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32話 『把握』

「さてな。過去には何かしら呼ばれた事もあったが、専ら最近は竜王と称号のみで呼ばれておった」


 聞こえないだろうと思ったが、目の前の少女の表情や、隣の少年の感嘆する声から察するに、不思議と我の声が聞こえる様になったらしい。


 ともすると、本当のトリガーは中央にある宝石でも覗き込むことか、同じ範囲に一定時間居ることとか、そんなものだろうか。

 とは言え、今は聞こえる様になった事実だけあれば良い。

 トリガーに対する検証は後回しにしても支障はない。


「んー、ドラ吉とか? 先輩、なんか良い案ないっすか?」


 なんと呼ばれようが一向に構わないが、あまりに安直な名前はごめん被りたいところではある。


 小柄な少女から再び視界がハヤトのものに移るが、ハヤトはじっとアミュレットを見ながら何やら考え始めているらしい。


「なぁ。お前は神とは仲が悪いのか? そもそも異世界――反転世界でいいのか? それってどんなところなんだ?」


 どうやら、ハヤトはただ名前の候補を考えていたのではなく、状況の把握を優先した様だ。

 我の疑問もまだ晴れていない訳だが、向こうの疑問を先に晴らしてやるのも良いだろう。


「ふむ。そうさな。その言葉で説明するのであらば、神族と竜種は異世界の住人であり、この世界を参考に神族が作ったのが反転世界よ。向こうからすればこちらが反転世界だがな」


 こちらの世界を基準で考えればそうなる。

 本来なら、それがどんなところであっても関係ない話ではあるが、過去にも何度か似たような干渉は起きていたのだろう。

 その際の話が、この世界に神やら竜、もしくは魔物の姿が伝承として残っていたのであれば、ハヤト達が素早く適応できたことにも納得できる。


「それ自体はなんら問題はなかったのだが、あの未熟者め。更なる世界を中途半端に作った挙げ句この世界へ落としおって。――――まぁ、我をエネルギー源に使用などとするから制御に失敗して当然だがな」


 結局、小娘が何をしたかったのかは判らない。

 少なくとも、今の状態を造り出したかった訳ではないだろう。

 制御もできない癖に、我の持つコアを含めてコアから無理やり力を引き出そうとするからそうなる。

 我がコアの数の誤りに気付いて特異点に飛び込んでいなかったどうなっていたことやら。


「あの隕石は貴方を核とした異世界そのものだったという事かしら」


 あぁ、コアの話はそこまで深く知らないのか。

 だからエネルギー源と聞いて、竜種自体の力と考えたと。

 しかし、隕石――この世界の人間にしてみればそう見えるだろうが、それが異世界の岩石の塊であるとする見解は間違いないだろう。


「隕石などは知らぬが、我を中心に反転世界の地面が大きく削られたのは事実であろうな」


 当然コアがあった100層にも及ぶ我が居た迷宮も丸ごと範囲に含まれている。

 我が吹き飛ばした岩石の量を考えれば、それよりも数倍の範囲を抉り取ったものと思われるが、その程度であれば可愛いものだ。

 下手をすれば、基盤世界そのものがこの世界へ落下してきた可能性すらある。


「それなら、隕石がそのままぶつからず直前で弾けたのはなんでだ?」


「ふむ。それは我が目覚めた際に邪魔となった寝所を吹き飛ばした故であるが……。不思議な事に外部から働き掛けがあった様にも思える」


 我の功績であると主張したいところではあるが、それをした切っ掛けは謎の声の主であったし、膨大に生じた筈の岩石の欠片をなんとかしたのも同じ声の主だ。

 とても堂々と語れるものではない。


「ダンジョンは崩壊すると消えるのか? 人がやられた時みたいに」


 おや、これは何の話だろうか。

 これがこの世界の常識だとするならば、それは白い板と同じ扱い――つまり、小娘の仕掛けた世界のルールの一部だろう。


「それは知らぬ。こちらの世界では人間は死んだら消えるのか? それについては神の世界の理だろうよ」


 当面の質問は出尽くしたのだろうか、ハヤトは矢継ぎ早に質問するのを止め、じっと考え始める。

 そして、ハヤトの後を引き継ぐように、今度は長髪の少女の方に動きがあった。


「なるほど、これは少し整理する必要がありそうだけれど、とりあえず名前は決まったわね」


「あぁ、そうだな。お前の名前はアルマゲドンだ。長いからアルとでも呼ぶことにする」


 今のやり取りでどう名前が決まったのかは不明だが、ハヤトが出した名前に皆納得した様な顔をしている。

 アルマゲドンは確か世界の終末を示す人間の言葉だったはずだが、そのままその言葉と結びつけて名付けたと言うより、何か別についていた名前を持ってきたという印象を持った。


 しかし、我が驚いたのはその言葉の意味ではなく言葉の響きの方だ。


「アル……アルとな。ふむ、そういうこともあろうな。好きに呼ぶが良い」


 かつて呼ばれた名前より1文字少ないが、響きとしては聞き馴染みがある。

 その1文字適当に付けられたので、前の2文字にこそ意味はあったのだろう。


「あ、そうだアルマ君。早速だけど手伝ってくれないっすか?」


 小柄な少女より新たな1文字を付けられたが、まぁその辺りは気にする程でもない。

 まだ我が聞きたい内容の話にまで進んでいないが、その前に我にしかできない事でもあるのであれば協力してやるのも吝かではない。

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