次はこいつらか
ゴブリンの処理を終えて、江島がまたこっちにやってきた。
「で、順次を捕まえたいのか?」
何事もなかったように会話を再開する。
「もちろんだ」
「だけどな、もう荒井市にはいないぞ」
「知っている。居場所を捜してる」
「……それで組員狩りか。やれやれ」
「俺が狩るのは、若頭として許せないってとこか?」
「いや、そうでもない。クスリとタタキしかしないような気に入らないやつがほとんどだしな。だがひとりだけ、おまえが捕まえたやつの中に使えるのがいたんだ。まあ、うるさい賑やかしの三下なんだが、周りが見えるやつで士気には良かったんだ。まったくメイワクだぜ」
「そうか、そいつは悪かったな」
「悪かったなんてちっとも思ってねえだろうが」
「もちろんだ」
「いい性格してるぜ」
江島はニヤリと笑ったが、そこに悪意は感じられなかった。
ん? この気配。次が湧いてくるのか。
「しかしなぁ、組の連中はよく思ってない。どこの組織のヤツだろうかって」
カン! カン! カン! カン! カン!
さっきより激しく鐘が鳴らされ、見張り役の声が響きわたった。
「来るよ! 数は三、うんにゃ、五! ひっ! お、大きか!」
「隊列を組め! 予備隊も後ろに整列!」
走り寄った江島の指揮で、湧き穴からの出口に槍衾がつくられる。
「数が多い! 矛も足止めに専念しろ! ……なんだあいつら?」
「えっ? あ、あれもゴブリンか?」
「ゴブリンじゃなか!」
「アニキ、見たことなかヤツラばい!」
湧き穴から出てきたのは、五体の魔物。穴を出たところであたりを見回している。
オークか。
鼻梁がないので、鼻ぺちゃとか豚野郎と呼ばれてた。
一見太っていてブヨブヨに見えるのだが、全身が筋肉と脂肪の鎧で出来ているといっていい。
見掛け倒しのムキムキマッチョじゃなく、剣闘士や相撲取りと同じく実戦向きの体だ。そいつが金属のヘルムに革鎧を装備している。
ゴブリン剣には荷が重いかもしれないか。俺もゆっくりと湧き穴に向かう。
出てきたのはオークだけのようだ。ハイオークの姿はない。
出てくる可能性もあるのか?
魔帝シミオンの主力兵士がオーク。
その中に混じり小隊指揮をとっていたのはハイオークだった。魔法で生み出されたと噂されるオークの変種。
向こうでも対ハイオークに軽装備では、リスクが高かった。
人間の兵士はみな重装歩兵として兜、チェインメイル、スクトゥムのような盾、幅広の刃がついたハルバードで戦わせていた。
訓練された歩兵隊や騎士団、魔術師隊なら普通にたおせる。
だが自警団が相手にするには、オークだけでもまずいのか。ゴブリンやオーガより手強いからな。
先頭のオークが大声をあげる。
『デンニルベィガァ! ゴォラボクズン!』
その声で後ろに続くオークたちが矛と剣を構え、ゆっくり進みだした。
魔帝シミオン配下が話す言語か。完全に理解してはいないが、俺には『小さな壁だ! 囲みを超えろ!』と大体の意味がわかる。
江島に声をかける。
「あいつらはオークだ! ゴブリンよりも身軽で頑丈、頭が良い! 壁を越えてくるぞ!」
「なに! 網を上げろ! 包囲しろ! 矛隊、槍隊出口を固めろ! 予備隊は訓練通りに壁に沿って警戒!」
「了解!」
自衛団が指示に従って散開して配備につく。
オークたちは壁を確認しながら出口に近づいた。出口には矛隊、槍隊が待ち構える。
「あっ! そこ! 網を目一杯張るな! 弛ませろ!」
思わずかけた俺の声に、出口で網を引きあげた団員たちが江島を目で探している。
「ピンと張っていたら登られるぞ! 斬りやすくもなる!」
江島が気づいた。
「弛ませろ! だらんとさせていい!」
あわてて網を緩めるが、先頭を歩いていた二体のオークが駆け寄り剣を振りかぶった。
それを見た団員が網を地面まで落としてしまう。これ幸いとばかりにオークが網を超えてきた。
両脇で狼狽える団員に斬りかかる。血が噴きあがる。
周りの団員が助けようとしたが剣を弾き飛ばされ、金属槍はスッパリと穂先を斬られた。
江島が割ってはいる。
オークの剣を矛で防ぎ、二頭を相手にうまく立ち回っている。が、致命傷を与えるまでには至っていない。
他の三頭は江島の戦いを見物し、笑っている。
江島の矛、柄が真ん中で斬られた。
刃はゴブリン剣だろうが柄はこちらの金属か。やはり強度がちがう。
ダブルバストン、ダブルスティックのように使おうとするがバランスがわるい。オークの剣を防ぎきれず、顔と胸を斬られ血にまみれていく。
「手を貸すぞ! 火球!」
駆け寄りながら、拳大の火球をオークの顔に飛ばす。
ボォウンッ! と破裂してノックバックさせた。
「おわっ!」
江島が驚きの声をあげる。
咄嗟に飛び退いたもう一頭のオーク。二頭ともに射線がひらけた。
曲射より直射の方が命中率が高い。
「氷槍!」
二の腕ほどの氷の槍が二頭の太ももに突き刺さった。屈み込むオークを見て江島が背の日本刀を引き抜いた。
しかし切りかかったは良いが、ガキンッ! という大きな音とともに兜に弾き返された。刀は根本から歪んでしまう。
「こいつを使え!」
亜空間収納からバルディッシュを取り出して、江島に投げ渡す。こいつは柄を長くして、雑魚の薙ぎ払い用に使っていたやつだ。扱いづらいかもな。
まだ出てこない三頭は面白そうにこちらを見たままだ。
江島は受け取ったバルディッシュを二三度振って試している。
対峙する二頭のオーガは氷槍を抜こうともがくが、掴んだ槍は抜けない。うん、抜けないように逆棘をつけてるからな。
江島がバルディッシュでオークたちの手足を斬り飛ばしていく。最後は首を落とした。
まだ出てきていない三頭に歩みよる。
「麻痺!」
「ガァアッ!」
かなり強めにしたので三頭とも硬直した。
「氷槍!」
防具のない手足を数本の氷槍が貫く。悲鳴を上げる口の中にも兜の隙間から突きたてた。崩れ落ちたオークたちはしばらく痙攣していたが、やがて静かになった。
やつらの防具は使い道があるだろう。なるべく傷つけないようにした。
湧き穴からの気配が伝わってこないので、後続はないようだ。
血を流したままの江島がそばに寄ってきた。後ろから自警団員たちが追いかけてくる。
「助かった、礼をいう。だが……ありゃなんだ?」
「ん? ありゃ?」
「爆発したやつと突き刺さったやつだ」
「ああ、それ。魔法だ。あれは魔法」
「江島さん、傷の手当を!」
「ああ、そう深くはないから大丈夫だ。……魔法ってガキのマンガか?」
「……そういうのは見ないほうか。まあヤーさんはみないか」
「みるぞ。あんま面白くはないがな。で、ふざけてんのか? 火薬は火がつかんこともある。どうやって爆発させた?」
「江島さん! 血が止まりません! 救護所にお願いします!」
「ん、わかった、わかった。向こうで話そう。みんな! あいつらは強かった! 気を抜くなよ!」
「はい」
江島と俺は自警団員といっしょに、救護のテントが張られたところへと向かった。
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