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5話 『監獄』

 黒竜のブレスによって塔に開いた穴、そこに潜り込む。

 通路の幅は俺には多少余裕があるが、黒竜には厳しいだろう。

 再び黒竜がブレスを吐こうものなら、塔の中に居ることが逆に危険となるが、通常は連発できるものでもない。

 何かしらの手を打って来る可能性はあるが、当面は戦闘は中断したと言っても良いだろう。


「しかし、この光景は……監獄か?」


 外の空気は遮断され、日の光も入ってこない。

 そのためどこかジメジメとしている。

 そして特徴的なのは、左右に並ぶ金属製の格子だ。

 中には誰も囚われていないが、誰かが居る気配はこの奥からしている。

 とにかく、そちらに向かうべきだろう。



  ◇  ◇  ◇



「グブブ!?」


 暫く進んだ後、唐突に何かに遭遇した。

 小柄な背丈でありながら、顔のパーツや手足だけが異常に大きい。

 赤い皮膚を持ったその様な生物には心当たりがある。

 レッドゴブリン、知能はそんなでもないが、獣の様な存在と比べれば頭が回る。

 誰かの指示通りに動くといった行動もできるだろう。

 何かを運んでいた様なところを見ると、この監獄の看守か何かをまかせられて居たのかもしれない。


「グブブブ!」


 やはり、ある程度の知能はあった様だ。

 俺を見た途端に一目散に逃げ出していた。

 俺が目指していた反応とは無関係なので、特別追い掛ける必要もないだろう。

 それに、反応がある場所には想像通りの存在が居ることが既に見えている。

 質問はそいつにすれば良いだろう。


「ふ。神族ともあろうものがこうも易々と捕えられておるとはな」


『…………え? 誰?』


 この世界を創造したと思われる神族――赤い髪に赤い2対の翼を持つ小娘――そいつの腕が頭上に持ち上げられ、手首の部分を鎖でまとめて縛られていた。

 そしてその小娘へと、天井を抜けて赤い光が降り注いでいる。

 ずっと探していた神族で間違いがない。


 声の響きが特徴的なのは神族特有の翻訳系の魔法の効果だ。

 これが使えない神族と会話する場合は、こちらがわざわざ向こうの言語を使用してやる必要があるが、これが必要な神族は得てして階級も低く愛想が悪い。

 その点この小娘は、世界を造る才能は別にして多少上位の存在なのだろう。


「お主がこんな世界を造ったが為に迷惑を受けておる者よ。しかし、お主を拘束した相手は別の神族か何かか?」


 神族とて一枚岩ではない。

 直接やり合う事は無いにせよ、小競り合いくらいはある。

 黒竜を捕えたアーティファクトといい、世界創造が可能な神族を捕える事ができる存在など、より上位の神族くらいしか思い当たらない。


『そっか、貴方も……。悪魔の王、そいつが面白い実験場だって……。初めて造った世界だったのに……』


 この世界――と言っても、こんな模倣世界ではなく基となった世界のことだ。

 そこには、世界を渡る竜種、世界を造る神族、反転世界からの来訪者、そして世界から意図的もしくは自然に生まれてくる魔物の4種類の生物が存在している。

 この魔物の中で、最も知能が高いのが悪魔と呼ばれる種族となる。

 時にアーティファクトまで使用し、時に上位種である神族や竜種まで圧倒する事がある。


「実験場……なるほど。確かにあやつも同じだったか」


 この世界は崩壊して元のコアへ還元する流れが強すぎる。

 それが影響して世界を渡る事ができなくなった訳だが、当然それは俺個人だけの話でもない。

 黒竜――この世界に閉じ込められたあいつが、悪魔の王に目を付けられてアーティファクトを使われたとするならば、立場が違えばその対象は俺だった可能性もある。


「さて、であればさっさとこの世界をなんとかするのだな」


 世界を造った神であるならば、終わらせる事も可能だ。

 それを縛っているのが小娘の手首に巻き付く鎖だと思われる。

 恐らくこの鎖もアーティファクトだろう。


 黒竜と違い小娘は抵抗しないので、取り外す事は容易だろう。

 まず、目の前の格子を力付くでこじ開けて牢屋へ侵入する。

 そして肝心の鎖、恐らく大丈夫だとは思うが、触れることで何かしらの効果が発動しないとも限らない。

 念をいれて慎重にいくのも面倒なので、手っ取り早い方法――鎖を固定している壁に打撃を放ち粉砕した。


『ケホッ、ケホッ……。えと……ありがと』


 束縛から解放された神族の小娘は、手に巻き付いたままの鎖をふりほどき始めた。


『私……竜種って怖いものと思っていたけど、そうじゃなかったみたい。黒竜さんの頼みも叶えないと……』


 一般的に神族と竜種は相容れないと言われている。

 だが、別に敵対している訳でもないし、自由を邪魔さえされなければ俺としてはどうでも良いところだ。

 黒竜はどう考えていたのかは不明だが、この小娘となんらかの意思疎通はしていたらしい。


『よし、取れた! えと、じゃあとりあえず……』


 小娘が腕の鎖を完全に取り外すと、このフロア全体へ干渉し始めた。

 その効果により、周囲にあった監獄は崩れ始め、代わりに何かの研究設備の様なものが現れ始める。

 神族がよく使う、自分の管理している空間を召喚する技だ。

 過去にも見たことがあるので特別驚きもしないが、その空間の傍らに想像外のものが鎮座していた。


「なんだこれは。――――まさか、あの黒竜によるものか」


『はい。私があの黒竜さんに頼まれたこと……。それは、この卵を悪魔の王から守ることです』

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