44話 『許可』
「ん?」
ハヤトが一瞬驚き、[破魂]の軌道が変わる。
その結果、その攻撃を回避しようとした肉塊の端に命中し、肉片が作り出された。
そして、小娘の赤い光により消滅する。
「アル、今俺の身体に何かしたな」
「躱されそうだったのでな」
ゴブリンの反撃に対するステータスボードによる防御は、我ながら完璧だ。
ただ、その制御を繰り返す内にステータスボード自体を細かく調整できる事に気づいた。
それを応用することで、今のように小さなステータスボードでハヤトの腕を押して若干の軌道変更の様な干渉が可能になっている。
何も、直接身体の制御を奪い取って動かしている訳ではない。
「そうか。じゃあこの調子で頼む」
軌道を変えた原理までハヤトが理解したのかは不明だが、すんなりと身体を操作する許可が降りた。
まぁ、これまでの付き合いで判明したハヤトの性格ではそうだろう。
この許可により、防御に続いて肉塊を削る攻撃も完璧になる。
唯一完璧ではないのは、我の力が完全には届かない範囲だ。
「キィィィィ!」
「……あ」
何も、闘う相手はゴブリンの肉塊だけではない。
周囲のバグモンスターはほぼ戦闘に巻き込まれて倒されているが、それでもある程度は残っているし、遠くから様子をみる程知能がある奴らや、外からやってくる奴らもいる。
その内の一体のハーピィが隙をみて小娘へと襲い掛かってきていた。
そのハーピィは、外から新しくやってきた個体のようでバグってはいない。
その程度であれば本来小娘でも十分対処できる程度の筈だが、今は警戒できていなかった様で、不意打ちを喰らいそうになっている。
「『電光』!」
だが、そのハーピィは横から来た雷魔法により消し飛ばされた。
想定外の一撃だが、その声と魔法の内容より、その魔法を放った人物は一人しかいない。
「ナズナ! いいのか? もう」
「ダメね。動かないもの、左手」
校舎の――体育館と呼ばれていた建物の入口には、ハヤトが呼んだ通りナズナが左腕を垂れ下げたまま立っている。
その左腕は、ゴブリンが1度復活した際に放った魔法の衝撃で骨折していた筈だ。
今は動かないにせよ骨折しているようには見えないのは、何らかの治癒能力を持つ人物が居るらしいので、それで一時的に治したのだろう。
そんな中途半端な状態で治療を切り上げて戻って来たのは、ヒルデ、カナタ、ヤスタカが負った怪我の方が大きいので、そちらの治療を優先させた為だと思われる。
「『電光』!『水砲』!『電光』!」
そのナズナであるが、ダメと言いつつ的確に魔法を放ち、バグモンスターを削っていく。
その行動を見るに、ナズナは状況を一目見てすべき事を見極めたのだろう。
ハヤトとナズナ、やはりこの2人の人間は状況への適応力がずば抜けている。
ハヤトは直感的に、ナズナは理論的と方向性が真逆だが、この2人が揃えば我の想定を超える案が出てくるので実に興味深い。
◇ ◇ ◇
「そろそろ、終わりが見えてきたな」
どれだけの時間が経っただろうか。
我にとっては一瞬でも、人間の時間にしては長かった筈だ。
にも関わらず、ハヤトとナズナはそれぞれ肉塊をバグモンスターを、致命的なミスをすることなく削り続けた。
ミスどころか、段々なれてきたのか小娘のフォローをする程の余裕まで生まれている。
その結果、肉塊は元のゴブリンの身体程度まで小さくなっている。
「よし、じゃあ一気に決めるか」
その言葉と共にハヤトの動きが変わった。
これまでは肉片を削り取る動きであったが、真っ直ぐ縦に振るい肉塊を中央から2分割にした。
更に横に一閃して2分割。
だが、それだけでは終わらない。
縦に横に斜めにと大鎌を振るい、その都度肉片の数が増えていく。
増えたところから肉片同士が融合して元に戻るので不毛な攻撃にも見えるが、実際はそうでもない。
その理由は、ある程度以下のサイズになった肉片は限界を迎えたのかそのまま消滅している為だ。
その消滅速度は、小娘の力に頼るものより速い。
それでも倒し尽くすまではそれなりの時間は掛かるだろう。
それでもハヤトの勢いは止まらない。
ミスもしない。
我もわざわざ干渉する必要も無くなっているし、小娘も肉片が逃げない様に力を周囲に展開しているがそれも意味を成していない。
恐らくハヤトの中で勝利までの手順が見えているのだろう。
そして暫くの後、最後の一閃が決まった。
それがゴブリンの罠ということもない。
完全に倒しきった。
その証拠に緑色の魔核が目の前に落ちている。
「あれか。確か触れば良いだけだったな」
「うむ。後のサポートは我がしよう」
もっとも、ハヤト程の要領の良さであればサポートも何も必要ない様に思える。
ゴブリンとコアの相性が全く合っていないので、コア自身も管理者を探しているであろう。
そして、ハヤトがコアから生じる衝動に呑まれるイメージが湧かない。
上手く制御できるだろうから適性も十分ある筈だ。
後はハヤトが魔核に触れるだけ、それで全てが解決する。
その筈だった。
「む。いかん」
魔核の異変を感じてハヤトに声を掛けるが既に遅かった。
魔核に触れようと勢い良く飛び出したハヤトは止まらない。
仕方がないので、その指先の先へステータスボードを配置する。
その直後、魔核から赤い物質が吹き出し、ハヤトを弾き飛ばした。




