冬は始まらず ※夫視点
馬に跨り全力で駆ける。冬の冷たい風が、体中の熱を奪ってくるようだ。
『パーティを抜けることは許容できないが……ここから船旅だし馬を預けるか手放すかで悩んでいたんだ。
この街まで連れて帰ってから追いかけてきてくれないか?』
勇者がそう言い指定したのは、妻のいる街だった。
――約二週間かけて妻のいる街に、家に帰ってきた。
馬たちを厩に入れ、すぐに玄関へ走り出す。
蹄の音で気づいたのか年若い女性が玄関から出てきてこちらに走ってくる。
恐らく彼女がマーサだろう。泣きそうな顔だった。
「寝室です!」
「わかった!馬たちを頼む!」
叫び合いながらすれ違い、それぞれが行くべき場所へ向かう。
玄関の扉を肩で押すように開く、もつれそうな足を叱咤しながら階段を駆け上がる。
寝室の扉は開いていた。
「――!」
初めて会った時より痩せ細っている。腕はなにかの冗談のように真っ黒で、細さも相まって枯れ木のようだ。
それでも妻だ。俺の愛しい愛しい、大好きな彼女。
その瞳は虚ろで、なにも映していないように見えて背筋が凍る。
妻がいなくなってしまいそうで、ベッドまで駆け寄ると引き留めるように真っ黒な腕を強く掴んだ。
その瞬間聖騎士の鎧が眩い光を放ち、みるみるうちに腕が本来の色を取り戻す。
何が起こったのかわからず呆けていると、吐息のような声が聞こえ弾かれるように妻の顔を見た。
力なくほんの少しだけ目尻を細めた彼女は、きっと笑ったのだろうと思う。
そのままゆっくりと息を吐きながら目が閉じていく。
「あ……駄目、駄目だ、待ってくれ、駄目だ……!!」
まだ温かい体の熱を逃すまいとベッドから体を起こし掻き抱く。身体中の震えが止まらない俺とは逆に、妻の体は全く動かない。
止まらない涙が彼女の顔と胸元を濡らしていくのに、何の反応も返ってこない。
「嫌だ、逝くな、逝かないでくれ」
抱きしめた体の細さにゾッとする。
さぞ辛かっただろう。どうして俺は君のそばにいてやれなかったのか。
「愛してるんだ……!」
君との未来を守りたかったのに、君を幸せにしたかったのに。
もっと声が聞きたかった。笑顔が見たかった。
君と、ずっと一緒にいたかった。




