どれどれ
ラウンジ蘭の入口。
客引きをする佐藤組三下黒服が、店に向かって歩いている俺に気がついた。
「あれみろばい。高そうなスーツ着とるやつが来る。逃がしなすなや」
「おお、よか男やなあ。女たちが喜んで引きずり込んでくるるごたる」
「逃げられなすなや」
全部聞こえてるんですけど。ま、普通はこの距離なら聞こえないと思うのか。
「にいさん、よか娘いるばい。ちょっと飲んでいかんね」
「極楽ばい、極楽。最高ん女に最高ん酒。最高にきしょくようて、ぶっ飛ぶばい」
何でぶっ飛ぶんだろうね。
「うーん、ほんとにいい娘いるの?」
「おらす、おらす。きっと気に入る」
「いい娘がいなかったら帰るぞ」
「ちょっと覗くだけでんよかけん」
重そうな両開き扉を開いて店に入れてくれる。
照明の落とされた暗い店内に入ると、充満ってほどじゃないがタバコで煙っている。
この甘ったるい独特な香りはマリファナだな。
大麻は古代から繊維素材と食用として日本で広く栽培されていた。吸引麻薬として使ってなかったのに、違法にしたのはヒステリックなGHQ。食用、衣料品用だったんだけどなぁ。
熊本には葉タバコが一面に広がっている畑もある。いつもいつも外からの圧力で物事を変えられてきたのが、日本なんだよね。
店には客が歌っているのか、オンチの演歌が鳴り響いている。
うー、勘弁してほしい。演歌苦手なんだ。おまけにオンチときては。
「ささ、奥へ奥へ。スーちゃん、ご新規しゃんご案内―」
「はぁーい」
「へぇー、キミがスーちゃん? 美人だねぇー。じゃ、ちょっといいもの見せようね」
そう言ってスーちゃんと黒服に笑いかけ、右手の人差し指を掲げる。
「障壁! 振動結界!」
指先から大量の光の粒子が天井に吹き出し、渦を巻いて壁の中へと消えていった。
これで建物全体が障壁に囲われて、誰も逃げ出せないようになる。あっちの裏組織のように地下に抜け道があっても、地中まで囲っているからだいじょーぶ。
「きれかー! 手品? 上手ねぇ」
「きれいだろう?」
スーちゃん、美人ってお世辞いったが、まあまあ普通かな。手配書持ちだな。
店内をみまわすと、彼女を含めて女性たちは際どい衣装。
紗を上に羽織っているけど、セクシーランジェリー姿だ。なにも着てない女性もチラホラいる。そういう店だからねェ。
席に案内しようとするのを無視して、ニコニコ笑いながらズカズカと一番奥の席に向かう。
「やあ佐藤孝之介、お初」
「なんや、きさんは」
隣の席に座る男たちが立ちあがる。
「麻痺!」
「あびぶっ!」
「あばばばばっ!」
「ぎゃん!」
佐藤孝之介と同席している者たちは痙攣する。
「すこーし強めにしたから、しばらく動けないよ。あ、きみらもね」
隣の若い衆たちにもかける。仲間はずれは可哀想だしね。
「グウッ、グゥー! はぁ、はぁ、ペ、ペースメー……がぁ……」
「え?」
若い衆といっても中年の組員が、鎖骨あたりと胸を押さえて苦しみだした。
「ひょっとして……心臓が悪くてペースメーカー入れてる?」
中年組員はふらりと失神した。
「こりゃ悪い事したな。って手配書持ちだからいいか。……そうかぁ、あっちじゃ気にしなかったけど、こっちじゃ麻痺が禁忌の人もいるか」
麻痺の使い方を考えないとなぁ。しかしこのご時世じゃ電池交換大変だろうな。
孝之介たちを後ろ手にして結束バンドで拘束する。
黒服たちが大声を出しながら、入口や階上に散っていく。何人か抜き身のドスを持って近づいてくるのもいる。
そうそう結束バンド品薄だったけど、買い占めてしまった。ゴメンね。
バックヤードにも麻痺を放つ。空電ノイズとともに唐突に音楽がとまる。
陶酔しているオンチさんは、伴奏がなくなってもまだ歌っている。いい加減腹が立ってきた。あ、こいつも組員じゃん。結束バンド行きだ。
近づいてくる組員たち。抜き身のドスを突きつけてくる。
「おんどりゃー! 何さらしてけつかんねん!」
お、こいつは九州じゃないのか。
「きさん親分になんばしとるったい!」
こっちは熊本か。しっかし、こっちの裏組織は随分とヌルいな。あっちならもう刺してるぞ。問答無用で。
亜空間収納から魔法銃を取りだす。
バンッ! バンッ!
ドスを持つ腕と太ももを撃ち抜く。魔力を調整し発射音が大きくなるようにしている。
バンッ! バンッ!
「あぎゃー!」
「あつっー! いてー! ヒー!」
「撃たれたー!」
「そぎゃん、チャカは撃てんはずや!」
組員が一歩後ろに下がって叫ぶ。
パンッ! パンッ!
そいつにも転がってもらう。
血にかまわず、全員結束バンドで拘束する。
銃声を聞いた客と女性たちが、一斉に出口に向かったが外にでられずに騒いでいる。
転んで大股開きの女性、オッパイも丸出しだが色気がないな。組員が撃たれたのを見てパニックになり泣き出したおじさんも。
「宴会は始まったばかりだ。ゆっくり歓談しようか。順次の居場所を教えてもらう。『新宿のオジキ』ってのはどこにいる?」
お読みいただき、ありがとうございます。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。




