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13話 『帰宅』

「あ、βデバッガーだ。隠れて!」


 ナギの言うように袋の中へ首を引っ込める。

 それに合わせてナギが袋を背負ったので身体が激しく揺さぶられるが、それは既に何度も経験しているので慣れたものだ。

 だが、今回はそれだけでは終わらないらしい。

 βデバッガーと呼ばれた誰かが要因だと思われるが、その相手が近づいて来た。


「君。家は近くか? なんでこんな裏通りに一人で」


「あ、家がすぐそこなんです」


 これは嘘だ。

 ナギの家まではもう少し掛かると言っていた。

 裏通りを通っていたのは、おいらが気付かれるリスクを減らす目的だった様だが、それが逆に目に付いた様だ。


 恐らく、βデバッガーと言うのはその装備具合から見て魔物との戦闘要員なのだろう。

 本来、反転世界に魔物は居ない筈だが、実際には居るわけだからそれに対抗する職業があるのは自然ではある。

 本当は何故、そして何時魔物が現れる様になったかをナギに聞きたいところだが、例のごとく意志疎通ができていないのでその辺りの理由は良く判らない。


「そうか。しかし、アラートに気付かなかったか? つい先程もここら辺に動物系のモンスターが目撃されたらしいから直ぐに帰るように」


「あっ、それは鞄に……。とりあえず直ぐ帰ります」


 アラートと言うのは、ナギが持っている肩掛けの鞄から微かに聞こえてくる音の事に違いない。

 おいらを袋に入れる為に、本来袋に入っていた物も全て鞄に詰め込んでいたので、その重要そうな道具も間違えて仕舞ってしまったのだろう。


 βデバッガーの発言からしても、アラートは魔物の出現によるもので、このβデバッガーはそいつを討伐する為に来たものと思われる。

 こういった仕組みを生み出すのは神族よりも人間の方が上手い。

 魔法や翼のように独力でどうにかできる力が無い分、集団でなんとかする知恵が染み付いているのだろう。


「なんだったら、家まで一緒に――――」


「ブオオオオオ!」


 βデバッガーはナギが困りそうな話をし始めたが、どうやらそれを上手く躱す必要も無くなった様だ。

 βデバッガーからは見えないようにそっと袋の隙間から外を覗くと、道の影から巨大な毛むくじゃらの魔物が姿を表していた。


「ワイルド・ピッグか。この程度なら俺だけでも。君はあっちに逃げなさい」


「はい。頑張って下さい」


 βデバッガーは魔物と対面し、ナギはそこから離れる様に駆け出して行く。

 βデバッガーとやらがどうやって魔物と戦うのか気になるところだが、ナギはその戦場から離れていってしまう。

 留まる要請をしても伝わらないし、そんな危険性がある場所に留まらせるつもりもない。

 ただ、気にはなるので袋から首を少し出して振り返る。


 その結果、ナギが角を曲がって戦闘が見えなくなる寸前、遠目ではあるが液化した地面へと沈み込んだ魔物の姿が辛うじて見えた。

 恐らく土魔法だ。

 やはり、この世界の人間には魔法を使える人間も居るらしい。



  ◇  ◇  ◇



「さ、着いたよ」


 βデバッガーと別れてからは、見つかるリスクより呼び止められるリスクを考慮して大通りを通る事にしていた。

 その道中では何人かのβデバッガーとすれ違っている。


 恐らくは、そのお陰だろう。

 明らかにβデバッガーではない一般人もそれなりに出歩いており、買い物やらなんやら普通に生活している人間も確認できた。


「ガウ」


 ここまでは、袋の中から覗き込む様にしていたがもう良いだろう。

 袋から完全に首を出し、着いたとされるナギの家を眺める。

 白く、それなりの年数が入った建物であるが、大きさは近くの家と比べれば比較的大きめである。

 だが、その建物はここまで来た他の建物と同様に、窓等には板の様な物で補強してあるせいか、少々無骨な印象を覚える。

 そんな観察をしていると、ナギはその家の扉に向かい、鞄からゴソゴソと鍵を取り出した。


「さて、ただいまーっと」


 ナギは家の中に向かってそれなりの大きさで声を掛けた。

 その様子からすると、誰かが中に居るのだろう。

 中から誰かが出てくる気配はないが、ナギはそのまま右側の部屋に入っていく。


「あ、お帰り、お兄ちゃん。って、なにそれ」


 恐らく居間だろう。

 そこのソファに横になっていた少女がナギへ声を掛ける。

 ナギから聞いた話、そしてその相手の呼び方からして、ナギの妹に違いない。

 そして、その妹の目線はどう考えてもおいらに向いている。


「アルクだよ。スズは無理だって言ってたけど出来たよ、テイム」


「テイムってあの飴玉で?」


 スズと呼ばれた少女は、訝しげな目でおいらを見てくる。


「そう。とりあえずご飯の用意をするから、相手をしてあげてよ」


 ナギはおいらをテーブルの上に置き、鞄を床に置くと、奥の部屋へと行ってしまった。

 恐らく調理場の様な場所になっているものと思われる。

 ナギは父親と母親の話もしていたが、ナギが調理をするのであれば、少なくともその2人は今は居ないのだろう。


 とにかく、袋から完全に抜け出して、少女へと向き合う。


「貴方――アルクだっけ? テイム、されてないよね?」

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