45話 『麻痺』
「――――っ!」
ハヤトの呻き声と共に意識が戻る。
意識と共に復活した視界には、薄暗くなり始めた空が映っている。
恐らく急な衝撃でハヤトの意識が飛んだのだろう。
それに連れて我の意識も途切れてしまった。
だが、その時間は一瞬だ。
ただ弾かれて地面へと倒れるまでの時間だけに過ぎない。
だが、一向にハヤトは立ち上がろうとしない。
「くっ。なんだ? 身体が痺れてうまく動かない。アル、状態異常にはならないんじゃなかったか?」
辛うじてハヤトが上半身を起こす様子より、ハヤトの指摘通り麻痺に掛かったとみて良いだろう。
その要因は当然、ゴブリンの一撃だ。
そこに状態異常の効果が乗っていた様だ。
しかし、その攻撃は我がステータスボードで防いでいた。
いや、正確には完全に防げていなかった。
これまで問答無用で全てを弾いていたステータスボードであるが、ここで初めて押し負ける――下手すると破壊されそうなところを上手く力を逃がす事で回避していた。
但し、衝撃を殺しきれず、状態異常の効果も防げなかった。
世界そのものを象徴するステータスボードに対し、そこまで干渉できるとなると、世界に干渉するコアを利用したとみて間違いが無い。
そういえば、吹き出した赤い物質、その先端には青く光る何かが付いていなかっただろうか。
そうであれば、今のハヤトの状態はかなり幸運と言える。
麻痺はしているものの、大きな怪我もしていない。
我ながら上手く回避したものだ。
「それは、神のシステムの下でのことだ。コアを使用したものでは我でも効果を受ける。むしろ件のガードすら貫くところを我が防いでやったのだ。感謝されこそあれ、非難される覚えなぞないぞ」
ハヤトの言葉に反論すると、なるほどとでも言うようにハヤトは頷いた。
大方、ステータスボードが弾かれる様子でも目撃していたのだろう。
「そうか。それはすまなかった。だが、どうする? 正直打つ手が無いんだが」
早々にハヤトは現状把握を終えると、具体的な次の行動へと思考が移っている。
この切り替えの早さには慣れてきたが、そのハヤトでも現状は八方塞がりであるとの結論らしい。
それはそうだろう。
なんとか倒したとしても、復活が一瞬であるのならば倒しようが無い。
そもそも、麻痺した身体、弾かれた[破魂]、更に強化されたゴブリンの姿を見ると、戦いようもないのだが。
復活したゴブリンの姿は、言わば赤いスライムだ。
これまでは、肉塊として別の魔物の身体が混ざったキマイラ状態であったが、今はその全てが溶け込んでいる。
恐らくコアの制御ではなく、コアの衝動に身を任せた結果なのだろう。
こうなると、残す方法はコア同士をぶつけるしか方法が無い。
コアの衝動そのものと、つい最近コアの制御の取っ掛かりを見つけた我であれば良い勝負と言ったところだろうか。
コアの制御としては小娘の方が実績はあるが、こやつは絶対何かをやらかすのでとても任せることはできない。
「もはや、我が殲滅するしかあるまい。そこな小娘では力不足だ。されど、コア同士の奪い合いになるが故、ここら一帯は焦土となるであろう。それを心して我を解放せよ」
撃つのは当然ブレスだ。
ただそれだけではなく、コアの衝動を直接上乗せさせる。
その方法は過去に見た人間やゴブリンを真似る。
つまり、コア自体を物理的な盾や槍として使う方法だ。
ならば、原理的には散弾の様にブレスに混ぜることもできる筈である。
ただ、この場合耐えられると我のコアが奪われる可能性がある。
なので全力、射線上に居るだろう人間達は気の毒だが、世界を守るには必要な犠牲だろう。
「ギルルルル」
「ひっ……」
スライム化したゴブリンが再び動き出した。
その矛先はどうやら小娘の方に向かっている。
つまり、最初に復活した時と同様、ハヤトを障害と思わず、ハヤトを無視して元々の目的である小娘へ向かう動きだ。
「悩んでる暇はないか……」
ハヤトが首に掛かっているアミュレットを掴んだ。
例えハヤトであっても、今回に限れば我の提案以上の案は無い様だ。
しかし、この行動には逆の意味で驚かされた。
これまでは我の想像を超える行動に驚かされたが、今回は我の提案を呑む様だが、それはブレスに巻き込まれる人間の被害を許容する事にも繋がる。
普通の人間であればそこに躊躇いが乗るものだが、ハヤトにはそれが一切無い。
いや、躊躇はしているが思い止まる事が一番の悪手であると理解し、瞬時に判断して覚悟した結果なのだろう。
「ギルル!?」
そんなハヤトの覚悟であったが、不意に中断された。
何が起きたか。
それはゴブリンの様子から一目瞭然だ。
スライム化したゴブリンの身体は赤かったが、その後ろ半分の色が青になっている。
何もゴブリンの色が変わった訳ではない。
そこに青い色の別の魔物――本当のスライムがそこに食い付いた結果だ。
そのスライムは、周りで様子を見ていたバグモンスターの1匹――そう思ったのだが誤りだ。
抱える雰囲気にどこか見覚えがある。
そしてそいつが誰かというのは直ぐに思い至った。




