみて周りは声を飲んだ。
「これが魔法だ!」
自警団や近所への挨拶回りをして、出発当日の朝。
夜明け頃にサエさんとモナミさんが来てくれた。途中で食べるようにとお弁当を作ってきてくれた。
南関あげの巻き寿司に高菜漬け、「干したけのこ」の煮物、これを「山するめ」という人もいる。
「シャク」の天ぷら。これはちょっと苦手だ。「穴ジャコ」を殻のまま天ぷらにする。美味しい。美味しいんだが殻や足が歯に当たる。
熊本に来た頃に一度ごちそうになり、美味しいものですね、と世辞混じりに感想を話した。それが悪かった。
「野田しゃんところん婿はシャクが好き」
と、喧伝されてアチコチからお裾分けが届いて食べきれなかった。苦手の原因なんだよね。
「お弁当、ありがとうございます」
「なんでんなか。体に気ばつけなっせ。ほんなこつ気ばつけてくれんね。荒井市で無茶ばしたっちゃ金丸しゃんが言いよったし」
「そうですよ。気をつけてください」
「用が済んだらなるべく早く帰ってきますよ。横浜行って仙台に行くのは、前なら二、三日もあれば済んだんですけどねぇ」
名目はユミさんと俺の実家、家族の安否確認の旅だ。
近所からは「近いだろうから」ついでに寄ってほしい親戚などの住所を、たくさん預かってしまったけどね。
でも北海道ってのには困った。
横浜から近くねーよッ! 仙台からもッ!
身近じゃない県の所在地は見当つかないだろうな。
エンジンは機嫌よくかかった。サエさんとモナミさんに手を振って出発する。
順次、首を洗って待ってろよ。
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