上官ねぇ
「強いな。彼なら阿蘇でもやれるだろう?」
「ええ、適当でしょう。早速勤務させましょう、深川陸将」
常装三つ桜と一つ桜に横棒二本の会話。ふーんだね。
芦田陸将補が近づいてきた。
「ケント、おはよう」
「おはよう、芦田さん。なんか聞こえてきたんですが?」
「すまん、昨日の報告を聞いて、御大が自分で行くと言いだしてしまってな。コバンザメまでついてきてしまって」
「へぇーご愁傷さま」
もちろん小声での会話だ。「御大」「コバンザメ」って俺を試してるのか?
「紹介する」
「うーん、特別な徽章持ちじゃなさそう。『戦闘力たったの五……ゴミめ』って言っていい?」
「ぷっ! やめてくれ、たのむから」
仏頂面の俺に見おろされて、付録たちに表情がなくなる。
「浅野さん、西部方面総監部の深川と柏木です。こちらが昨日玉杵名市自警団に入られた浅野さんです」
「深川です」
「柏木です」
深川が陸将、柏木が三佐、副官かな。紹介のない後ろで直立不動してる人は運転手?
「お強いですね」
「そう俺は強い。俺はこの自警団で一番強い」
「……」
謙遜しないよ。白兵戦専門の軍隊では、強いやつが偉いんだ。
「十匹討伐したと報告を受けたが、その腰の剣でかね」
「ああ」
「拝見したところ、ゴブリン剣とは違うようだが」
「俺の剣だ。あんな、なまくらじゃない」
「深川陸将、先程はゴブリン剣を使ったようですが」
「うむ。あの武器でも戦えるのか。他の者たちはなぜ倒せないんだ?」
「錬成が足りてないのではないでしょうか、深川陸将」
「もっと厳しくせんとな」
「訓練内容を見直させましょう、深川陸将」
「うむ。浅田くん、西部方面隊は君を歓迎する。芦田陸将補、手続きと移動は任せる。以上だ」
「了」
芦田陸将補が敬礼する。
浅田?
歓迎するって、俺自衛官になるって一言もいってないよね。で、さっさと帰っていくんだな。
でも、ちょうどよかった。ピーピング式神くんを持っていってもらおう。車に乗り込むふたりの背中に貼りつける。予備もいっぱい車中に。
車が出ていくと芦田陸将補が苦笑いで寄ってきた。
「いい対応だった」
「ちゃんとボンクラ脳筋にみえたらいいんだけどね」
「ぷぷぷっ」
「芦田陸将補ってツボが浅いよね。いい傾向だ」
「ふふ、笑えるときに笑っとかないとな」
「ああ」
死はいつも背中に貼りついてるからな。精一杯楽しまないとやってられない。
「武器と魔法について素案を作ってみた。ウチで話そう」
「わかった」
その後は散発的に三匹のゴブリンが湧いた。
二匹目が粘り、ころんだ団員がやられそうになる。氷弾で頭を撃ち抜いておいた。
休憩での食事に、モナミさんが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。ちょっとまわりの、若い男性からの視線が痛かった。
美少年からの視線は、別の意味で痛そうなんだけど。話しかける踏ん切りがつかないのか、俺のまわりでウロウロしていた。まっ微笑ましいっちゃ微笑ましい。
当番時間後の話し合い。
プリントアウトした素案を芦田陸将補にみてもらう。
「ゴブリン剣の分析研究? 武器の組成を知る?」
「もう済んでいるなら結果が知りたい。俺に仮説がある。それを検証したいんだ」
「……違っているのか?」
「こちらの刃物とゴブリン剣。ビニール玩具と現代兵器ほども違っているんじゃないかと思う」
「玩具で戦っていると?」
「武器開発は諸刃の剣であまり進めたくはないんだが。背に腹は変えられない。武装してない兵士など標的でしかない。戦えるようにしてやらなくちゃな」
「……調べよう」
「たのむ。で、魔法だ」
「うむ。……科学的な検証?」
芦田陸将補が素案を読んで、身を乗り出してくる。
「まず、政府か自衛隊か大学か。民間でもいい。魔法を科学的に研究しているところはあるか?」
「……いや。魔法の報告は真剣に捉えられていない。私のも手品だと思われてる」
「使えるなら、本物だと理解しているな」
そう言って、右手の指をたてる。
「火」
ポッと火がつく。
「できるのか!」
「火魔法は屋内でやると危ないからなぁ。まだ明るいが仕方ない。庭に出よう」
庭の手入れをしたので結構な量の草や枝を積んでいる。不要な板などもあり、風のない時に燃そうとそのままにしている。
本当は焚き火はいけないんだけどね。
「火炎弾」
手のひらに野球のボールほどの火球をだす。
芦田陸将補が目をむいた。
積み上がった枝に球を放つ。枝は勢いよく燃えだした。
「水」
バケツ一杯分ほどの水をかけて消火する。
「俺も魔法は使える」
「……なにかでゴブリンの頭に穴を空けたな」
「氷だ。氷弾」
小さい氷の塊を次々にだして放つ。板に穴があき、草や枝が弾けとぶ。
「氷もか。ブレット……銃弾……威力はニイマルシキと変わらんな」
「ゲームの知識と同じだろう? というよりゲームやアニメ、ラノベから考えた魔法だ」
「自分で考えたのか?」
「ああ、自分で魔法を作って使っている。条件さえ合えば……人にも教えられる」
「……」
「武器の開発もありだが、魔法で戦うことも可能なんだ。想像したことないか? 陸上自衛隊特殊魔術師群」
「……ある。可能なのか?」
「わからんよ。これからのなりゆき次第だな」
「……特殊魔術師群」
素案について話し合った数日後。
はーい、ボクたちケントさんの式神でーす。
シキシキー! ガミガミー!
えー、なにそれ、かっこわるーーー。
などとおちゃらけることなく、式神くんたちはお仕事をしてくれる。
熊本県熊本市、自衛隊健軍駐屯地。
西部方面総監部ほか、自衛隊の機関がある。
深川陸将と柏木三佐につけた式神は、彼らの言動を送ってくれている。
玉杵名市からおよそ25km強、思念は変わらずに十分に届くな。情報解析魔法も今のところエラーはない。
ただし、俺の脳容量には限りがあるからな。亜空間収納には外付けHDDも入っているが、こちらでも魔石を加工して早急に作らなくては心もとない。
車中に突っ込んだ式神たちも、駐屯地内を動き回り情報収集に余念がない。もっとキーワードを絞れればいいんだが、いまは仕方がない。
重要なのは陸上自衛隊内の組織概要だ。特に現状に対する自衛官たちの心情が知りたい。
次は他の基地や駐屯地の状況。そして政府。機能しているようだが実際はどの程度なのか。
食糧難なんだ。何の役にも立たない国会議員たちは、畑仕事をして国民を養えよ。
芦田陸将補につけた式神たちもうまく動いている。パラレルでいくつまで式神を起動できるか、こっちの世界での試用には十分だろう。
芦田さん、だいぶプレッシャーを受けていたようだ。
「最近顔色が良くなったね」
「うん、明るくなったんじゃない?」
などとまわりの声が拾える。
人望はあるが厳しい人、怖い人って評価か。先が見えない負け戦をひとりで背負っているって心持ちなんだろうな。
総じて式神の試用はうまくいっている。
本番に移行しよう。
熊本県荒井市。元は炭鉱で栄えた町。
繁華街を外れた住宅地。
広い敷地に高い塀、有刺鉄線、多数の警備用カメラ。このご時世で機能しているんだろうか?
重そうな鉄扉は締め切られている。
では式神くんたち、いよいよ本番です。お仕事お願いしまーす。
組長の家と佐藤組事務所に多くの式神を潜入させる。
「丸裸にしてやる。関係者全員をな」
近くに駐めた軽トラ内でボソリとつぶやいた。
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