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モナミさんと美少年


 大混乱の直前だったと憶えています。

 玉杵名市から山猪市に行く道に、突然大きな深い穴ができました。何軒もの家が、町が無くなってしまったのです。

 菊池川から水が流れ込み、大きな湖になりました。まん丸の湖です。


 そして大混乱です。

 小学校五年生でしたが、学校は無くなりました。家族や近所の人に勉強を教えてもらいました。

 最近また学校ができたそうです。小中高の区別はなく、ただ「学校」と呼ばれています。


 あの日は、食材を手に入れるために母のサエと山猪市に向かっていました。

 交換用のジャガイモを積んでいました。新しい湖、山猪湖で魚を獲っている人との交換です。

 山猪湖までくると誰かが立っていました。裸の大きな男の人です。漁師さんが事故にあったのかと、母と慌てて湖畔に降りていきました。

 それがケントさんとの出会いでした。


 ケントさんは、ユミさんの旦那さんでした。近所で勉強を教えてくれた優しいお姉さんです。絵がとても上手でした。


「結婚? してるのよ。旦那はいるの。私が押しかけてね、結婚してもらったの。いま遠くにいっていて、苦労してるみたい。ウチのケントさんはね、とってもいい男なの。前もいい男だったけど、いまのあの子も悪くないわねぇ、ウフフフ」


 母から旦那さんは行方不明と聞いていましたが、ユミさんはよくわからないことを言います。


 一緒に農作業もします。

 あの日もそうです。収穫したトマトをJAまで持っていく途中でした。

 みんなから近寄ってはいけないといわれている男たちが、JAの前で騒いでいたのです。

 その中のひとりが腕をつかんできました。

 ユミさんが男から離してくれました。キラリと何かが光って、ユミさんは倒れました。


 私のせいです。ユミさんが「逃げて!」と言ってくれたのに、動けなかったんです。ユミさんが死んだのは、私のせい。



 ケントさんに朝ご飯を届けに行きました。

 母はユミさんと仲の良いお友達でした。私のせいでユミさんが亡くなり、おまけに知らなかったとはいえ、そのお友達のご主人を通報してしまって気に病んでいます。


 ユミさんが亡くなった時の男たちです。ケントさんを取り囲んでいました。大変です。

 ですが、ケントさんはあっという間に倒してしまいました。

 とっても強い方です。

 大丈夫かと、聞いてくださったので「大丈夫です。怪我もないです」と母と答えると、とっても優しい笑顔をくれました。


 ケントさんは自警団に入ったそうです。ちょうど給食班の当番のときでした。

 ゴブリンが出てきてみんなは緊張していましたが、ケントさんは散歩をしているみたいに歩いていました。

 見張りの萩のおじさんが群れが来ると叫びます。みんなはパニックになります。私も心臓がドキドキしました。

 でも、やっぱりケントさんは普段と変わりません。それどころかひとりで湧き穴に向かっていきました。

 あっという間でした。本当にケントさんは強いです。

 格好は、その、母が昔、ハマっていたというコスプレという写真と似ています。


 全部倒して戻ってくると何事もなかったようにニッコリと笑ってくれて、美味しそうにご飯を食べてくれました。

 とってもいい男って、ケントさんのような方なんだと納得しました。ユミさんの言っていたとおりです。





 僕は大場ジロー、十五歳。もっと背が高くなりたい。それと力が欲しいです。


 子供の頃から女の子に間違えられます。

 いつもまわりに女の子たちがいて、かまってくるのがイヤです。年上のモナミさんにかまわれるのは、ちょっと嬉しいです。

 男の子たちからは「オネエ」とからかわれますが、どう(かわ)すかを知っています。

 言った相手をじっと見つめます。すると頬を赤らめて、あたふたとどこかへ行ってしまうのです。

 最近みんなが僕に言う「美少年」というニュアンスがわかりはじめました。でもそう呼ばれるのは嫌いです。「美少女」という意味もあることには気がついてます。



「サバイバルの時代だ。強くなければ生きていけないぞ」


 父の言葉です。十五歳になったら全員が入る自警団で、戦闘担当を希望しました。

 怖いです。

 ゴブリンとオーガを見せられましたが、体が震えました。人が食べられているシーンも、匂いまでもとても怖いです。

 みんなが僕のように震えました。

 でも誰よりも背の高いガッチリした年上の人は、初参加だというのに平気そうでした。


 当番が決まり湧き穴に初めて行きました。あの年上の人も一緒です。


 カッコイイ!


 みんなが農作業の格好に竹防具の中で、革の鎧に立派な剣を持っています。父の持っている漫画の主人公、英雄のようです。

 ゴブリンが出てきました。初めて見る本物のゴブリンに足がすくみました。


 自衛隊の人の指示で、倒したゴブリンの死体を斬りますがもどしてしまいました。でもあの人は平気な顔で斬っています。竹槍も誰よりも深く刺していました。


 スゴイのは十匹の群れをひとりで倒してしまったときです。

 自衛隊の人もあわてていたのに、ゆっくりと最初の死体のところに戻ってきます。剣を抜いて斬りつけ、刃を確認しているようです。

 その人の前に小さな水晶が突然現れ、キラリと光りました。すぐ見えなくなりましたが、死体の額に新しい穴が空いたように見えました。

 自衛隊の人と何か話すと、湧き穴に向かって歩いていきます。

 みんなは一匹倒すのに長くかかったのに、ひとりであっという間に全部斬ってしまいました。

 ゴブリンたちの間を、ヒョイヒョイと歩いていったようにしか見えませんでした。


 強いんです!

 この人は英雄なんだ! あの漫画の主人公のように!

 なりたい! 僕もこの人のようになりたい!


 モナミさんの知り合いで、浅野ケントさんだと教えてもらいました。

 ずるいです。名前までカッコイイなんて。


お読みいただき、ありがとうございます。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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