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英雄の帰還 ほどほどでいくけど、復讐はキッチリやらせてもらいます。  作者: ヘアズイヤー
帰還ノ章

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21/60

訪ねてきた客は

階級の間違いをご指摘いただきました。

修正しました。

ありがとうございます。


 数日後、芦田陸将補からTSME開発責任者とアポイントが取れたと連絡があった。頼んでいたものも出来上がったようだ。


 早朝家に走り込んできたのは、トヨハタ製の高機動車。陸上自衛隊のゴツい兵員輸送車両だ。

 助手席からは芦田陸将補、後部から諏訪三佐が降りてきた。ふたりとも常装だ。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはようさん。常装はいいね。ん? えっ? 諏訪三佐も空挺にレンジャーなのかぁ」

「ははは。今日は公務での訪問だからな」

「しかしジャパニーズハマーとは。この前は軽トラだったけど。……本来少将は営業車3号じゃないの?」

「営業じゃなく業務車な。こいつは威圧がありすぎるからあの時は軽トラをレンタルした。バイオディーゼルと新半導体への改修が戦闘車両優先でな。セダンやステーションワゴンは後回しになっている。燃費は良くないが業務車にしている。もっとも御大は不満たらたらだがね」

「みえるようだ」

「ククク。注文の品は出来てる。途中で受け取れる」


 特急で頼んだのはテーラーメイドのスーツ。陸上自衛隊の将官制服を作っている服屋を紹介してもらったんだ。

 中央とのやり取りに困難を伴うこのご時世、熊本市内のテーラーに発注しているという。日本国内での統一製作は無理だそうだ。



 熊本市北東に位置するTSME。

 高いコンクリートの塀が長く続いている。以前はもっとオープンな工場だったけどな。監視所までつくられている。

 正面ゲートで警備しているのは迷彩服3型の自衛官だ。黒戦闘服とフォーマンセル。銃器はないがサーベルを帯剣している。


 黒戦闘服は若い黒人と白人。

 米軍は大混乱で帰国の道を探した。いまは沖縄との行き来さえ難しい。無事グアムに辿(たど)り着けたものはおらず、本国と切り離されたままになった。

 日本政府も面倒を見きれない。自衛隊に吸収もままならない。佐世保の海兵隊がPMC(※)を組織し糊口をしのぐのを見て見ぬふりをしている。というよりも公然と資金援助をしている。

 そこのコントラクターだろうな。


「身分証を」

「これだ。4名分」

「芦田陸将補、諏訪三佐、高橋准尉。そちらの浅野ケントは民間人ですね」

「ああ、今日の訪問予定者にあるはずだ。私の技術顧問だ」

「はい。あります。ありがとうございました。先導車についていってください」


 身分証の確認中に、後部ドアが開かれ車内をチェックされた。車の下もミラーで確認している。

 厳重だな。ま、新半導体を発明した会社だ。国で厳重にガードしていても当然だろう。


 監視所にOKの合図をして門扉が開いていく。高機動車が進みだしたところで、追加の式神くんたちを潜入させる。同乗者も気がついていない。

 式神くんは和紙が材料だから強度に問題がある。ハードな使い方をすればさらに寿命が短くなる。今後のためにも増員しておいた方が良い。


「技術顧問?」

「まあ入るための方便ですね。公式にはしづらいもので」

「もっともか」

「そのとおりですよ、デンカ」


 芦田陸将補がいたずらっぽくニヤリとした。


 正面入口以外には窓のまったくない白い建物まで案内された。

 迷彩服自衛官と黒戦闘服のガードが待ち構えていて、殺風景な応接室まで案内してくれた。


 芦田陸将補に勧められ、三人掛けソファの真ん中に俺は座る。陸将補、諏訪三佐、准尉が俺の後ろに立った。

 飲み物が供されたところでドアが開き、一人の男が自衛官と二人の黒戦闘服ガードを従えて入ってきた。

 背中までの長髪、派手なヨレヨレTシャツに年季の入ったベージュのカーゴパンツ。

 メガネを掛けた小太りの中年男。目の下に隈を作り背が丸まっている。ボンヤリとこちらを見ている。


「こんにちは、サリー」

「……あ、コウタロー……そうか、今日だったか」

「ええ、今日です。諏訪三佐から聞いていると思いますが、今日の会合はいわばキックオフミーティングです。軍事機密および外交問題が関わってきます。護衛の方を退出させていただけますか?」

「え? あ、ああ……退出だそうだ」

「陸曹、部屋の前で歩哨に立て」

「了」


 諏訪三佐が、護衛をしている自衛官に命じる。敬礼をして退出した。

 サリーと呼ばれた男はわけがわからずに立ち尽くしたままだ。


「君らも出たまえ」


 そう命じる諏訪三佐。サーベルの柄を握ったガードは視線を合わせて答えた。 


「それはできない。董事(とうじ)一人にするなと命令されている」

「君は元海兵隊だな? 現階級は佐世保のPMC、マリンコープスインターナショナルの曹長か。これは高度な政治的要素が絡んでいる。君たちの上官にはいずれは参加を依頼するが、今はその時ではない。下がりたまえ、曹長」

「しかし」

「我々は君たちのスポンサーでもある。そこの少将と少佐なのは理解できるな」

「イエスマム」

「部屋の外で歩哨に立ちたまえ」

「アイアイマム」


 警護がでていく様子にぽかんとしたサリーは、立ったままの自衛官と座っている俺を不思議そうに見ている 


「よろしいですよ、殿下」


 芦田陸将補に言われ、サリーに見えるように右手人差し指を立てて唱える。


振動結界バイブレーション・バリア


 指先から細かな光の粒子が螺旋状に広がっていき、部屋全体がほのかに輝く。

 もちろんちょっと演出を加えた、わけではない。光の粒子はカメラの録画を阻害するんだ。


「サリー、殿下がこの部屋に結界を張ってくださった。もう盗聴も録画もされない」

「け、結界?」

「ああ。コルボーン侯爵殿下、こちらがTSME董事(とうじ)のサリー・ホァン氏です。サリー董事(とうじ)、こちらはハズラック王国、王配であるエリオット・キャメロン・コルボーン侯爵殿下です」

「王配? ……侯爵?」


 サリー・ホァンのボンヤリした目が、だんだんはっきりとしたものになる。


「……王配? Prince Consort? 侯爵? Marquess? はい?」


 サリー・ホァンから視線を外さずに、座ったままで微笑む。


「ミスター・サリー・ホァン。新半導体の開発には感服している。発明者にあえて嬉しくおもう」

「……侯爵、殿下」


 サリーの視線が芦田陸将補と俺の間を忙しく行き来する。


(かしこ)まるのはここまでにしよう。私のことは日本名であるケントと呼ぶことを許すよ。私もサリーと呼んでもいいかな? ここは拝謁の席ではないな、芦田陸将補?」

「はい、殿下。ですが、本日の話題は外交に関することも含まれるでしょう」

「外交……失礼ですが、侯爵、殿下。ハズラック王国とは東欧にあるのでしょうか? 寡聞にして聞き覚えのない国名です」


 サリー・ホァンが尋ねてくる。そりゃまあ聞いたことないよね。


「その前に、まず見てもらいたいものがあるんだ」


 空中、なにもない空中から鞘に納められた大剣を取り出して、テーブルの上にのせる。


「え?」

「こんなものもある」


 宝石がちりばめられた大剣の横、テーブル一杯に、金線で飾られた銀色に輝く華美な鎧を出して並べる。


「……いったい……どこから」

「まあ初めてみれば不思議だよな。自分たちも数日前に見せられた時は驚いた」

「何にもないところから取り出すように見えるからね。亜空間収納(アイテムボックス)っていう魔法だよ。この剣と鎧にある紋章がわが侯爵家の紋章。本当は王冠も付け加えられるはずだったんだけどね。まあ、これでも飲んで落ち着こうか」


 同じ紋章入りのゴブレットを人数分取りだす。小ぶりの樽も空中から取り出して、中身を注ぐ。

 芳醇な果物の香りが応接室に漂う。

 目が泳いでいるサリーも手にとり、おずおずと匂いを嗅ぐ。


「良い香りだろう? まだ若くてアルコールはそう強くない」

「あ、はい」

「健康に。そして類まれな出会いに乾杯」

「乾杯」

「これは美味だ。だが、葡萄じゃない? ライチ? いや違うな」

「葡萄じゃないよ。ライチに似てるけど、パイナップルほど大きな果実なんだ。俺はライチワインと呼ばせている。ハズラック王国コルボーン領の特産品だな」

「……いったい」

「わが領地もハズラック王国も、()()地球上には存在しない。湧き穴の向う側にある」




※ PMC:Private Military Company 民間軍事会社。


お読みいただき、ありがとうございます。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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