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46話 『戦況』

「む、こやつは――――」


「きゅい。きゅきゅきゅ」


 やけにやる気を出してゴブリンへ食い下がっているこのスライムは、小娘が連れていたスライムの片割れだ。

 何かを捕食する事に躍起になる通常のスライムと違い、小娘の肩でのんびりとしていた様子からすると、大きさもゴブリンへ食らいつく行動力もまるで違うが、同一個体である事は見れば判る。


「おい、暴食スライム。ショウゾウ先生は無事なのか?」


 そのスライムに対し、意外にもハヤトが声を掛けた。


「きゅ、きゅきゅい」


 その質問へスライムも明確に答えたところを見ても、どうやら既に顔を合わせていた様だ。


「流石ね」


「……え、すごい……」


 ナズナと小娘がそんなハヤトを見て驚いている。

 何を驚く事があるのかとも思ったが、どうやら魔物と意思が通い合っている事に驚いている様だ。

 確かに、魔物が発する意思は伝わりにくい。

 動物のように唸るだけの魔物も多くいるが、それなりの知能を持つ魔物であれば、意思を通わす事はそこまで難しくはない。

 確かに只の人間がそれを成し遂げてしまうのは異常かもしれないが、ハヤトであればもはや今更だろう。


「しかし、これは大丈夫なのか? 手が出せないんだが」


 コア同士をぶつけ合うしか選択肢しかなかったのは、つい先程の状況だ。

 いざ、魔物が1体参戦したからといってそれで戦況が変わるとは思えないのは、それは自然な発想に違いない。

 にも関わらず、状況が拮抗しているのは不思議に思う事だろう。


 だが、その答えはハヤトがスライムを称した名前にもある。


「お主、こやつを[暴食]と呼んだな。なるほど、であるならば容易に説明が付く。しかし、小娘よ。そうなると皮肉なものよな。信頼度よりも節制さの方が反転するとは。思ったより懐かれて居なかったのではないか?」


 反転世界に移動する際、その個体の持つ最も強い概念が反転する。

 魔物が軒並み小娘に襲い掛かるのも、小娘が本来魔物どもを使役していた為だろう。

 その中で、行動を共にしていたのが2体のスライムだ。

 そこまで贔屓にしていた割に、反転したのはそこではなかったのは物悲しい限りである。


「え、そんな……」


「で、結局どういうことだ?」


 小娘は我の言葉に愕然としているが、ハヤトにとっては些細な事実の様だ。

 次の行動を決めるため、具体的に何が起こっているのかを知りたいのだろう。


「なに、簡単な事だ。そこな異常個体よりもこやつの方がコアの適性が高かったという事だ。コアに呑まれている様な奴と比べれば当然とも言えるがな」


 元々、ゴブリンが持っている青のコアは、この暴食スライムが持っていた物だ。

 守護者ではなく管理者となる程であったならば、十分コアの衝動を制御できていた筈だ。

 それが、スライムらしからぬ節制さによるものだとしたら、それが反転した今の状態では、あまりにもコア側にとって相性が良すぎる。

 ただコアの衝動に完全に身を任せるゴブリンの身体は都合が良いだろうが、コアの衝動と同じ方向の衝動を持つスライムの身体の方が居心地が良い筈だ。

 

 コアを奪うのであれば、直接的な力比べが必要であったが、コア自体が動くのであればその限りではない。

 結果、スライムへとコアの主導権が移り、今のゴブリンの特性も失われる。

 そうなると、次の変化は自然な形で訪れる。


「グ、グ、グギィァァ――――」


「きゅきゅい」


 案の定、スライムは完全にゴブリンを飲み込み、そのサイズを小娘の肩に乗る程まで小さくさせた。


 これで完全に討伐完了だ。

 問題が解決した様なので、ようやく小娘からこの世界の話が聞けそうだ。

 元々、こんなバグった世界にしようとした訳ではないのだろう。

 そこには何か理由があった筈だ。


「さあ、アルにカグラ。コアも無事取り戻せたみたいだし、この後は――――」


「きゅ、きゅお? きゅわわ? ――――きゅおおー。きゅお?」


 ハヤトが聞きたいのも同じ話だろう。

 だが、その問いかけはスライムからの動揺の声で止まった。

 その声とは裏腹に、スライムからはハヤト、小娘、そしてこちらへ向かってきているナズナへと触手が延びている。


「まさかまだゴブリンの意識が残って……」


「いや、違うな。これは……」


 ハヤトの懸念も判らなくない。

 スライムの触手は、今にもこちらを攻撃するかの様に漂っている。

 そして、それは間違いではないだろう。


 この青のコアの衝動は、恐らく他者を食らい自らの力を増やすものだ。

 その衝動をこのスライムが制御している訳ではない。

 元々抱えていた衝動であるが為に、それが増大したとしてもその扱いに慣れているだけの事だ。

 

 そのため、暫くすればその抑えも限界を迎えるに違いない。

 だが、既に触手は今か今かと動き出そうとしている。

 思ったよりも限界は近い様だ。


「ふむ、なるほど。どうやらこやつには逆の意味でコアの適性が高すぎたようだ。ここは一度魔核とやらに還元させ、お主が――――」


 ゴブリンの時と同じ方法を提案しようとした矢先、地面から何かの気配を感じて中断する。


「地震? こんな時にか?」


 いや、そんな自然災害ではない。

 もっと物理的な物であり、そしてこの反応は経験した事がある。


「ごめん……なさい。どうやら、時間切れ、みたいです」

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