掃除したら?
足取り重くBAR桜舞にもどる。
「……すまなかったな」
「ケント、大丈夫か?」
「だいじょばない。近藤、強いのをくれ」
ウィスキーを二杯あおり大きく息を吐いて、やっと人心地がつく。
「奥のみんなは食べてるかい?」
「はい」
「頼みがある。誰かに警察に電話させてくれ。江島と関係ないヤツ、繋がらないヤツがいいな。『ラウンジ蘭から銃声と悲鳴が聞こえる。大変なことになってるようだ』と」
近藤は急に無表情になったが、頷いてカウンターを離れた。
解放した客は、関わり合いを恐れて通報しないだろう。
女性スタッフに新たに注いでもらったグラスを手に、奥の部屋に向かう。
「みなさん、悪かったな。用事は終わらせた」
「何品かは出させたが、これからが本番。しっかり食ってくれ。で、相手はどんな女性だ? 一緒に連れてきても良かったんだぞ」
「用事は女性じゃない……みんなにも関係するが、江島、お前には特に関わり合いのある用事だった」
「なんだ?」
「近藤に通報を頼んだが、賞金稼ぎの仕事をしてきた」
「……」
「俺はお前の、親の仇になった」
一瞬、江島の目は鋭いものになったが、その目は強く閉じられた。ついで宙を見上げ、大きくため息をついた。
「……予想してなかったといえば嘘になる……」
「少将、どこまで話したんだ?」
「ケントの身分と任官、軍が必要になるという考えまでだ。陸将補な」
「そうか。……今、佐藤組を壊滅させてきた。若頭補佐に怪我をさせたが止血は済んでいる。他の組員はこのあと荒井警察署に突き出すが、彼は途中で逃がす」
「……ケント……無駄だ。会長たちはすぐに釈放され、おまえには報奨金は支払われない」
「まあそうか、知ってて当然か。荒井警察署、署長の中島某だろう?」
「そうだ。もみ消される」
「ああ、そりゃ無理だな。手配書をよく読んだか? 『DEAD or ALIVE』だろう? 佐藤孝之介以下幹部は射殺した。もみ消すことは無意味だ」
「え?」
「死体の提出だけだな。それと中島某はラウンジ蘭で裸で寝ている。犠牲者の血を浴びてな。クスリも決まりすぎてる」
「それじゃあ……」
「隠そうとはするだろうな。少将、県警にコネは?」
「自警団で繋がりがある。それと陸将補な」
「荒井警察署の騒動を公式にチクってほしい。あ、自衛隊特務少尉情報官からの報告があったにしたほうがいいか」
「……三尉な……具体的には?」
「警察署長が薬物使用のうえ複数人の未成年略取、暴行と殺人行為、その他もろもろ。荒井警察署署員全員の調査が必要。隠し玉は熊本県警内の犯罪行為。『防衛省から直接に警察庁、国家公安委員会、内閣府への報告が必要でしょうか?』かな」
「……証拠は?」
「後で動画を渡すよ」
「……ケント。けじめをつけなきゃならない……」
「おいおい、江島。わかるけどそれほどの義理があるのか?」
「……渡世の義理がな」
「ふむふむ。そういう世界だったな。少将、軍が必要になるワケは話した? その行き着く先も?」
「……はぁ、もう少将でいい。ああ、行き着く先もだ」
「芦田陸将補、『少将』呼びには理由があるんだよ。湧き穴は世界中にできていると考えていいだろう。日本を立て直せたら、よその国にも助けを出さなくてはならない。特異な名称の『自衛隊』ではなく『日本軍』になる必要がある。ハズラック王国は周辺国、大陸中、他大陸、すべての国と連携を取るのに苦労した」
「日本軍か」
「英訳をみて嗤われている」
「確かに。『街の自警団』って意味に取られる」
「軍であることは確かなんだ。世界にわかってもらおうとする時に、言葉の説明に時間を取られるなんてバカな政治家だけでたくさんだ。で、訳しやすい旧軍の方が良い」
「……」
「というわけで江島、ヤクザのうんぬんかんぬんに構ってはいられない。順次に報いを受けさせ、湧き穴、魔物対策をしなくちゃならない。それになぁ、おまえは若頭。次の組長だろ? 残された組をまとめる必要があるじゃない?」
「……」
「もう面倒なヤツは始末した。惚れた先代の神津組を再興したいんだろう?」
「しかし」
「佐藤孝之介のバックも対策しなくちゃならないだろうしな。サリー、TSMEも喰われてるから。総経理と英豪会も切り離してもらえ」
「なぜそれを」
「順次の兄なんだろ、錦戸組は。福岡北部の英豪会錦戸組に鹿児島、佐賀、長崎はもちろんのこと、日本政府にも熊本のTSMEは狙われてる。……まあ、俺もだがな。熊本県全域を掃除して、オモテもウラもまとめる必要があるんだ」
「……」
「ちょっとのどが渇いたな。すまん食事を止めてしまったな。冷たい白ワインあるかな?」
「……持ってこさせよう」
「サリー、開発状況はどう?」
出てきたポルケッタに舌鼓を打ちながら問いかける。
「むぐむぐ、魔法金属の組成分析は進んでいるが疑問が多いんだ。……未知の元素があるわけじゃないのに特性が全く違っている。再現が出来ない」
「魔素かな?」
「それもな。正体がつかめん。色々やっても『魔力ってなんだ?』に行き着いてしまってる」
「難問かぁ。金属の加工はできないってことか」
「いやそうでもないんだ。原理がわからないだけで加工は可能だ。だが金属自体は説明できない」
「武器は作れない? 俺が試作した単発式の魔法銃は分解したんでしょ?」
「した。あれを作ったのが六才だなんて、よくもまあ……魔法銃の機関部、魔法発動機構の再現はなんとかなりそうだ。魔法が使えればだがな」
「うーん、望みがまったくないわけじゃないか」
「芦田陸将補にお願いして、TSMEから一番近い湧き穴に研究室を建築中です」
「サリーとヴァレンは火ができるようにはなりましたが、一瞬です。私はまだ出来ません」
ヂャンが悲しそうな顔になる。
「魔力を増やすのが先か。続けてもらうしかないな」
「研究は一生アル! 楽しくてしょうがないアル! あ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
ヴァレンがサリーにジト目をむける。まったくなぁ。
「少将、人材はどう?」
「終わらない、ってのが正直なとこだな」
「ええ、自衛官募集よりもよほど面倒です。こちらの考えに賛同させないといけませんから」
「だろうな。しかし、少しでも前に進むしかない。戦国大名として旗揚げせにゃならんからな」
「そこがなぁ、今は華族の廃止を恨むぜ」
「どこかにお殿様はいませんか?」
「現皇を崇める元華族たちのコミュニティーはあるはずだが、支配者や行政官、軍人の教育を受けてないだろうな」
今、一番必要で重要な資源は、『人』だ。
参考にすべきは、戦国時代の大名。家臣団をいかに組織するかだ。
通信網は復活しても、物理的な移動に時間と手間がかかりすぎる。今の日本政府に広い地域を治めることは出来ない。
日本各地に大名を作るか、自治体の長を大名にするか。
選挙に強くても、所詮は小役人だしなぁ。
錦の御旗はなぁ、どうなんだろ。東征した先祖のように軍を率いてくれるのか? 二千年以上前だし、現皇には期待できないか。
第六天魔王織田信長か人たらしの木下藤吉郎、吉田松陰か坂本龍馬、じゃなきゃ岩崎弥太郎がどこかにいてくれるといいんだが。
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