冬は始まらず
最後まで、最期までこのままで過ごそう。
旦那様には何一つ知られずに、ただ死んだことにして。
優しいあの人に迷惑をかけたくないし、大切な大切な任務の妨げになるようなことも避けたいから。
本当は、事情を話したら旦那様がどんな反応をするのか考えただけで恐ろしくて考えるのを止めてしまっただけなのだけど。
とにかく、そう決めてからはとても穏やかな日々だった。何事もなく、つつがなく、時間が流れていく。
起きていられる日がどんどん減り、気が付けば何日も眠り続けていた事もあった。
食事はマーサが食べさせてくれていたが、だんだん食欲もなくなり、今では水をたまに飲む程度だ。
若いマーサの次の職だけが心配だったが、町の食堂で働き口が見つかったらしい。旦那様のお帰りまでこの家の手入れをしつつ、働いてくれると言ってもらえて心の底から安堵した。
――ふと目が覚める。ここ最近は朦朧とした靄のなかで過ごしているように感じていたのに、今日は珍しいくらいに頭が冴えていた。
だからこそ、だろうか。ああ、今日なのかと思う。
きっと、次に目を閉じたら、そのまま目を開くことはないだろう。
マーサに頼んで手紙を書いてもらおうかしら。
何を描こうかな、木枯らしで落ち葉が舞った日のこと?薪屋さんが代替わりしたこと?何がいいかなぁ。
旦那様はお元気かしら。出先だからお手紙を頂けることはほとんどなかったけれど、他の大陸に咲く珍しい花の押し花の栞や光る石は宝物だ。
マーサに頼んでベッドサイドに並べてもらったそれらを眺めていたら、急に眠たくなってきた。
風前の灯というのは案外短いらしい。
手の感覚はもちろんのこと、足の感覚も無くなっていく。
眠る直前のような微睡の中、何か大きな物を落としたような振動とバタバタという物音が聞こえた気がした。




