魔法とは何か
「話がそれた。維新はともかく、湧き穴への対処は必須だ」
「ああ」
「いま必要なのは武器だ。だが、実はそれには魔法が必要になる。芦田さん、魔法とはなんだと考えてる?」
「本質的なことか?」
「そう」
「……魔力を使って物事を引き起こす、だろうか」
「そうだな。じゃあ魔力ってなんだ?」
「魔法の燃料のようなもの……何で出来ているかか?」
「そうだ。魔法はどうやって使う?」
「呪文を詠唱する」
「俺は詠唱しない。無詠唱ってやつだ。呪文、詠唱。人の言葉には魔法に作用する物理的な力はない。全ては魔力なんだ。術者のイメージで魔力を動かし仕事をさせている。科学的ではなく経験での根拠しか無いけどな」
「ふむ。……うっ!」
「まあ、呪文詠唱は関係ないってことだ」
「ぐわぁー!」
芦田陸将補が頭を抱えてテーブルに突っ伏す。おっと、お酒こぼさないでね。
「なんです? どうしたんですか?」
「ふふふ、芦田さんには封印したいものがあるんだよ。間違いじゃないんだけどね。で、魔力を構成するものってなんだって話になる」
「あ、厨二病、そうなんですね? 知ってます」
「諏訪さん、エグらないであげて」
「……マナとか魔素が定番か」
芦田陸将補、復活。
「ああ、俺は魔素と呼んでいる。物質の原子や分子に力を及ぼす、ある種の素粒子じゃないかと予想している。実証出来るほどの頭は、俺にはないな」
「では火は、魔法の火は魔素を燃やしているんだな?」
「魔素が可燃性物質ってわけじゃないだろう。空気中のなにかを燃やすか、事象、現象を再現しているのもしれない。だが『燃焼』というイメージが必須となる」
「よくあるパターンだな」
「ああ、向こうの世界では、誰でもが魔法を使える。だが火というものについての科学的知識はない。酸素という言葉もない。俺には知識があった。再現に物理的なイメージを重ねることもできた」
「威力をあげられたとか」
「そうだ。俺が望む現象をアニメや映画、ゲーム、CGなんかで見ている。イメージができる。……強力な魔術師になれた」
「で、魔素も正しく理解している」
「仮説の域はでないよ。あちらの生き物は全て魔力を持っている。過剰な魔素か魔力に曝された生き物が、体内に魔石ができて魔物になるんじゃないかな。全ての物質が魔素を含んでいるんだろう。ここから別の仮説だ」
諏訪さんが新しいハイボールを作ってくれる。
「こちらの刃物でゴブリンを斬れない理由だ。ゴブリンの細胞や分子に魔素が含まれることで、強化されているのではないか。あるいはそもそも物質の組成自体が違うのではないか、だ」
「異世界とこちらではそこまで違いがあると」
「芦田さん。異世界のモノの強度が違うのなら、ケントも……失礼しました」
「ああ、いいよ。暴力団にマチェーテで斬りつけられたが、俺を毛筋ほども斬れなかった。俺はこちらの人間とは同じではないのだろう。記憶は日本人でも、肉体は転移した異世界人だからな」
芦田陸将補がグッと酒を飲み干した。
「だからゴブリン剣の分析なのですね」
「ああそうだ。もしこちらの武器に魔素を組み込むことができれば、十分戦えるのではないか」
「そうか、ゴブリン由来の半導体だ。不可能ではないな」
「まだある。湧き穴当番の初日に、竹槍でゴブリンを深く刺した。あれは竹槍に魔力をまとわせてみた結果だ。もし魔力を使いこなせれば、こちらの武器でも戦える」
魔力が十分にあればだけどね。
銃器。
弾薬の換わりに、魔力と火魔法で作れないかと試したことがある。圧縮空気や他の魔法も活用し、弾丸を飛ばせるようにはなった。
ネジやライフルを刻む技術が問題だった。精密加工が未発達のハズラック王国世界では量産の目処が立たなかった。命中率も射程も魔法のほうが優れている。
大型にしてもみたが榴弾は造れなかった。徹甲弾というよりカノン砲とかカロネード砲のラウンドショットってとこだった。
今ならあるいは? リスクを検証しておこう。
ハズラック王国でやった魔力を増やす訓練。魔石もある。芦田さんにもやってもらおうか。
諏訪さんは魔法が使えるか? 比較検証にもいいかも知れない。
「異世界で、俺は魔術師たちの訓練を指導していた。やってみるかい?」
「ああ、ぜひ!」
「ちょっと待っててな」
居間から一度納屋にいく。亜空間収納からゴブリン魔石を取りだす。大きめのを二つ。
異世界人とカミングアウトしたが、亜空間収納はまだ伏せておいたほうがいいだろう。軍にとっては最重要の案件だからな。
居間に戻ってテーブルに魔石を置いた。
「もらったやつだ」
「もらったもの? 赤黒く光っているがこれは……」
「ああ、こいつは湧き穴でもらった魔石だ。魔力が十分に貯まるとこんなふうに光る。魔物の種類によって色は様々だな。人型ならこんな色だ。でだ、火の精霊を使うと疲れないか?」
「……嫌なヤツだな。疲れる。やり過ぎた時には、機動訓練なみに疲労する感じだ」
「その疲労感は魔力切れだ。空になると死ぬこともあるんだ。この魔石は魔力の塊。電池のようなものと思ってくれ。魔力の吸収充填を訓練すれば魔力量は増やせる。疲れることもなくなる」
「……あ、そのあれだ。ゲームのようなゲージはだせないのか?」
「だせない。感覚でわかってくるようになる。ほい、握ってみろよ。はい、諏訪さんも」
「え? 私もですか?」
「湧き穴で討伐したことは?」
「あります。副官ですから」
「では、あなたも魔素を取り込んでいる。魔法は?」
「使えません」
「出来るようになる。ではまずは、体の魔力を循環させよう」
ふたりが顔を見合わせたね。
「意識しなくても、血液は体を巡っているだろう? 知識として知っているよな。同じように魔力、魔素も体を巡ってる。武道をやっているなら気と考えてもいい。丹田を意識して巡るイメージを高める。目を閉じてもいい」
ふたりは神妙な顔で魔石を見つめている。芦田陸将補の魔力は、かすかに動いているが諏訪さんのは動かない。半信半疑なんだろうな。
「うまく動かないようだね。じゃあ俺の手首を握って」
手首をふたりに握らせる。
「これから魔力を譲渡する。流れてくる感覚に集中して」
ゆっくり、少し、を意識して魔力を流し込んでやる。
「あ!」
「おお!」
「わかるかい? 何かが流れてくるだろ?」
「ええ、ええ、わかります!」
「わかる!」
「ではそれが、血液と同じように体を流れていると想像する。そして動かす。体を巡った魔力は、俺を通ってまた自分に戻る」
三十分ほど続けると、ふたりともわずかながら自分で流せるようになった。
「では、諏訪さん。人差し指を立てて。それがライターだと思って、爪の先に火がつくところをイメージする。点火のきっかけに、火とつぶやく」
「……火」
ポポッと5cmほどの炎がでたが、本人が驚いて消えてしまう
「うん、魔法が使えたな」
諏訪さんはじっと指を見ている。
「ぐぬぬっー! ……火!」
自分のより大きな炎をみて、芦田陸将補に力が入る。
ボボッン!
バスケットボ―ルほどの炎がでてのけぞった。
「あわわっ!」
あわてて手を振り炎が消えた。
うん、やっぱり屋内での火魔法は厳禁。火の用心だ。
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