夜のお客様
一歩一歩社会復帰します。何度も書き直ししてしまいました。お待たせしました、投稿再開します。
芦田陸将補からメールがきた。
『約束どおり今夜お伺いします。PXで人数分のお土産を購入しました。気兼ねなくおしゃべりができるといいですね。よしなに』
明日の予定だったが変更か?
いや解読しろってか。旧軍で使われた暗号は鹿児島弁、豆知識だけどいまは関係ないな。
ま、あんまりひねってないか。
約束ないけど、今夜行く。人数増えるけどいいよねーってとこか。
で、他では話に気を使う……探りを入れられてるけど対策してね、が主題か。
うん、深川陸将だよ。式神くんが教えてくれた。その後ろもね。その先は、ここからじゃ無理。
「こんばんは」
「はーい、いらっしゃい」
「浅野さん、副官の諏訪三佐です。諏訪、この方が浅野ケントさんだ」
「諏訪です。よろしくお願いいたします」
今夜は私服か。諏訪三佐を紹介してもらうが、とんでもない美人。でも鋭そうでちょと怖い。三佐って、雰囲気がぴったりだ。
「初めまして。ケントと呼んでください。思わず『少佐ぁ!』って呼びたくなりますね」
「ん? ぷっ、くくくっ。い、言われてみれば確かに。でも攻殻自衛隊じゃないからな」
「?」
「お、諏訪少佐でも知らないことがあったか」
「ハハ、どうぞおあがりください」
「夕飯まだでしょ? だご汁と肉じゃがだけど、どうぞ」
「PXで人気のシュークリームを買ってまいりました。食後にいただきましょう」
「それはそれは。ありがとうございます」
ユミさんに線香をあげてくれてるふたりにそう言って、右手の人差し指をあげる。
「振動結界」
「?」
「結界をはった。もう気兼ねなく自由におしゃべりできる」
「結界?」
「ああ、この家全体を包んで、振動や波に干渉するんだ。敷地内は無音になったと思っていいよ。あ、電波も遮断してしまうからスマホは使えない。盗聴器も」
「まったく。なあ諏訪さん、謎だろう? ……急に来た理由なんだが……」
「……」
「異世界」
「……」
「それが答えか?」
「芦田さん、なにを」
「ふーむ。相当ハマってたクチだね」
「否定しないんだな」
芦田陸将補から諏訪三佐に視線を移す。
「諏訪三佐なら信頼できる」
「でも、オタっぽくないしなぁ」
「小説やアニメなんかのお話ですね。湧き穴、ダンジョン、ゴブリン、オーガ。おまけは芦田さんの魔法。調べました」
「俺も論理的、物理学的な正解はわからないが……異世界であってるよ」
芦田陸将補が息を吐いて肩を落とした。
「ふふん。こう考えたわけだ。浅野ケント。大混乱はあったが、七年間の足跡がどこにもない。行方不明届と玉杵名警察署の資料にビミョーな矛盾がある。ゴブリン剣でしか斬れない魔物を、所持している見たこともない剣で斬る。魔法を使い、格好はまるで冒険者のコスプレ」
ふたりが見つめてくる。
「大混乱の真相が不明。物理原則の狂い。小説と似たような舞台装置。こりゃ異世界が関わってるんじゃね? って?」
「病がぶり返したのかと思ったよ。……ケントは、異世界からきたのか?」
「正直なところ、よくわからない。浅野ケントの記憶を持って、この世界から異世界に転生した。成長して転移、ここに戻されたんだと思う。誰にとは聞かないでくれ」
「現実とは思えないな」
「オーガに喰われた人たち、行方不明の自衛官は現実だ」
「ああ、そうだ。……だが、それはもう過去だ。大事なのはこれから先のこと。混乱を乗り越えること。魔物を退治し、争いを治めること。そこにケントの存在がどう関わるのかもだな」
「俺はほどほどに、のほほんと生きられればいいだけなんだが」
「……」
「ゲームでさ、俺は死に戻りをあんましない方なんだ。ゆっくりのんびり何時間でもザコを狩ってレベルをできる限り上げて、死なないようにしてからボスに挑むタイプなんだ」
「……俺はとりあえずボスを攻撃して、何度も死に戻るほうだな。で、攻略法を考える」
「ゲームならそれもいいけどな。リプレイができないっていうのはキツイ」
「実感がこもってるな。戦場でもそれは無い。死んだらそこまでだ」
「ああ。だからな、それが俺の目的だ。死なないようにするにはどうするか」
「敵を分析し、武装を整えて、有効的な打撃を与える」
「そうなんだが、それは戦術だ。欲しいのは戦略だな。武器……武装と同時に兵士をそろえ軍隊を組織する。それには軍費が必要だ。軍費には経済基盤が必要だ。と、考えていくと……」
「……それは危険思想だ。国への反乱……内乱罪だ」
うーん。自分の軍がいないって、十何年ぶりだからな。裸でいるように感じるねぇ。
「だが、日本でそれをやった連中がいるだろう? お陰で日本は近代化した」
「……明治維新か」
「ああ。今の政府や現皇を知らないが、強い軍事指導者なのか? 凡庸な政治屋や深川陸将みたいなのには、務まると思えない」
「……自分なら、か?」
「ああ、くそ! どうする? 追うか? 間に合わない! チィー!」
「?」
「ケント? どうした?」
口にしてた? 声に出してたか。
「……俺の目的、最優先は復讐だ」
ユミさんの遺影を見る。そのほほえみに心がねじ切れる。
「調べたろう? 妻のユミは殺されたんだ」
「ええ、玉杵名警察署の資料にありました」
「この近くの暴力団、いや半グレに殺された。犯人はわかっている。報いを受けさせると誓った」
「それは、私闘ではないのか?」
「私闘だ。だが、賞金もかかっている。DEAD or ALIVE、指名手配犯だ。俺が狩る。誰にも邪魔はさせない」
「……」
「魔法で親の暴力団を監視していた。犯人の半グレ、佐藤順次が三日前に東京に向かったと、今わかった」
「追うのか?」
「……そうしたい……が、居場所がわからない」
「……」
「ふぅー。いずれ追い詰める。最優先だが、すぐには動けない。情報が必要だ」
席を立って、ユミさんに線香をあげる。
「ふたりはいける口か? 付き合ってくれないか」
「ああ、呑める」
「はい」
俺の好きなスコッチシングルモルトオーバン。
ユミさんはハイボールが好きだったな。いつも切らさないようにしてくれてたね。ありがとう。
でも大混乱前のものだろうね。保存方法をユミさんは知ってたからな。良い香りだ。
「献杯」
ふたりに出すと、そう杯を捧げてくれた。
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