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アニキ


 朝から玉杵名市の自警団に参加する。

 やはり湧き穴からの魔素があると、魔力回復が速い。

 当番時間内に魔石電池に充填をする。魔石の小山を清潔(クリーン)で洗い、ひとつ取っては満タンまで充填し赤黒く光らせる俺。光が収まり、目をあげる

 あー、興味深そうに見ている美少年。


「あ、あの!」

「うん? なんだい?」

「あ、浅野ケントさんですよね」

「そうだよ。……君は、モナミさんにジローちゃんて呼ばれてたな」

「ぼ、僕は、お、大場ジローです。な、なにをしているんですか?」

「これか? 魔石に魔力を充填している」

「え? ま、魔石に魔力?」

「ああ、昔の小説やアニメによく出てくるんだ。知らないか?」

「知ってます! 父の漫画で読みました!」

「ははは。まあ魔石や魔力はともかく、脳の刺激や手先の運動にもいいしね。健康に良いから君もやってみるかい? この手遊びは手持ち無沙汰にちょうど良いんだ」

「はい!」

「ああ、みんなと槍の訓練をした後でだな」

「はい!」


 ジローは素直な子だ。ひねくれずに生き抜いていって欲しい。

 俺に会釈をしてくる自衛官が、新人たちの訓練をしている。みんなゴブリンを見ても吐かなくなったようだ。




 夕刻、荒井警察署で手配書を確認する。

 だいぶ少なくなった。


「そうそうは新しい手配書なんて出ないか。じゃあ幹部だな」


 式神くんから伝わる情報では、愛人の店にいる幹部たちが狙い目のようだ。バシタって言うんだったか、なんかベタだけどね。


 大混乱で司法がゆるんで、暴力団は元のヤクザ生態を取りもどしつつある。暴対法は活きてるが取り締まる側が人手不足だ。

 湧き穴、自警団には暴力団も参加をしている。佐藤組からも武闘派の若頭自身が率先して参加していた。

 怖気づく構成員も多いみたいだけどな。組事務所で時々誰が行くかでもめている。

 ヤーさんって基本人間相手の暴力でいきている。魔物は「ごぉらぁー!」ってスゴんでも怯えてくれないからね。

 みかじめ料と犯罪は、もちろん無くなっていない。

 クスリ関係は外国製がまったく入ってこない。必然的に日本国内でのケシと大麻の栽培が主流となっているようだ。国産の密造覚醒剤も数を増やしつつあるらしい。

 現実から逃げ出したいと考える人は多いんだろうな。


 ハズラック王国世界では麻薬は大きな問題にならなかった。もちろん毒殺に使うような薬物じゃなく、常習化して依存してしまうやつはだ。

 理由は魔法。

 ほぼすべての人がなんらかの魔法を使って生活している世界。呪文詠唱の魔法って、集中力を阻害されれば簡単に使えなくなるんだよねぇ。

 酒でも麻薬でも、酔っている人間には魔法の行使が危険なものとなる。無理に使って呪文を間違えれば簡単に人死がでる。自分も他人も。

 日本に魔法が広まれば、アルコールや麻薬の依存も減るのかも知れない。

 うーん、芦田陸将補の厨二病、呪文詠唱は広めたほうがいいのかなぁ。だが詠唱中のタイムラグがなぁ。一手遅れるのは致命的なこともあったしな。




 荒井市の湧き穴は炭鉱跡の近く、丘の中腹に開いている。近隣の遊園地やゴルフ場は大混乱で営業していないため、広い敷地を魔物討伐に使っていた。

 穴の大きさは玉杵名市よりも大きい。コンクリート壁や建材、果ては墓石と思われるもので何重にも囲っていた。

 自警団の人数も多く、百人近くが準備している。

 武装は玉杵名市のものより整っている。鉄筋の槍や金属製の網に盾。皆キビキビと集団で訓練している。


 芦田陸将補から連絡してもらい、玉杵名市自警団からの研修名目で、俺も参加している。顔見知りになっている自衛隊教官たちに会釈をして、見学させてもらう。

 ここでも俺のコスプレは浮いていて注目を集めた。ヒソヒソとこちらを見て話をしている者も多い。


 佐藤組の若頭、江島トオルの姿も自警団の中にある。

 俺と同じくらいの身長か。三十代だろう。太い眉に鋭い視線。黒い魚鱗のような胴丸を身につけている。かなり重量が有りそうな長柄の矛を持ち、日本刀を背負っている。


 カン! カン! カン!

 湧き穴を囲む壁の上には見張り台が作られていて、鐘が打ち鳴らされた。


「来るよ! ゴブリンが(いち)!」


 この声、あそこの見張り台にいるのは女性か?


「自分がでる! 手を出すな! 網はまだ使うなよ!」


 江島はジョウゴのように細くなった所を抜けて湧き穴へと歩いていく。矛をしごき、頭の上でブルンブルンと振りまわす。

 ほぉ、片手でか。細身に見えるが膂力(りょりょく)がある。武闘派は結構やるのかな?

 湧き穴から出てきたのは大きめのゴブリン。ホブゴブリンと言ってもいいくらいかな。ロードより小さいか。

 江島は腰を落とし、矛を右後ろに引いてかまえた。ゴブリンは江島に向かって一直線に駆けてくる。

 トンッと地を蹴り、大上段から矛を振りおろす。そのまま地面に這いつくばるほど体を低くした江島の頭上を、勢いのついたゴブリン剣が通りすぎた。

 江島が右に飛ぶとゴブリンは走りすぎ、頭から腰まで真っ二つに分かれた。


「おお!」

「さ、さすがは江島のアニキ!」


 まわりからヤンヤの喝采があふれた。

 へぇー、やるねぇー。俺も拍手をしておく。この世界の人間でも、やれるヤツはいるんだな。鍛えればアッチ並になれるかもな。

 湧き穴を警戒して残心し、ゆっくりと戻ってきた。



 ここ荒井市の湧き穴でも、魔石は無用として捨てられて山になっている。

 自警団に譲ってもらう。清潔(クリーン)で洗って袋に詰め込んだ。

 そこに、江島がやってきた。

 いくつかの魔石に充填していると声をかけられた。


「玉杵名市から見学に来たんだってな」

「ああ」

「……浅野、浅野ケントってんだろ、おまえ」

「そうだ。あんたは江島トオルだろ? なかなかやるな」


 褒めることは大事だ。たとえ敵でもな。

 荒井警察署内に佐藤孝之介となかよしのヒトがいる。

 大量の手配書が処理され、報奨金が支払われているのだ。俺の名前や人相、風体が知られているのは想定ずみ。

 知られていることを知っているのは大事だね。


「ありがとう。……奥さんを殺されたってな」


 魔石の山から体を起こして江島と向きあう。

 こっちに戻って初めてだな、見おろさずに同じ高さで視線を合わせるのは。


「ああ、あんたんとこの半グレにな」

「順次はウチの身内じゃない。あんな外道は好かん」

「いいのか、そんなこと言って。親分の息子じゃないのか?」

「そうだが、(さかずき)を受けてたわけじゃない」

「あんたらって世襲じゃないんだったか?」

「そうだ。順次は確かに会長の坊ちゃんだが、組とはなんの関係もない」

「ふーん。しかし『外道』呼ばわりは人に聞かれちゃまずいんじゃないの?」

「事実だからな。お追従は好きじゃない」


 カン! カン! カン!


「また来た! 数は三!」


「ほう、今日は大漁だな。群れか、あいつらにもやらせないとな」


 そう言って江島は戻っていく。


「おまんまのタネがくるぞ! 槍隊! 矛隊! 自分が後ろで援護してやるからな! しっかり仕留めろよ!」


 江島が激をとばした。

 意外なことに江島トオルの手配書は金額が低い。喧嘩による傷害だけの手配書だ。


「矛隊、前列で足を狙え。槍隊はカバーしろよ! 慌てなくていいからな!」


 玉杵名市の湧き穴では自衛官以外は戦闘指揮官がいなかった。みんなで声を掛け合っていたが、組織的な戦闘ではない。

 ここにも自衛官はいるが、江島が指揮を取るようだ。


「網用意! 三で引き上げるぞ! 一、二、三!」


 金属ワイヤーを何重にも撚って作られた網が地面に埋められていて、合図とともに引き起こされる。

 まっすぐに突っ込んできたゴブリンにいくらかは斬断されるが、三匹の動きを止めた。

 江島は的確な指示をだして、各個撃破していく。

 障害物を投げ入れるタイミング、槍隊の阻害行動、矛隊の攻撃を上手く連携させている。牽制も良く機能し、狙われて負傷した団員の救護もはやい。

 いい動きさせてるなぁ。もうすこし手駒がいれば楽そうだけどな。



 一匹を五分ほど、ゴブリン三匹はさしたる事もなく討伐された。

 江島は団員たちを交替させ、労をねぎらい装備を点検させる。ワイヤーの網は新しいものを設置し、切断されたものは修繕するよう指示していた。

 怪我をした者が適切に治療されているかも見てまわっている。

 次に備える団員にも声をかけている。明るい笑い声を引き出しているが、程よい緊張感も与えていた。

 へぇー、小隊指揮官じゃなく、百人長か中隊長って感じだな。


お読みいただき、ありがとうございます。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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