賞金稼ぎ
その後は魔石への充填吸収訓練。呑みながらだけど。
いざとなればアルコールを毒と認識して、解毒魔法ですぐに醒める。配下の魔術師で、これができる者はいなかった。
休憩をはさんで、今後についてのブレーンストーミング。
「深川陸将って上昇志向が強い人?」
「ああ、このご時世でも常に自分の成績を気にしている。統合幕僚長、いや防衛省を狙っていても不思議じゃない」
それだな。金集めに繋がりそうな、このウラは。
「オタ知識に『別班』ってあったなぁ」
「……アニメに出てくるな。なんでも創作できるからな」
「だよね」
あら、その間は「ある」って言っちゃってない? そのほほえみは何?
諏訪三佐のすまし顔もわざとらしくない?
ま、裏のない組織はないわな。それが暴力装置ともなれば……。
「……この先出来ることは、自分自身の魔法練習と魔法を使える人をさがしておくってとこかな。俺からの魔力譲渡経験なしじゃ、ほいほいと魔法が使えるようにはならない。だが修練すれば、時間は掛かるがたどりつけるだろう」
「効率良く見つける方法が必要ですね」
「見張りで、ゴブリンが来るのがわかるおっさんがいたな。ああいうのは見込みがある」
「自警団には必ず何人かいる。あれが」
「ああ。他にもなんか体が熱くなるとか、熱いものが体をぐるぐる回ってるとかって人は有望だ。魔素に触れる環境、自警団がいいのだろう」
「でも誰でも使えるというのは危険ではありませんか?」
「……ふたりは武器について教育を受けているが、一般人が銃器を持ち歩くようなもんか。……信用のおける人間に限定し、口止め必須だな。詳細は秘匿するのがいいだろう。いずれにしろきちんとした組織化が必要か」
「武器調達も要検討だな」
「TSMEとの連携を探ってみます」
「でだ。俺は東京へ行く」
「……」
「遅くともひと月後には。自警団はできる限り参加するが、当てにしないでくれ」
「ひと月の間は何をするんだ?」
「旅費を稼ぐ」
「ゴブリンを売っても金になるが」
「参加はするが、一石二鳥の方法も取りたい。バウンティハンターをする。街の浄化にもなるしな」
「情報収集も兼ねてか。……そこはやっぱり『賞金稼ぎ』と言ってほしいな」
「英語のほうがカッコよくない?」
「いやいや、そこは若山富◯郎だろう? 昔の時代劇が良い」
「また古い人を持ち出してきたな。それなら萬屋錦◯介も捨てがたい」
「あれは刺客だ」
呆れている諏訪さんを無視して、えんえんと時代劇談義、反省。
酒も入っているし、ふたりにはこのまま泊まってもらう。
「あ、すまん。布団がしまわれたままだった」
寝室の押し入れから客用寝具を引っ張りだして気がついた。
「ちょっとかび臭いか。すこし離れて。清潔。どう? かび臭くない?」
「え、ええ、臭いがとれました」
「湿ってるか。また離れてね。乾燥」
「……ふかふかに。魔法でこんなことが出来るんですね。起動訓練が楽になる……お風呂に入らなくても」
「これも定番か」
「生活魔法ってやつなんだけど、ちょい危険。人間に使う加減がわからないと、水分を奪って殺しちゃうからね。あと慣れないとお肌や髪はカサカサのゴアゴアのパサパサ。潤いまでとっちゃうよ」
「……諸刃の剣なんですね」
翌朝、日の出前。庭で訓練をしていると芦田さんと諏訪さんが起きてきた。
しばらく俺を見ていたが、ふたりでストレッチを始めた。
「走ってきます」
とふたりでランニングにでていった。仲がいいね。
朝食を済ませると、ふたりは帰っていった。健軍駐屯地には戻らず、今後の行動計画について叩き台を練ってみるという。
もし恐れていることが現実だったなら……この世界はさらに変わっていく。生き残るために備えなくてはならない。
ふたりは信用できそうだが、味方にするには「ビジョン」を提示していかなくてはならないか。
日本で「普通」に暮らしていたと思う。
転生でサバイバルをしなくてはならなくなった。
前世の記憶がある貴族家の赤ん坊。
早くから暗殺、毒殺されかけた。伯爵家継承問題だった。
生き残るためにやったことが、信頼に足る配下を身近に置くこと。命令に従う私兵軍を作ること。やられる前にやった。
それが国軍の将になり幾多の戦争に参戦した。伯爵から陞爵して子爵、侯爵となり、王配の地位を手に入れるところまでになった。
王太女ローザ・ライラ・ミランダ・ハズラックを愛したが、魔帝シミオンとの戦いで転移してしまったのが、今。
戻ってきた俺は何をすればいいんだ。
ユミさんはもういない。
魔物が出る世界に変わってしまった日本と地球。
ローザ・ライラのところに戻れないのか。ダラダラとは生きられないのか。
この世界で何を目指して生きればいい?
玉杵名警察署で手配書を確認した。撮影用の式神くんを用意し、魔石を利用したHDDに保存していく。
次は荒井警察署。
ここは初めてきたが、やはり入口近くに手配書の掲示板がある。式神くんに撮影させたが、ほとんどが玉杵名署と重複している。
多くは暴力事件だが、他県の悪質なひき逃げ犯も重要指名手配として掲示されている。佐藤順次の手配書もある。
佐藤孝之介の手配書もあった。殺人、殺人教唆、麻薬五法違反、不動産侵奪、使用者責任も問われているようだ。何でもありだね。
閉山し廃れたヤマが開きなおされた荒井市。炭鉱で働く人が増えている。
シャッター通りだった飲み屋街が息を吹き返し、賑わっている。当然、治安も悪くなる。
この荒井市から始めるのがいいか。手足をもいでいき、じれて穴蔵から出てきた頭を落とそう。
大事そうにショルダーバックを抱え、オドオドと歩く小柄な中年男。まわりの飲み屋から、どら声や嬌声が響くたびにビクリビクリとする。
店が途切れる路地の手前。若い男たちが三人、馬鹿笑いしている。
中年男は避けて通り過ぎるが、若い男たちはそれを見てうなずきあった。
角を曲がって路地に入っていく中年男。その後ろをついていく男たちが、小走りになる。
路地の真ん中あたりで、薄暗い通りに若い声が響いた。
「おいさん、おいさん。ちょっと止まれ!」
「へ? 私ですか?」
「ああ、おまえだ。俺たちなぁ、ちょっと懐がさむうてさ。都合してくらんかなあ。スマホ出せや」
三人がマチェーテを抜きだす。
「よかろ? ちょっと先っぽだけやけん」
「げひゃひゃひゃ、それ受けなすな」
「へへ、ゆうべん女で考えたんや」
マチェーテを突きつけられた中年男は、目を合わせないようにかがみ込む。
「お、あるな。よし三人ともだな」
「なんやって?」
「ああ、こっちのこと。まあそう高くはないか」
中年男は顔をあげ、グッと体を起こした、ように見えたろうな。
「な、なんや!」
「大きゅうなった!」
化身を解除。ホログラムを身にまとう魔法だ。ま、触れられるとなんか変ってバレるんだけどね。
急に巨体になってビビっている。踏み込んで抜剣、三本のマチェーテを斬る。
「麻痺」
痙攣している三人を後ろ手に縛り、首にロープを巻いて数珠つなぎにする。
「さてと、質問に答えてもらおうか。『新宿のオジキ』とは誰のことだ。どこにいる?」
「……」
「喋れるくらいには加減してるんだけどな。のんびりしている暇はないからな。お前らの手配書はDEAD or ALIVEだ。殺してしまっても報奨金はもらえるんだ。もう一度聞く。新宿のオジキとはだれのことだ?」
「し、しらな、い」
「その程度の教育しか受けてないのかな。ああ、半グレは部屋住みにならないのか? 手配書に構成員ってあるやつを狙わないとダメか。うん、取りあえず大掃除すればいいか」
俺の亜空間収納には生物専用の空間がある。そう大容量ではないが人間なら二、三十人は入れられる。
師団丸ごと入れられるなら、あんな苦労はしなかったけどな。まぁ、入れられた人は体調不良になりがちなんだけど。
空気がなくなれば死んでしまうが、あっちでは三十人で一日くらいは大丈夫だった。こっちではどうだろう? まあ死んでもいいけどね。
三人を亜空間収納に突っこみ、再び化身でしょぼい中年男になる。
構成員もいたが、「新宿のオジキは聞いたことがある」程度の三下だった。
結局、この夜は十五人の賞金首をゲットした。
翌朝、荒井警察署に数珠つなぎの十五人を連れていった。
警官は大騒ぎしたが、無事に手配書との突き合わせを終える。報奨金の手続きを済ませることができた。
骨折が何人かいたが、そこまでは知らないよ。
だって平均50万ちょいの、お安い報奨金なんだもの。
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