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英雄の帰還 ほどほどでいくけど、復讐はキッチリやらせてもらいます。  作者: ヘアズイヤー
帰還ノ章

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魔法素材の使い道


「サリー、ゲームをするために英語を学習したと聞いているが?」

「ええ、そうです。子供の頃ですね、殿下」

「殿下はいらないよ。自分でゲームのプロデュースもしているね。SFゲームに剣と魔法のファンタジーだったかな。どう思う? 湧き穴から出てくるゴブリンとオーガ、もうオークも見たんだろう?」

「はい、物語に登場するものとまるで同じに見えます。実在するんだとワクワクしました」

「そういう知識はあるな。サリーがこっち側の人間で良かったよ、話が早い。湧き穴の正体は異世界との通路じゃないかというのが俺の予想だ」

「い、異世界との通路……信じられない……」

「いま見た通り魔法も実在する。灯り(ライト)


 掌に光を出す。一度消して、ウラ、オモテと手に何も仕掛けがないことを見せて再び出してゆっくりと浮き上がらせる。


「サリー、新半導体の素材にゴブリンの粉末を使うなんて、どこから考えついたんだ?」

「え? あ、ああ、それか。発端はゴブリンを初めて見たときだ。なんとも言えない不思議な感じがしたんだ。生命力とでもいうのかな、力の波動みたいなものを感じた……」


 サリーは遠い目をして視線を宙に泳がせた。芦田陸将補、諏訪三佐とうなずきあう。


「その時思い出したんだ。ゲームのシナリオと設定。魔道具を造るのに魔物を使うってのをね……」

「ほう。続けて」

「コウモリの目玉とか、リュウのウロコとか、魔物の体内にある希少な宝石とか……。半導体の製造ラインは止まってしまっていた。導体としても絶縁体としても規則性がなくなり製品にならなくなった。なんとかしようと悩んで試行錯誤し、実験した」

「……つまり錬金術か」

「あ! そうそれ! それだ! そっかこれは錬金術だったのか! ……でも上や周りは理解してくれなくてねぇ。本国と連絡が取れないことのほうが重要だったんだ、彼らにはね」

「サリーの家族は台湾にいないのかい?」

「血のつながったホモサピエンスはいるよ。それと恋人もね。今は彼となんとか連絡が取れてる。あ、そういうことね。そう、僕には半導体を正常にするほうが重要だったんだ。実験は楽しかったし、本国のことなんか頭になかったよ」

「で錬金術を?」

「うん、新しい半導体は作れた! でもまだ完璧じゃないってのが上にはわからないんだ! まだまだやらなきゃいけないのに!」


 興奮するサリーに三人で肩をすくめた。高橋准尉は物欲しそうに空になったゴブレットを見つめている。


「高橋准尉、まだあるから欲しいだけどうぞ」

「すみません」

「さて、サリー。あなたの興味を引きそうなものがまだあるんだ」


 大剣と鎧をしまい、新たに見せたいものを取りだした。

 ゴトリ。

 重い音を立てて置かれたそれ。持ち手のついた、大ぶりで黒いつや消しの金属の塊。


「これは魔法銃と呼んでいるものだよ」

「モーゼル? ちょっと違うか?」

「ああ、M1932のシンプルさを参考にして俺が作った。本体も銃弾も魔法金属だな」

「銃ですか。でも銃なんて役に立たんでしょう? ガンパウダーは発火が不安定すぎる」

「こいつは火薬を使っていない。爆弾(ファイヤー・ボム)の魔法で銃弾を打ち出す」


 モーゼルC96は上から薬莢を押し込むが、M1932は弾倉で下から給弾する。

 こちらは機関部に魔法発動機構を設置し、丸いグリップ内に魔石を備えていて魔力を供給する。薬莢はなく弾丸だけが入った弾倉を使い、引き金の前にマガジンハウジングをおいている。


「ここで試射してみよう」

「室内で?」


 サリーの驚きを背に、俺は壁際に向かい麻袋に入った土のうを取り出して並べる。


「音は漏れないし、障壁(シールド)も張るから傷はつけないよ」


 土のうに兵士用の革鎧と騎士用のプレートアーマーを立てかける。

 狙いを定めて引き金を引く。


 パッ! パッ! パッ!


 軽い発射音。

 革鎧もプレートアーマーにも穴があいた。


「音は大きくないだろう? 反動もそう大きくない。威力を上げるにつれ発射音と反動は大きくなる。この銃でゴブリン、オーガ、オークも殺せる。実戦で確認済みだ」

「……魔法銃……魔法金属? どんなものなんだ?」

「こっちにはない金属だな。魔素を含んでいる。俺はアダマンタイト鋼って呼んでた」

「アダマンタイト鋼? 魔素だって?」

「ネジが量産できないからな。配備できなかった。俺個人のサイドアームだな。魔力が少なくても使えるようにはしたんだけどね。うちの魔術師でも時々魔力切れになったな」

「魔法で撃ち出す銃! 魔法金属! アダマンタイト鋼!」


 サリーが食い入るように銃を見てくる。


「今日はこの銃を渡せないが、こいつは渡してもいい」


 テーブルの上に数個のインゴットを置く。


「銀色がミスリル鋼、黒いのがアダマンタイト鋼、金色がオリハルコン鋼。勝手に名付けたんだがね。こいつらで武装を作れば、自警団や自衛隊もオークにも負けなくなるかもな」


 サリーはインゴットをスッと撫でる。持ち上げて重さをはかる。

 ついで体中をパタパタとたたき、あちこちのポケットから雑多なものを取りだした。

 歯型のついたサンドイッチは見なかったことにしよう。

 スイスアーミーナイフを取りだすと、素早くナイフを引きだし、ことわりもなくインゴットに刃を当てる。

 三つのインゴットすべてを押し引きして、刃を確認する。


「ナイフのほうが削れた?」

「魔法金属のほうが硬いぞ。融点もとんでもなく高くて、魔力を流しながらじゃないと加工に苦労する」

「魔力を流す? 魔力って……そうか、そうなのか! 分析装置! いや電子顕微鏡!」


 ブツブツつぶやきながら、インゴットを抱えて部屋を飛び出そうとする。

 サリーを落ち着かせるのに三人で苦労した。



「サリー、それは研究用に進呈しよう。まだ一個師団分の武装が作れるほど溜め込んでるんだ。希少な鉱物でね、俺の持っている量で向こうでは一国が買えるくらいの価値がある」

「いったいいくらになるんだ?」

「芦田陸将補、こっちでは無価値だよ。もちろんサリーが価値を見出してくれるだろうが、それまではね」

「わ、私が?」

「新半導体も作れるなら、魔法銃もアサルトライフルも作れないか? この大混乱後の世界でも使える兵器をね」

「……兵器……く、世界がまた変わる。行き着く先はまた戦争か?」

「家畜にされるよりは良いだろう?」

「か、家畜? 魔物にとっては人間は家畜か。私は社畜なんだがね」

「……話そう。この三人には教えてある」


 ハズラック王国、魔帝、ここまで俺が経験してきたこと。

 これからどうすべきと考えているかをサリーにも伝え、語りあった。



「サリーはもっと自由に開発すべきだな。芦田陸将補と諏訪三佐からも上申してくれ。彼の出世の助けになると。TSMEの総経理には、金の匂いを嗅がせてやろう」

「総経理を知ってるのか?」

「ふふふ、俺は目と耳が良いんだ。まあ高橋准尉にはかなわないけど」


 ここで高橋准尉にはクギを刺しておこう。どうやらただの「監察官」ってだけじゃないようだ。DIH(※)とか?


 俺は魔法ではない、ある能力を持っている。赤ん坊の頃から暗殺をかい(くぐ)ることで養われたものだ。

 敵か、味方か。

 見分けられなければ、死が待っている。

 これがなければ子爵の叙爵も、伯爵位の継承、侯爵の叙爵もなかったろう。戦場で散る羽目になるのを幾度も回避できた。

 人物からその人の本質をイメージとして感じとれる。

 「鑑定」の魔法ほど明確ではない。別ウィンドウが開くというようなハッキリしたものじゃないんだよね。


「……」

「国家には必要な機関だからね、高橋准尉。後で少しお話しましょ。はぁー俺のエージェントたちは無事かなぁ。……ともあれ、サリーがTSME内外で自由に動けるよう総経理に圧力をかける。TSMEだけじゃない。俺たちの役に立たない既存の組織や人間には、消えてもらいたい」

「ケント! それは!」

「必要なことだ。多くの命を守り、自分も死にたくないのなら、行き着くとこまで行く覚悟がいる。俺が王配に辿(たど)り着いたように」




※ DIH:Defense Intelligence Headquarters 防衛庁情報本部


お読みいただき、ありがとうございます。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

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