第4話 繋がって、ウルティメット (1)
自分の人生をかけて臨むからには、アイドルだからって他人に迎合するつもりはない。苦労して手に入れた切符で、安易に流れるつもりはない。定石なんて知ったことか、あたしの歩みを邪魔するのなら蹴り上げてやる。
「確かにデビューライブは派手にしたいとは言ったけど──」
群青院円はひきつった顔で足元に広がる景色を見下ろした。真下には芝生の敷かれた公園があり、その周囲にはいくつものビルが建ち並んでいる。円の長い髪は強風で煽られ、頭上からはローターが激しく回転し音を立てている。
「──な、なかなか味な真似をしてくれるじゃない」
平均観客動員数4000人の中規模の野外フェス。その会場の上空を飛ぶ輸送用ヘリコプターに円たちは乗っていた。
「どうした、公演時間は過ぎているぞ」操縦席から朴念仁がいった。「今更なにを躊躇う必要がある。降下訓練のとおりに行えば問題ない」
「び、びびってなんかないわよ!」
声を荒げる円の隣で、浅黄ルイが静かにサムズアップをした。円と同じくジェットパックを背負っている。
「ン、空中での誘導は任せて」
「レッスン中より元気じゃない、あんた?」
円を挟んだ反対にいる赤羽根みのりが強く頷く。
「きっと大丈夫ですよ、円ちゃん」
「みのり……」
「誰も辿り着けない景色を見に行くんですよね、わたしたち」
円の両手をルイとみのりが握る。ふたりの手は熱かった。それは高揚感が生んだ熱だ。
「いいわよ、やってやろうじゃないの」
空中に向かって三人のアイドルが並び立つ。
この一歩はただの門出ではない。世界への挑戦状だ。
周りに媚びを売るつもりなんてない。自分たちの力で振り向かせてやるのだ。
「ゴー」
「〈B-Laster〉!」
「ぶっ放せぇぇ──!!」
5月4日──その日のネットの話題をかっさらったのは、空から舞い降りた三人組のアイドルグループ〈B-Laster〉だった。