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43話 『膠着』

「あれ、居ないな。どこ行った?」


 ハヤトは小娘に協力を約束させると、我の言葉を疑うことなくゴブリンへの追撃をしようと3階から飛び降りたが、そこにはゴブリンの姿は無かった。

 だが、コアの反応は直ぐ近くにある。


「向こうだ。だが、どうやら遅かった様だな」


 小娘の使った我でも未知の魔法、そいつは思いの外強力だったらしい。

 ゴブリンも回復できず致命傷だった様で、緑色の魔核へと変化している。

 だが、その反応から既に再び復活する間際の状態だ。


 それでも、ハヤトは一気に魔核へ向けて走り出す。

 復活直後なら或いはという考えかとも思ったが、ハヤトはその道中で地面に落ちていた物を拾い上げる。


「ふむ。神器[破魂(はこん)]か。確かに有用かも知れぬな」


 ハヤトが拾ったのは、ヒルデの代名詞――白い死神として呼ばれる所以とも言える大鎌だ。

 神器はアーティファクト程の能力を持つが、アーティファクトとは造られ方が違う。

 古代に竜殻を加工して造られたアーティファクトとは違い、神族がその魔力を惜しみ無く使って精錬したのが神器だ。

 その意味では神器こそアーティファクトと呼ぶ方が相応しいのかも知れないが、元々前者には特定の名称が無かったのだから仕方がない。


 そんな違いはあるが、効果としてみればそれ程違いはない。

 そもそも、アーティファクト自体がそれぞてで効果が違うので、ジャンル分けすることも難しいのだが。


「グギギギギギギギギギギィィィ!!」


 とにかく、目の前でゴブリンが復活した。

 復活はしたが、既にそいつはゴブリンと呼べる様な姿ではなかった。

 復活する際に更にバグり、もはや肉の塊としか言えない物に成り下がっている。


「はっ!」


 ハヤトもその姿に驚き、警戒もしていただろうが、そこで動揺することなく神器を斧の様に振り下ろした。


「グ、グギッ、ギギギギッ」


 その斬撃は、肉塊に当たる直前に停止する。

 それは、ありとあらゆる防御シールドが展開されている為だ。

 ゴブリンが肉塊へと変貌する代償に全スキルの同時展開が可能にでもなったのだろう。


 だが、相手はあの死神の神器だ。

 弾き返せなかった時点で、またハヤトの攻撃力に耐えられた時点で、その先の結果は明らかだ。


「グギャァァ!」


 あらゆる防御を突き抜けて大鎌の刃が肉塊へと突き刺さる。

 この神器――[破魂]は、その名前の通り肉体ではなく魂に作用する。

 一度振るわれてしまえば、大抵の防御は貫通し、魂を刈り取る事ができる代物だ。

 そのため、簡単に回復もできなくなる。


 だが、ハヤトが斬った箇所は肉塊が盛り上がる様にして再生してしまった。


「効果がなかった? いや、使い方が悪いだけか」


 ハヤトの感覚は正しい。

 本来[破魂]で斬られた傷の再生は困難な筈だが、相手は既に肉塊だ。

 魂による肉体の定義が曖昧であるため、傷を負った部分を吸収したり、別の肉片で傷口を埋める事もできてしまうのだろう。


 であればどうするか。

 簡単な話、傷ではなく切断してしまえば良い。

 結果、魂の総量が減り弱らせる事が可能だ。


 ハヤトはそれに思い至ったのだろう。

 既に斬り刻もうと攻撃を開始している。

 ゴブリンは復活時のバグでまた更に強くなった様だが、神器を持ったハヤトが復活時の隙に畳み掛ける事で、事は優位に動いている。

 肉塊は防御ではなく回避をメインに行動を変えているが、それも完璧ではなくいくつかの肉片を生み出す事に成功している。


 だが、予想外にも斬り取られた肉片、こいつらは単独で動ける様だ。

 更に本体に戻ろうとする行動を取ろうとしている。

 そのため、結局は膠着状態を解消できておらず、これを打ち破るにはもう1手必要な訳だが。


 そんな事を考えている中、ハヤトも対処しきれず、肉片が遂に本来への合流を果たす。

 となる直前、その肉片が赤い光に包まれる様にして突然消失した。

 どうやら、残りの1手がようやく合流した様だ。


「ふん。来るのが遅いの。まして力を使い過ぎて消耗していると見える。今の威力では本体には効かぬぞ」


「ご、ごめん……。回復が、追い付かなくて……」


 ゴブリンを1度倒すに至った赤い光、我も未知のその力を使ったのは、当然小娘だ。

 ハヤトの行動が速かったのでそれなりの時間が経った様に感じるが、実際は然程時間が経っていない。

 その時間程度では、小さな肉片を消失させる程度の出力を維持する程度の魔力しか回復できなかったと見える。

 しかし、それで最低限必要なピースは全て揃ったとも言える。


「いや、それだけあれば十分だ。少しずつ削っていく。アル、サポートよろしく」


 少しずつ削るとなると、倒しきるまでに長い時間が必要になる。

 そして、その間1つのミスでもあれば途端に崩壊する綱渡り状態、修羅の道となるだろう。

 だがどうやら、ハヤトは躊躇することなくその道に踏み込む様だ。


「言われるまでもないわ」


 恐らくハヤトは、神器を持つことで唯一ゴブリンより勝っている攻撃に集中するだろう。

 より、ハヤトが我に期待するサポートとは、防御全般の事と思われる。

 命に関する事象を丸投げとは、全くよくぞそこまで我を信用したものだと思うが、それもまた面白い。

 期待するならば期待以上に全力で応えてやろうではないか。

 

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