16話 『異変』
いや、違う。
アーティファクトが崩壊しているものと思われたが、崩壊後に黒い光となり1ヵ所に集まっている。
まるでそこから何かが生み出されるかの様だが、それは実際そうなのだろう。
竜殻――先程聞こえてきた単語であるが、竜殻とは竜種の抜け殻の様なもので、精神の入っていない肉体だけを指すものだ。
また、アーティファクトはその竜殻から過去の神族が造り出したと言われている。
つまり、上手く作用させる事で逆転させることも可能であると思われる。
ただ、わざわざ竜殻を造ってどうしようという話なのだが。
「あれ? なんか慌ただしいね」
ナギの言うように4人の様子がおかしい。
想定外の何かが起きているのは明らかなので、再び聞き耳を立ててみる。
「…………なんで闇属性なんだ? 聞いてた話と違うぞ」
「…………つまり、別から干渉されたという事ね」
「でも、そんな存在はどこにも……あっ」
ナギ達の母親の対面に居た青年、その人物もアーティファクトの方に向いていたが、何かを切っ掛けに周囲を見渡し始めていた。
その視線が不意にこちらを向き、そして止まっている。
「あ、バレた! 逃げよう、スズ。……スズ? どうした?」
「…………なにこれ? なにかおかしい」
呆然と立ち尽くしているスズが見ているのは、ナギがスズに渡したアミュレットだ。
見た目的には変化はない。
ナギ達の母親が使っていたアミュレットの様に力を感じる事もないし、封印されている力が解放されている様子もない。
持っているスズだけが異変を感じているのであれば、触れるという行動がトリガーにでもなるのだろうか。
「ガウ…………グッ!」
何の気なしにスズの持つアミュレットに触れてみた瞬間、スズが何を感じているのか理解した。
これは、竜種であるおいらであるから理解できる感覚だ。
世界を渡る感覚――世界から抜け出す為に別次元の軸に乗ろうとする前兆の様なものとなる。
単純に考えればアーティファクトの機能なのだろうが、先程見た様に起動はしていないし、もっと上位の強制力の様なものも感じる。
そんな事を考えていたからだろうか。
背後から迫り来ていた驚異への反応が遅れた。
黒い影の塊――そいつから伸びる爪がスズとおいらを切り裂こうとしていた。
「危ない!」
黒い影からの攻撃、それがスズやおいらに当たる事はなかった。
唐突に別の存在が後ろからスズをおいらごと飛び付くように押し倒した為だ。
実施したのは先程こちらの存在に気づいた青年だ。
「ごめん、大丈夫? 怪我は無いかな?」
青年はスズの心配をしているが、スズが怪我をしている様子はない。
ギリギリ回避できた訳だが、その驚異が完全に消えた訳ではない。
黒い影は、その顎を開きスズへ噛みつこうとしている。
「『電光』!」
ナギ達の母親がどこかから取り出した杖から、強力な雷魔法を黒竜へと放った。
また、弓を持った青年も目に止まらぬ早さで光る矢を放ち続けている。
だが、黒竜は多少煩わしそうにしているものの、そこまでダメージになっている様には見えない。
黒竜――闇属性の竜種であるが、そいつがどこから来たのかは明白だ。
アーティファクトの山から造り出した竜殻、そいつが何故か動き出して攻撃をしている。
『ナギにスズ、なんで2人がこんなところに……』
『しかし、原因は判明したな。2つなら共鳴で済むが、3つであれば反発が起きる』
どこからか、脳に直接響く様な声が聞こえてきた。
出所はナギ達の母親の方からだが、その存在は見えない。
恐らくこれまで聞こえてこなかった無音の声の主なのだろうが、それを確認する目の前の事に対処しなければならない。
「グオオオオオオオオ!」
人間が使うにはあまりに強力な雷魔法や魔法の矢の連撃を浴びながら、黒竜はその猛攻に堪え、代わりに口許に黒い光を集めている。
竜種のブレスだ。
こんな場所で回避できる訳もないのでこちらも撃ち返すしかないが、向こうのブレスは強く、そして収束が速い。
こんな幼竜では軽減すらできるか怪しい上に、そもそも間に合いそうにない。
案の定、黒竜は既に発射体勢になっている。
「防ぐ。隠れて!」
絶体絶命の状況であったが、青年が右手を黒竜の方に翳すと、そこには緑色のキューブが現れる。
また、ただ現れるだけではなく薄く広がり、盾の様に展開された。
そんなもので、竜種のブレスは防ぐのは厳しいのではないかと思わなくもなかったが、次の瞬間衝突した黒竜のブレスは、意外にもその緑色の盾を貫くことはできず、押し合いの状況となった。
なんでそんな事が可能なのか――いや、それは既に理解できている。
青年が取り出したキューブ、あれはコアだ。
神族が世界を創造するためのアイテム――竜殻を起源とするアーティファクトよりもより上位、伝説級のアイテムだ。
それを正当に使うのではなく、あまりに上位の物質であるが為に破壊不能である特性を悪用することでブレスを防いでいる。
あまりに罰当たりで神族にはとても真似できない使い方であるが、なるほど、エネルギー効率的にはとても利に叶っている。
人間とは面白い発想をするものだ。




