秋の彩り ※夫視点
今回の移送術日はかなり遅かった。
隣の大陸で大規模な魔族の侵攻があり、かなり危機的な状況という知らせを受けたからだ。
まずは移動をとにかく優先し、港町についたタイミングでまとめて物資を受け取ることにしたのだ。
港町に着くと、波が高く風が冷たく吹いている。
秋の盛りもすっかり終え、冬の足音が聞こえてきていた。
手紙を受け取ると、いつもと全く違う筆跡なことにまず動揺した。
怪我をしたらしい。手紙を書けないくらいという事は重傷なのだろうか。
それとも指などを怪我しただけで元気にしているのだろうか。
まず最初に手紙を開いたのでまだ刺繍を見ていないが、慣れない君が頑張ったものを笑うはずがない。
大切に着よう――。
そう思ったところで、もう一枚便箋が入っていることに気が付いた。
筆跡は先ほどと同じ、家事手伝いとして雇っているマーサという少女からのもののようだ。
――――――――――――――
バタン!!とかなり激しく扉を開いたので、中にいた仲間たちが飛び上がるように驚いている。
皆が俺を見つめ、「どうした?」と声をかけてくるが応じている余裕はない。
勇者に向かって土下座した。
「俺をこのパーティから外してくれ」
部屋を静寂が支配する。
「……理由は?」
皆動揺していたが、いち早く回復したらしい勇者が静かに聞いてきた。
手紙に書いてあった内容を思い出し、思わず床を睨みつけ拳に力がこもる。
「妻がもう長くない。起き上がることすら難しくなってきたらしい」
初めて妻に会った時を思い出す。
まだ勇者パーティに選ばれる前、騎士爵を賜ってすぐの頃だ。
遠征先で立ち寄った村で、痩せ細って絶望した顔で歩いていた彼女。
他のやつらは何とも思わなかったらしいが、まるで彼女の周りだけ光の粉でも舞っているんじゃないかと思うくらいキラキラしていて、笑顔になったらもっと綺麗なんだろうななんて思いながら声をかけた。
事情を聞いて迷わず両親に金を渡して引き離し、妻として囲った。俺だけの彼女にするために。
傍から見れば非常識な行動だっただろうに、妻は喜んでくれた。俺に愛を返してくれた。
勇者パーティに……国宝である「聖騎士の鎧」に選ばれた時も泣いて別れを惜しんでくれた。寂しがってくれた。
そんな彼女の、日々のささやかな生活だけでも守りたかったのに……!
ぎちりっと聞きなれない音が耳元で聞こえる。
どうやら拳を握りしめすぎて革の手袋が悲鳴を上げているらしい。
「『聖騎士の鎧』なしで、彼の大陸に進むことは難しい」
勇者の固い声が聞こえ、思わず歯を食いしばる。
わかっている。「聖騎士の鎧」はかなり強力な聖遺物だ。ここで俺が抜ければ仲間たちは不利になる。
そしてそれは、侵攻により人々が命を落とし、苦しめられる日々が長引くことと同義だと。
頭ではわかっている。妻ひとりを看取るより沢山の人々を救うべきだと。
でも、無理だった。
頭を垂れながら、勇者に、俺と同じように「勇者の剣」に選ばれた男に懇願する。
「この鎧も、聖騎士の称号も、全て返上する。何もいらない。だからどうか……妻のところに行かせてくれ……!」




