ここって……どこ?
深い闇の中、吹き荒れる魔力と風刃。
突然巻きあがる火炎嵐。
その中心に剣をあわせたミイラ顔と俺。
肉のない爛れた皮膚が骸骨にピッタリ張りついたミイラ。落ちくぼんだ眼窩から憤怒の黒いもやを噴きだして、赤い目が睨みつけてくる。
俺は逆手に持ちかえた剣を、その顔に突きたてた。
「があぁぁぁっ!」
悲鳴を聞きながら、鍔元まで剣を押しこむ。
「総員退避! 魔力全開放! 絶対障壁! 逃げろぉー!」
そう叫んで、魔帝にニヤリと笑いかけた。
「サ・ヨ・ナ・ラ・魔帝……超極大爆裂!」
白い光が溢れ俺たちを包みこむ。
「アーハァッハハハッ!」
崩れていく魔帝のミイラ顔を笑ってやる。
「へっ? ガボガボォッ! ゴボゴボッ!」
うぉぉッ! やっべぇっーーー!
息ができないっ! 苦しいッー、冷たいっ!
何だぁー!
空気障壁!
うっ、魔力が少ない。維持できるか。
「げぼげぼっ。ぐえぇぇーーー」
盛大に水を吐き出してあたりを見まわす。真っ暗。
体の周りに張った球状障壁の中で息をついたが、どれだけこうしてられるか。
球状障壁は水中を上昇しているようだ。
なぜに? どうしてこうなった。
いきなり水中? アイツ、何をした!
真っ暗闇が上から薄れ、明るくなってきた。かなり深いところにいたよう。
ようやく水面に浮かび上がって障壁を解く。
「ぷっはぁー! ハァハァ、死ぬかと思った」
立ち泳ぎして息がつげた。
魔力が足りなくて障壁の空気が持続しない。そりゃあ人より長く息を止めていられるけど、全く呼吸しないわけじゃない。
いきなり水の中じゃパニックになっちまう。
あたりは一面の水。頭上は真っ青な良く晴れた空。
体を確かめると全裸で右手の剣も柄だけ。剣身はなくなっている。溶けたか。魔帝め、最後にやってくれたな。
鎧も服も燃えつきるとは絶対障壁も破られたのか。髪も燃えたようで掻き上げると先端が粉になってボロボロと散らばった。
自動治癒能力が仕事して、戦闘の怪我はそうひどくなくなっている。
まぁ、アイツは崩れていったからな。
「倒せたはずだ」
フラグじゃないことを祈ろう。
柄を亜空間収納に放りこむ。
水は塩辛くないから淡水だな。河? 湖か? 他のやつらはどこだ?
真っ青な空って……さっきまで夜だったはずだ。まぁ何時間戦ってたのかわからんが。太陽の高さからするといまは昼じゃないか。
見渡すと水面は広いが陸地が全方向に見える。湖?
岸際は低い山並みだが、全く見覚えがない。
「魔力が枯渇しそうだし、泳ぐしかない……か」
俺はゆっくりと泳ぎ始めた。
ギュルルッと腹がなる。
「……腹へったぁ」
岸まではかなりある。岸際や山並みの間に民家や建物がある。ハズラック王国や周辺国では見たことのない造りだ。だけど、なぜか懐かしい。
何度もあたりを見回すが、泳いでいる者は誰もいない。
超極大爆裂を発動するときに広範囲の絶対障壁を張って逃げるよう叫んだけれど、みんな無事か?
足のつくところまで泳いできたが、浅瀬はそう広くない。岸からすぐに急に深くなっている。
ザバザバと水からあがる。
水面から見えていた建物は荒れているようだ。無人なのか。
湖を振りかえり、ボケっと眺めてしまう。
腹も空いてたまらないのだが、それより気になる。
なにがどうなったのか。
一番は討伐小隊のみんな。各国からの討伐軍がどこにいるのか。無事か。
魔帝討伐の確認と、魔帝軍の残兵掃討も急がねば。
人の気配に振り向いた。
「ひっ!」
中年女性と若い娘、お母さんと娘さん? 周辺の住民は避難民となったはずだが。
ふたりの服装が……見慣れたような、見慣れないような……。
驚いた声はこのふたりの女性があげたのだろう。あたふたしてトートバッグを取り落とした。
「あっ! 魔帝はどうなった! 倒せたかっ!」
見下ろして大声で尋ねると、ふたりは怯えて抱きあった。
あれ? 脅かしたか。
泳いでくる間にあれこれ考えをめぐらしたけど、やっぱり一番気になることを聞かないとな。
「驚かせたかな。魔帝について尋ねたい。どうなったか知っているか?」
「……」
声を落としてみたが、黙って俺を見ている。彼女たちの視線が下に向けられ、「はぁ」とため息とともに、ふたりの顔がだんだん赤くなる。
「知らないのか」
「が、外国人……」
「は?」
「モナミちゃん! 警察! 警察に電話!」
「は、はい! きゃ!」
モナミと呼ばれた若い子がしゃがみこんだけど、慌てたのか派手にひっくり返った。
めくれ上がったスカートから形の良い足と白いパンツが。
思わずガン見してしまった。白いパンツって本当に久しぶりで見たな。ありがとうございます。
トートバッグから震える手でスマホを取り出し、電話をかけだした。
ふたりが話しているのは……日本語?
そう、このふたりの会話は共通語じゃない。日本語だ。
ここって日本なの?
俺は一歩ふたりに踏みだした。
「ヒッ!」
「外国人ばい! 裸ん外国人! 大男に襲われとるっ!」
「え?」
中年女性はモナミさんを庇うように前に出て腕を広げた。警察につながったのだろう、場所と俺の背格好を説明している。
「あの、外国人って俺のこと?」
うん、日本語覚えてる。
ハズラック王国では誰にも通じなかったが、魔法の詠唱や暗号として使ってたからな。
ああ、俺は裸だったか。あわてて亜空間収納に手を入れてズボンとブーツを取り出して着込んだ。体が濡れたままなので気持ち悪い。
シャツを手に持ったままで言葉をかける。
「驚かせたようですが、危害をくわえるつもりはありません」
お読みいただき、ありがとうございます。
新しいお話を投稿します。
本日は、もう一話投稿予定です。
方言、ニュアンスがうまく伝わるかな。文字にするのはむずかしいです。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
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