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27話 『爆音』 (1999年3月22日)

 どこか懐かしい様な気配を感じて半分目が覚めた。

 身体は未だ眠っているが、頭だけ意識が戻っている。

 そんな微睡み状態なので、直ぐにまた眠りへと落ちるだろう。

 だが、眼を開く程度の余裕はある。


 左瞼を持ち上げて、気配がした方向を見る。

 その方向は今いる坂道の下方だ。

 そこは、坂道の始まりでもあり、この学校の正門でもある。

 その場所に1人の人間が居た。


 青年と言うには若く、ギリギリ少年の範疇に収まるであろうその人間は、正門から外に出歩こうとしていたのだろう。

 ただ、何かを確認でもしようとしたのか、上半身だけ振り返っており、結果として我と目があった。

 しかし、その人物は多少気になりはするものの、感じた懐かしさとは一致しない。

 誰かと雰囲気が微かに似ていたのを勘違いしたとか、その程度だろう。


 そういえば、今の少年はトレントにブレスを撃った後に坂の上から我を見ていた少年ではないだろうか。

 もしそうならば、この世界に何かしようとしている人間の一人かもしれない。

 ただ、生憎と何かをする前にこの学校から離れていくようだ。

 興味が薄れたので、再び眼を閉じて眠る事にする。



  ◇  ◇  ◇



 ゾワ――――。


 なんとも言えない感覚で目が覚めた。

 恐らく、何かこの世界で大きな変化が起きた。

 その証拠に遠くから聞こえてくる魔物の声が段々と騒がしくなってきている。

 これまで大多数の魔物は、ある一定の距離から近づいて来なかった。

 それは、小娘辺りが戦艦かコアを使用して周囲に結界を張っていたからだ。

 元々中に居た魔物や、空を飛べる魔物には無関係ではあるが、それ以外の魔物を押し除けていた。

 恐らく、その結界が消滅した。


「これは、コアの管理者でも変わったか?」


 この学校に存在するコアの数は我の物を除いて2つだ。

 1つは出力量からみても小娘の物。

 もう1つは元々の位置関係から、青いスライムか緑色のスライムが持っていたコアのどちらかだ。


 とにかく、そのコアの出力が不安定になっている。

 これまでの安定感から考えると、無理やり力を引っ張り出しているような粗雑さがある。

 コアに触れた事がない何者かが管理者になったと考えるのは、強ち間違いではないものと思われる。


「キャンキャン!」「グルルルル!」「ガウウ!」


 魔物が流れ込んで来る勢いに押されたのか、元々内部に居たグレーウルフの群れが我の前に現れていた。

 

「しかし、何故集まって来るのか」


 これまでは我への警戒心から近づいて来なかった魔物どもであるが、今はなんとしてもこの道を通り抜けようとする意思がみえる。

 だが、本来魔物にはその様な意思は働かない筈だ。

 ある程度の知能があって警戒心があれば、かのグリフォンの様に普通は逃げる。

 それでも押し通ろうとするのであれば、その先に目的がある筈だ。


「コア――いや、小娘辺りか。――――あぁ、なるほど。つまり反転した訳か」


 反転世界とは、文字通り元の世界と反転した世界だ。

 正確には、この世界の一部を反転させて流用する事で安定性を得たのが元の世界でもある。


 とにかく、反転世界と基盤世界を行き来する場合、何かが反転する。

 反転するものは物理的なものではなく概念的なものとも言われているが、、その存在における最も重要な概念が反転するらしい。


 そこで思い出すのは、向こうの世界であったこの世界から来た青年だ。

 その青年は、魔物――いや、データ化したモンスターを使役しており、いずれ魔物はモンスター化すると言っていた。

 その実感は無かったが、小娘が連れていたスライムも魔物らしからず懐いていたことから考えると、モンスター化とやらが既に済んでいたのかもしれない。

 

 そしてこの世界にどこからともなく現れている魔物、こいつらがもし世界から自然と湧いてきているのではなく、わざわざ小娘が召喚でもしているとしたらどうだ。

 更に、使役されて従うとされる最も肝心な部分が反転したとするならば。


「「「きゃいん」」」


 とにかく、警戒しているにも関わらず、無鉄砲に飛び掛かってきたグレーウルフを尻尾の一振で弾き飛ばす。

 弾かれた3匹は、坂の橫のガードレールを越えて落ちていく。

 その先は、崖の様な急な斜面になっているが、ここは坂の下の方であるが為にそこまでの高さはない。

 それで死ぬ事はないだろうし、ダメージが少なければ再び舞い戻ってくる事も考えられる。

 倒した方が数が減るのではないかとも思うが、今は効率を重視した。

 何故なら――――、


「ウオオン」「ワオン」「ギュルルル」「グガー」「グワワワワ」


 新たに5匹のグレーウルフが現れていた為だ。



  ◇  ◇  ◇



 魔物の唸り声が鬱陶しい。

 トレントの騒音も鬱陶しかったが、今は近隣に居るありとあらゆる魔物の唸り声が爆音を奏でている。


 そんな魔物を退け続けてどれだけ経ったか。

 時間自体は大した時間ではないが、止まらぬ無為の特攻への対処は面白くもなんともない。


「グガアアアアアア! 低級な魔物どもよ、力の差が判らぬか!」


 目の前に残った、他の魔物より異形で耐久力のあった魔物を一気に吹き飛ばす。

 これで一旦の区切りとなったのか、後続の魔物は居ない。

 ただ、代わりに別の集団がそこに居た。

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