必要なもの、不要なもの
魔石。
魔力を使って粘土のように癒合させたり整形したりができる。ただし、使用する魔力は膨大になるから、魔術師部隊の誰にも出来なかった。
融合魔石に魔法文字を刻んでいく。ルーン文字に似た、力を持つ魔法語だ。その文字はシステムプログラムのように組み合わせることができる。制御系システムのようにつかえるのだ。
式神くんからの映像、音声を記録させるHDDを増産する。そう呼んでいるだけでPCのSSDやHDDとはなんの関係もないがね。
内容を情報解析の魔法をかけた魔石装置にかける。転生し魔法が使えるようになってから試行錯誤して作り続け、ディープラーニングさせてきた魔石装置だ。転移してからもネットに接続させたりして学習させている。
なにせ生身の脳では容量も速度も足りないからね。
ネットの情報では、今の日本は政治も経済も軍事もガタガタになっている。重要財源、国税管理に注力しているようだ。
国政選挙や自治体選挙も行われているようだが、操作し放題らしい。新人の当選などはごく稀のようだ。
本当かどうかは確かめようがない。
労働せずに椅子取りゲームで食ってるヤツラがいるんだろう。自然なことで否定する気はないがね。
芦田陸将補と初めてあったときに熊本市内の自衛隊御用達店を紹介してもらっている。
すぐに出かけていき、ついでに様々な場所に式神くんをばらまいてある。千近くの式神くん、操作をするにはこのくらいが限界だな。
江島に夕飯をごちそうになった次の日、早朝訓練中に、芦田陸将補と諏訪三佐が訪れた。以前と同じく私服に軽トラだ。芦田陸将補は荷台に乗っていた。
「モーニン、ケント。こっちは高橋准尉だ。こちらが浅野ケントさん」
「おはようございます、高橋です」
「おはよう、浅野ケントです。モーニン?」
「いやなんとなくな。純和風じゃなく見えるんでなぁ」
「……和風じゃなく異風なんだが」
「ハハハ」
「まあ、あがってくれ。お茶入れる」
コーヒーはないがお茶はある。玉緑茶という九州北部で生産されるお茶の葉が手に入る。勾玉のような形が特徴的。香ばしい香りが好きだ。
「見てくれ。魔法訓練を行うことを前提にした、湧き穴対策の素案だ」
諏訪三佐が取り出したノートPCをのぞき込む。
「こりゃまた硬い文章だな。まるで防衛庁の訓令だ」
「そうでしょうか? 素案ですから平たくしたのですが」
「まあ、わからんでもないな」
「……」
人は習慣の生き物だからね。お役所によって文言に特徴があるっちゃある。
しかし、うーん。本当にどうする……?
素案の内容は……。
魔法教導隊(仮称)の創設、目標、概要、規模、人選、教練内容、民間への協力依頼。
まあ、前の話し合いを基に考えたらこうなっちゃったか。
最後まで目を通し、三人を順に見つめる。
芦田陸将補を見つめた後で、大きくため息をついて問いただす。
「これお金はどーなってんの?」
「湧き穴対応部隊の予算から捻出する」
「……防衛費か。国の税金を地方の湧き穴に使うのは了承されてるの?」
「大枠は防衛省が決めるが、湧き穴特例法で部隊ごとに自由裁量が認められている。少ないんだがな」
「へー」
芦田陸将補と諏訪三佐をみて、高橋准尉を見据えた。
「高橋准尉はうちの部隊でも要となる隊員だ。口は固い」
「ならいいか。この素案、ちょっと規模が小さいな」
「だが、西部方面隊規模の話にするには承認されにくい内容だ。健軍駐屯地での試験運用が最初だとおもう」
「……海自も空自も含まれていないな」
「協力要請は行うことになるが、あちらの事情もあることだ」
「……統合してないか。防衛大は一緒だったよね。まえに航自は人気、海自は空きありって聞いたことあるけど……。交流は?」
「ここ何年も統合演習は中止になっている。連絡は取り合っているが……。防衛大の先、陸海空どこの隊員になるか希望は出せるが選べない。だが幹部には同期会とかはある」
「うーん。三軍の将軍同士は知り合いってこと?」
「三軍って軍隊じゃないし。将軍じゃなく陸将、海将、空将な。知り合いは多い」
「詭弁はまだ続けてるか。訳は一緒なのになぁ。じゃ確認、新半導体を開発したTSMEにツテはあるんだな?」
「あります。基本はあちらの広報を通してですが。ゴブリンの取引には監督官公庁として立ち会っています。開発部とのやり取りもあります」
「じゃ再開した炭鉱は経済産業省?」
「そうなのですが、人手不足で自衛隊でも監督と輸送、技術提供をしています」
「新半導体にも絡みたがっているが、東京からじゃ現場を仕切ることが出来なくてな」
「前は……大混乱以前だが北海道の炭鉱はずっと採掘してたよな。重油は入ってこないがバイオに変わった……」
「ああ、完全に切り替わらんがなんとかエンジンを動かしている。エタノールも使ってるな」
「ふむ」
「それがなにか素案と関係があるのか?」
「あるといえばあるんだ。……TSMEでどこまで出来るか、か」
「ケント、教えてくれ。魔法教導隊では問題なのか?」
「荒井市の湧き穴に研修にいかせてもらったな。新しい魔物の話は聞いてるか?」
「質問に質問でか。確かオークだとか。誰かがそう呼んだと聞いている」
「俺だ。ゴブリン、オーガとは違う魔物。見たことがないと自警団は言っていた。新しい魔物、オークが良い武装をしていた。ひどく臭いがね」
三人は顔を見合わせる。
「あそこにいた優秀な武人……ヤクザなんだが、江島ってのにも話したんだ。危ないってな。もし事態が悪い方に転べば、もっと強い魔物が出てくる。自警団のままではまずいことになる」
「強い魔物か」
「早い話が、湧き穴の向こうと戦争になるってことだ」
「……」
「前にも言ったよな。戦争はもうとっくに始まってるって。あの時は脅し半分だったんだが、冗談じゃすまなくなりそうだ。このまま魔素が溢れ、当たり前になったら……あいつらは自由に動けるようになる」
「……」
「俺がいた異世界では、あいつらは軍の兵士だったんだ。軍隊が侵攻してくる可能性が高い」
「あんなのが兵士ですか?」
「ゴブリンじゃないぞ、オークのほうだ。自警団員程度は蹴散らされる。湧き穴に戻らなくともよくなる可能性が高いしな」
「……兵士。誰が指揮を取ってるんだ?」
「たぶん魔王たちだな。オークの言葉は俺がいた世界のものだった。魔王を束ねる魔帝は俺が仕留めたはずだが。残党の魔王たちがどうなったかは、わからない」
魔物の出現分布はどうなってるかな? 生産計画に関わるから、これもTSMEか。くっ、人が、頭が足りないな。
「俺はこんなふうに考えてる。準備ができてない状況で戦争を仕掛けられたら敗北は必至。負けたら人間の行き着く先は『家畜』だ。抵抗できるだけの組織化を急がなくちゃならない。それには『教導隊』じゃなく『軍隊』だ」
「家畜ですか?」
「喰われる映像があるだろう? あいつらは人を飼って労働力と食料にするんだ。俺たちは豚や牛と変わらない」
「……喰われたくはないな」
「TSMEを紹介してくれ。新半導体を作れたなら、有効な武器も作れるかもしれない」
「わかった。諏訪三佐、サリーにアポを取ってくれ。下の者ではなく彼に直接ケントをあわせる」
「了」
「俺ひとりで軍を立ち上げるのは困難だ。芦田陸将補たち自衛隊に助力を乞えば、自衛隊法に引っかかる可能性が高い。司法は人手不足だがね。俺の持つ情報の補完をしてくれ。大義名分にもアテがある。身分もなにかの役に立つかもしれない」
「それはどのような?」
「うん。実はね……」
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