夏の氷
「痛っ」
刺繍針を指に刺してしまった。
最近は何故か失敗ばかりだ。
マーサに迷惑をかけることも増えてきた。
心当たりを考え、ふと気が付く。
気が付けば、腕のシミが濃くなり手首まで広がっていた。
「おそらく、呪いの一種ですね。一介の町医者にはどうすることも……」
お医者様に告げられ、教会を訪ねる。
「恐ろしく強い呪いです。細かい術式も何もない強い感情だけでかけられている原初の呪い……腕を切り落としたとしても進行を遅くするだけです。解呪は難しい」
――どうやって家に帰ったのか覚えていない。
気が付けば、机に手紙道具を広げていた。
明日は旦那様に手紙を送る日だ。
正直に伝えなければと思うのに、どう思われるだろうと恐ろしくなる。
現実から目を背けたくて、遠い地で頑張っている旦那様に知られるのも怖くて、結局いつも通りの手紙を綴った。
『親愛なる旦那様
お元気でいらっしゃいますでしょうか。
最近は暑くなってきましたので、とうとう氷を買いました。今年の初氷です。
溶けた頃に砕いて食べるのが今から楽しみで仕方ありません。
旦那様のいらっしゃるところも暑いのでしょうか。
旦那様の鎧姿はとても素敵なのですが、この時期ばかりは少々心配になります。
どうか少しでも過ごしやすい土地にいらっしゃいますように。
旦那様の、皆様の無事を心よりお祈りしております。
くれぐれもご自愛くださいませ。』




