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7話 『移動』

『あ、あの……大丈夫?』


 物陰から顔を覗かせた小娘がエネルギーを放出し終えた俺に声を掛けて来た。

 ブレスは食らっていないが、気が抜けてぐったりしていたところを心配したらしい。


「心配ない。どうやら3本目があった様だ。結局底は知れなかったな」


 3本目とは便宜的にエネルギータンクと呼んだものの事だ。

 謎の現象で再充填されたエネルギーのその全てを惜しみ無く使った訳だが、その後も再充填された。

 こうなってくると、2回が限度なのか、それこそ無限に存在するという可能性すらあり得る。


 実験する事は可能であるが、まかり間違って枯渇でもしようものなら、意図せず卵へと転生してしまうのでそのリスクは冒せない。

 そのため、必要性も無くわざわざ実験する必要も無いだろう。

 これは長い年月を掛けて調査していけば良い。

 それよりも、今すべき事がある。


「さて、では次は地下の悪魔の王とやらの顔を拝みに行くとしようか」


『え? む、無理だよぉ……』


 小娘が縮こまって震えだす様子を見るに、よっぽど力の差でも感じて絶望でもしたのであろう。


「なに、向こうには既に俺よりも強い竜種が2体も向かっている。恐らく直接やり合う事にはならないだろう。それに、いざとなれば世界を強制終了してしまえばよかろう」


 小娘が捕まった際は不意でもつかれて終了する時間が無かったのかもしれないが、今回は事前に知っているし、最悪俺がその時間を稼げば問題はない。


『それは……できるけど……』


 世界を強制終了すればこの世界は呆気なく崩壊し、元の世界に戻る事になる。

 綺麗に終了するのに比べればエネルギーを多くロスしてしまうが、速度だけは早い。

 それに、この世界に関しては崩壊し続けているのも相まって、既に大部分のエネルギーは回収済みだろう。


 それならば早速地下に向かうかと、動き始めようとしたところ、唐突に起きた衝撃で出鼻を挫かれた。


「――――くっ! 何が起きた」


 衝撃は下からだ。

 方向からしても、これから向かおうとしていた地下が原因ではないだろうか。

 ただ、その衝撃の大きさは先程のブレスの衝突時より桁外れに大きい。

 それに衝撃は今も断続的に続いている。


『え? あれ? なんで?』


 小娘は神族がよく使用する白い板を取り出して何かを調べていた。

 恐らくは、造った世界を管理するためにデバイスだろう。

 それを見て大いに驚いていた。


『私の世界が……どこかと繋がって……』


「どこかとは……まさか」


 そもそも、紫色の小竜――もとい、アカネ達は何を目的としていたか。

 元の世界――反転世界に戻る事だ。

 その目的の為に、真っ直ぐ塔の地下に向かっていた。

 であるならば、既にその方法は認識しており、それを実現したと考えるのは何もおかしいところはない。


 反転世界へ意識的に渡るなど前代未聞な技術である。

 だが、あの紫色の小竜の知識に、悪魔の王が集めていたであろうアーティファクトを加えればどんな事も出来そうだと思えてくる。

 そもそも今、現に、そのゲートが開いているからこその、この衝撃だろう。


「小娘よ。直ぐに世界を閉じよ。反転世界へ巻き込まれるぞ」


『え? あ……わ、判った』


 反転世界――正直、興味が無い訳ではない。

 不思議と恋い焦がれるものも感じる。

 だが、アカネにも言った様に人間社会に溶け込めるとは思えないし、向こうとしても迷惑なだけだろう。

 そもそも、無事に渡れる保証もない以上、可能ならば回避するのが無難だ。


『え、えと、確か、こうやって……』


「まだか? 来るぞ!」


 それは足下から来た。

 衝撃は前兆の様なもので、変化は別の姿で現れた。

 例えるならば重力の反転。

 だが、実際は天井に落ちる様な事はなく、脚は地面を踏んだままだ。

 であるにも関わらず、知らないうちに既に地面が天井になっている。

 そして今まで地面だったところは上にあり、その先から何かが積みあがっていく様な音が聞こえてくる。


「塔が裏返った?」


 事実はどうあれ、イメージとしては塔自体がクルリと捲れ上がった様な感覚だ。

 これが反転するという事象だろうか。

 初めての感覚である筈だが、どことなくデジャブを感じるのが不思議ではある。


『あ……見つけた。押すね』


 既に反転世界へ移動してしまったのかとも思ったが、小娘がデバイスを操作する事で周囲の異変が止まった。

 間に合ったのか、間に合わなかったのかは未だ判らない。

 だが、静止していた瞬間は一瞬だけであり、次の瞬間には再び塔全体が振動し始めた。


「これは……どちらに移動しているのやら」


 俺がブレスで破壊した塔の壁の向こう――そこに映るのは既に荒廃した世界の光景ではない。

 光と闇、そのどちらとも付かない空間がうねる様に存在している。

 これについては全く未知の経験ではない。

 竜種が世界を渡る際に見る光景だ。

 ただし、それは通常生身であるが、今は塔そのものに乗せられて移動している。


 とにかく、塔はどこかの世界へ吸い込まれる様に移動している。

 それは、反転世界、もしくは反転世界の反転世界――つまり、神どもが模倣元としている世界のどちらかだろう。


 その移動は直に終わり、俺達はその世界へ解き放たれた。

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