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40話 『変貌』

「ハヤト? 驚いた(ハルノア ワ)カグラが居ると思った(クナミナ ワ カグラ)


 相変わらず言葉が足りない。

 まぁ、言いたいことはなんとなく判るので、それをハヤトへ伝えてやる。


「お主を見て驚いたと。後は、あの小娘の気配を感じてこっちに来たらしいな」


 ハヤトはゴブリンを倒した行動について聞きたそうにはしていたが、言葉が判らない事でそれは呑み込んだ様だ。


「とにかく、お陰で助かったみたいだ。で、多分お前が捜している相手は向こうじゃないか?」


 言葉が伝わらない事は百も承知で、ハヤトは対面の建物の3階を指差す。

 どうやら、ハヤトが小娘の居場所に心当たりがあるという予測は合っていた様だ。

 現にそこには見覚えのある顔が見える。


「カグラ……」


 ヒルデもその存在を確認し、会いに行こうと翼を広げる。

 だが、相手である小娘は、慌てて窓を開け、小娘らしからぬ大声で叫んだ。


「避けて!! ヒルデ!!」


 何をという疑問が生じる前に、空に飛び上がっていたヒルデに紫色の雷が落ちる。

 また、それと同時にハヤトが背面に展開したステータスボードに水弾が衝突した。


 結果としてその判断は正解であり、ステータスボードには水魔法が着弾していた。


「同時に魔法を使用しおったな」


 そんな攻撃をいきなり実行したのは、本来そこに居る筈の無い存在だ。

 何せ今倒したばかりであり、身体が崩壊する瞬間も目撃している。


「ゴブリン……リスボーンしたのか。こんなに早く」


 ハヤトの言うようにゴブリンがすぐそこに立っている。

 但し、ヒルデが切り落とした首が無い。

 正しくは、無いのではなく切断された状態で宙に浮いている。

 それが理由なのかは不明だが、これまで1つずつしか使用していなかった魔法を2つ同時に使用していた。


「まずいな。これは対処方が無くないか?」


 魔物は倒されると魔核となり、エネルギーが回復すると復活する。

 その復活速度が尋常では無い場合、実質的に倒すことが不可能になってしまうだろう。

 ただ、これだけならば不可能という程でもない。

 例えば、倒さずに拘束してしまう方法、もしくは倒した後にすぐさまコアの制御権を奪い取る方法だ。


 尚、ゴブリンの復活が早い理由は明らかだ

でもある。

 エネルギーの自然回復ではなく、コアから直接エネルギーを引き出したからに違いない。


 実際、これまでは不器用ながらゴブリンが制御をしようとされていたコアのエネルギーが、今は制御を手放したのか好き勝手に溢れている。

 制御を失敗して暴走させるよりも安定していると言えるが、あまりの出力の為、付け入る隙が無くなっている。


「いや、それ以前の問題だ。そもそも勝てぬやもしれぬぞ」


「グギギギゲギギゴァァァァァ!」


 そんな最悪な予測も直ぐに現実になった様だ。

 ゴブリンがなんとか自分の意識を守ろうと、適正が無かろうがコアを制御していたのだろうが、それが失われた。

 その結果起きることは想像の範囲内だ。


「来るぞ、気をつけよ」


 その直後、ゴブリンの腹部からゴブリンの物とは違う太い第3の腕が生え、その腕で突然ハヤトに殴りかかってきた。

 ある意味不意打ちではあるが、我が割り込むまでもなくハヤトがステータスボードで防いだ。


「鬼の腕……まさか、鬼に身体を乗っ取られて……」


 ハヤトはゴブリンの様子を見て咄嗟に色々な可能性を考えているらしい。

 どうやらハヤトには生えてきた腕の持ち主に心当たりがある様で、そいつが現れた可能性まで考えている様だが、コアの様子を見る限りそれは考えすぎだ。


「いや、それも違うな。更に来るぞ」


 ここは単純に他の魔物――いや、バグモンスターと同様にゴブリンがバグったと考えるのが自然だ。

 その証拠に今度はゴブリンの背中から翼が生えた。

 補食した魔物の姿に変化するのであれば、変化はまだ止まらないだろう。

 そして変化すればする程、予測困難な行動が増える。


 案の定、ゴブリンは今度は3つの魔法を同時発動し放った。

 だが、その魔法はハヤトの横を通り、背後へと飛んでいった。


 それにハヤトが焦り、ゴブリンから視線を外し振り向く。

 あまりに不用心であるが、それぞれの魔法がどこに飛んだか考えれば判らなくもない。

 代わりに我がゴブリンの警戒をするが、どうやらその必要はなかった様だ。


「どうやら我等は眼中にないようだ。嘗められたものよな」


 3つの魔法でハヤト以外の3人、ナズナ、ミフユ、カナタと呼ばれていた全身甲冑の人間を倒したゴブリンは、隙だらけだったハヤトすら無視し建物の3階へと張り付いている。

 そこに居るのは小娘――カグラだ。

 ゴブリンはその小娘への接触に邪魔となる可能性のある3人を片手間に払っただけなのだろう。


 ここで問題なのは、片手間では倒せないとみて攻撃しなかったハヤトでさえ、無視してしまった事だ。

 無視するという事はその程度の驚異しかないと判断しての事だろう。


 バグると桁違いに強くなる。

 そのバグは、どうやら限界突破したハヤトの強さすら超えてしまったらしい。


 今では悪魔の尻尾や獅子の脚等が更に生えた怪物へと変貌したゴブリンは、小娘が展開した障壁をなんとか食い破ろうとしている。

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