30話 『伝説』 (side:『封竜』)
意識が戻ってきた。
恐らく、少年が意識を取り戻したのだろう。
つまり、あの状態から少年はなんとか命を取り留めたという事だ。
そして、視界も開く。
あくまで少年の視界であるが為に自由に動かせる訳ではないが、少年もどこであるかを確認する為に辺りを見回し始めた。
白い清潔そうな布の壁に囲われた、小さな部屋、にも関わらず天井の高いこの場所は、人間の使う簡易的な病院の様な場所だろうか。
そして、この部屋にはもう1人の人物が居た。
少年が寝るベッドにもたれ掛かる様に座っているのは、少年と一緒に居た長髪の少女だ。
その少女へと少年は声を掛ける。
「なぁ、ナズナ。起きてるか?」
少年が声と共に右手で少女を揺すると、その少女から反応があった。
「……ん? あぁ……起きたのね」
「あぁ、すまん。また、心配させた」
あの高さから地面に落下したにも関わらず、心配レベルで済んだのかと疑問を感じたが、どうやら実際に少年は特に痛みを感じるでもなくしっかりと身体を起こしている。
「いいえ、謝る必要はないわ。不思議な事に貴方は傷一つ負っていなかったもの。意識を失なったのは驚いたけれど、どう? どこか痛くない?」
どうやら、地面への激突を食い止めたとか、後から治療したとかではなく、本当に傷を負わなかったらしい。
運が良かったで済む話でもないので、何かしらの理由があることだろう。
「特になんともないな。無傷なのは無意識でガードでもしていたのかもしれない」
「違うな。それは、我が制御してやったのだ。我の功績を奪うでないわ」
少年が勘違いしていた様なので、訂正してやる。
それに我が気になるのはブレスのエネルギーに巻き込まれた時ではなく、地面に衝突した時の事だ。
一緒くたにされたらその要因の話は進まない。
「は?」
どうやら声は届いた様だ。
ただ、当然我の姿は見えない様で、少年は周囲を探し始める。
だが、我がどこに居るか、今の発言で判った。
我の声は下方、少年の胸元から聞こえてきた。
自分の声が自分以外から聞こえてくるなぞ不思議な感覚であるが、どうやら、視界のみならず聴覚まで共有しているらしい。
「そこね」
少女が少年の胸元を指し示す。
「まさか……これか?」
少年は少女の指摘に従って、首に掛けた鎖を引っ張り、その鎖に繋がっている物を取り出した。
その形を見た途端、急激に記憶が甦った。
かつて見た4つの同じ形状のアイテム。
その内の2つは劣化品でどんな効果があるか判らない代物だったが、残り2つは後から調べてみるととんでもない代物だった。
何せ、何事も干渉できない物質として最上位である筈のコア、それを管理者ごと封印できてしまう代物だ。
何かの勘違いかとも考えていたが、今の我の状態がそれが真実であることを証明している。
「左様。しかし、何故に反転世界にこんな伝説級のアイテムが存在しているのだ。怒りを通り越して驚きの方が強いぞ」
過去にその2つを所持していたのは、ここに居る少女と良く似た人間だ。
その人物が少女の先祖か何かだとするのであれば、ここにその1つがあるのは特別不思議ではないのかもしれないが。
「伝説級……」
何か新しい情報が得られるかもと思ったが、どうやら、この少年は効果も知らず身に付けていたらしい。
封印しようとして使った訳でも、封印ができるとも知らなかった様だ。
少々拍子抜けだが、それならば我の知っている情報を伝えてやる。
「いかにも。封印のアミュレット――神の効果を受け付けぬ我であっても抗えぬその効果、実在すら疑っておった」
我の中にコアがあると知ったのは、小娘と出会ってからだ。
それにより、コアの管理者になる事がいかに難しいかを知った。
自分の属性と相性の悪い属性のコアの管理者になれないし、なったとしてもそれぞれのコアから湧き出る衝動を制御できる適正がなければならない。
それを知ったとき思い出したのが、先程考えた人物の存在だ。
彼女は2つのコアを持っていた。
1つが2つになった程度と当事者でなければ考えるかもしれないが、そこには大きな隔たりがある。
それだけ特殊な人物だと考える事もできるが、彼女は他にも不思議なアイテムを持っていた。
意識の込められたアミュレット。
しかもそれが2つだ。
もし仮に、その2つの意識の方がコアの管理者であったのならどうだろうか。
ただ、この場合はコアをアミュレット内に封印している様なものだ。
果たしてその様な代物が存在するのか、こちらの考えの方が異常なのではないか、そんな事も考えていた。
しかし、その存在を仄めかすかの様な伝承だけが伝わっていた。
基盤世界が最初に造られた時の創世記の様なものだ。
そこに描かれるのは1人の創造神であり、巨大な魔物を拳の一振りで吹き飛ばし、その魔物の心臓から基盤世界を、その他の身体から幾つかの模倣世界を造ったというものであるが、あまりにも突拍子がないので神族の間でも太古の創作物であると考えられている。
ただ、創作するにあたってもベースになるものはあったのだろう。
その創世記には数多くの道具が登場するが、類似の効果を示すアーティファクトが僅かに見つかっている。
例えば空を駆ける方舟とその制御を司る2つの黒い鍵等だ。
そして、その中には竜神と言う、神族なのか竜種なのか不明な存在を封印したとされるアミュレットも存在している。




